「フランスのアカデミー賞」と言われる第33回セザール賞で作品賞・監督賞・脚本賞・新人女優賞(ハフィーザ・ヘルジ)の4部門を獲得した
『The Secret of Grain』。原題の 『La Graine et Le Mulet』 は、「穀物の粒と魚のボラ」という意味。穀物はチュニジアの国民的料理クスクスで、ボラを入れたシーフード・クスクスがこの作品の鍵となります。
舞台は南フランスの小さな港町。チュニジアから移住してきて35年間にわたり造船業で働いてきた61歳のスリマン(ハビブ・ブーファレス)は、仕事の質にこだわるあまり雇い主のお荷物となってしまい、ある日突然、解雇されてしまいます。体も衰え、離婚した妻や6人の子供たちにも軽くあしらわれ、せっかく持ち帰った魚のボラに感謝してくれるのは今の恋人とその娘リム(ハフィーザ・ヘルジ)だけ。いったいこれからどうすればいいのかと考えるスリマンですが、リムのアイデアで古い船を買い取り、離婚した妻や子供たちと共にクスクス料理のレストランを開くことを決心します。最初は銀行に融資を断られ、市役所には保健所の許可がいると言われ、たらいまわしにされて意気消沈するスリマン。しかし、ようやく開店にこぎつけ、たくさんの招待客がやってくると、それまでの心配はどこへやら、それまでバラバラだった家族が1つのことに向かって協力し合い、予想以上に良い感じ。しかし、肝心のクスクスをサーブする段階になって、予想外の問題が持ち上がり・・・。
フランス映画とは言え、この映画には一般的に知られる "おしゃれでグルメなフランス" はまったく登場せず、チュニジア系フランス人の大家族、それも決して裕福とは言えない人々を中心に話が展開していきます。もうのんびりと老後の生活に入ってもいい年齢のスリマンにすれば、子供たちのためにと家族でフランスに移住し、一生懸命に肉体労働をして養ってきたのに、誰にも感謝されず、家族はバラバラ。「子育てに失敗したかも」なんて気持ちもわいてくる。自分らしさを取り戻せるのは、いたわってくれる恋人と、本当の父親のように慕ってくれる娘と過ごす静かな時だけ。それでも心機一転、崩壊しそうな家族をつなぎとめるため、みんなでレストランを経営するという賭けに出てみたら、予想外の問題が起きてしまい、自分がその解決を迫られてしまう。でも自分にはその問題を解決するキャパはない・・・。
そんなふうに人生や家族についてとても大切なことを伝えようとしている作品なのですが、同じくセザール賞で作品賞・監督賞・脚本賞・新人女優賞の4つの賞に輝いた前作
『Games of Love and Chance (原題:L'Esquive)』(2003)とは大きく異なり、それぞれのシーンが言いたいことを観客に認識させてからも実に延々と続くのにはゲンナリ。テーブルを囲んでたわいもない日常会話を大声で延々と続ける大家族、わめき続けるヒステリックな女、延々と子供を叱る母親など、それぞれ半分以下の長さでも監督の意図は十分に伝わり、余計にインパクトを与えることができたはず。さらに、クスクスがべったりと張り付いた口の中や唇から垂れる唾液、女の涙と鼻水に濡れた顔、ぶよぶよの脂肪がついて突き出た腹など、できることなら願い下げしたいものが長時間にわたって大画面で映し出されるのもかなりキツイ。次第にその騒音と煩雑さに頭痛さえしてきたのですが、もしかして、これは逃れられないわずらわしさやしがらみというものを観客に疑似体験させるためなのかも。それがスリマンにとっては家族であり、自分が背負っている文化なんですね。でも、窮地を救おうと現実的な対策を講じるのは、スリマンとは血のつながっていない女性たち。それなら、「家族」とはいったい何なのでしょうか。見終わった後に、いろいろと考えさせてくれるアブドゥラティフ・ケシシュ監督。いや〜、それにしても長かった!彼の次の作品は、それぞれのシーンを効果的に生かすよう編集されたものであることを願います。(た)
【ジャンル】 ドラマ
【監督】 アブドゥラティフ・ケシシュ
【出演】 ハビブ・ブーファレス、ハフィーザ・ヘルジ 他
【上映時間】 2時間31分
写真©TF1 Films Productions, Pathe Renn Productions, Hirsch
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