
石井式国語教育研究会は、教育学者の故石井勲(いしい・いさお)博士が提唱した、幼児期における言葉の教育方法。柔軟な頭脳を持つ幼児期の早い段階から、漢字の読み方や意味を覚えさせ、漢字交じりの日本語表記に親しむことによって、自然に語彙を増やし、日本語を正しく深く理解する力を育てることを目的としている。漢字を通して言葉の豊かな子供に育てることによって、高い読書力や集中力を身につけることを可能にし、「豊かな言葉」の力が子供たちの豊かな心を育てることにつながると高く評価されている。
■『ラーニング・パーク』 内にある教室
ここシアトル地域では、ベルビュー市とレドモンド市の境目あたりにある宇和島屋ベルビュー店から近い 『ラーニング・パーク』 が、現在ではワシントン州で唯一この石井方式国語教育研究会が開講されている学校だ。『ラーニング・パーク』 の講師でもある経営者のネイブ美枝子さんは、2児の母。今は大学生と高校生となっているお子さんたちが幼い時は、ご主人の仕事の関係でアメリカと日本に2年おきに住むという生活だったため、海外で年齢相応の日本語力を子供達に習得させることの難しさを身をもって知っている親でもある。同じような環境でがんばっている子供達やそれを献身的にサポートしている親の手助けになればと、石井方式国語教育研究会の講師の資格を取得し、個人的に教室を開いて教えるようになったのが2003年。その評判は口コミで広がり、受講希望者はどんどん増えていき、そして2007年9月、当時ネイブさんの教室に子供を通わせ、7年間にわたり幼児教育現場に携わってきたウィルソン亜希子さんとともに、『ラーニング・パーク』 を設立することとなった。
■「まずは漢字から」
「まだひらがなもわからない子供に漢字を?」と多くの親が最初にそんな疑問を抱くかもしれない。しかし、「ひらがなは、一字一字には何の意味もありませんが、漢字は言葉そのものを表す字、または言葉の意味をあらわす文字(視覚言語)。幼児にとっては興味の持てる漢字のほうがずっと覚えやすいのですよ」と、ウィルソンさん。また、読みと書きは時期をずらして学習するのが自然であるとする「読み書き分離教育」は石井式漢字教育の大きな特色でもある。「幼児にはまず読みかたを先に教え、自然に頭の中にその字の図形が浮かんでくるようになってから、字を書かせます。すると、短時間できれいな字が書けるようになります。曲線の多いひらがなより、直線の多いカタカナや漢字のほうが書くにしてもやさしいのです」。
■クラスの内容
『ラーニング・パーク』 では、1歳から小学6年生までを対象に、年齢にあわせたクラスが開催されており、1クラスは5人までという少人数制。今回取材した4歳児クラスは1時間半のクラスで、「起立、礼」という挨拶に始まり、カレンダーや季節の話題という、毎回同じ段階を踏んで進められていく。「子供の力を侮ってはいけませんよ」とおっしゃるネイブさんは、「赤ちゃんでも、興味があるものは、大人が驚くほど理解して記憶しているものですから」と言われるだけあって、子供達にも、大人に話すような言葉遣いで、敬意を持って対応しているのが新鮮だ。「柚子」「鶺鴒」「川蝉」など、漢字が書かれたカードをみんなで一緒に声を出して読んでいくが、子供には難しいのではと思える漢字もあるものの、「三人寄れば文殊の知恵」、「父母の恩は山より高く、海より深し」と、4歳の子供が論語や俳句、ことわざをすらすらと口にしている様子には驚かされる。カードに書かれた字は大きく、インパクトのあるものにして刺激を与え、漢字に触れることができる環境をより多くすることにより、海外に住んでいるという不利な状況を少しでも補ってあげたいという思いが伺える。
このような繰り返し行われるカリキュラムを終えると、次はその日のテーマ。例えば「お正月」というテーマは「独楽まわし」「羽つき」「双六」「凧揚げ」と大きく漢字で書かれたカードを声に出して一緒に読んだあと、それぞれの言葉を先生が解説していくが、「独楽まわし」は「独楽」という漢字の書き方、その由来を身振り手振りでの説明を受け、身を乗り出し好奇心に満ちあふれた子供たちは用意されている独楽に触らせてもらう。独楽まわしを実際に体験するというう遊びで興奮した子供達はまた漢字へと誘導され、「さて、これはなんと読みますか?」「独楽まわし〜」と子供達の大きな声。みんなで声を出し合って、正解が出ると「よくできましたねー」と先生が盛り上げてくれる。「漢字教育というと難しく聞こえますが、無理やり書き取りをさせて漢字を覚えさせるのではなく、子供の興味を引き出してあげるのです。決して押しつけて単純に知識を覚え込ませるものではないんですよ」と、ネイブさん。集中は持続し、先生との対話を楽しむ子供達の好奇心は衰えることなく、授業はテンポよく進んでいくのは見事である。
同教室に通う子供達は日本の子供達に比べ漢字に触れる機会が少ないため、少しでも日本の環境に近づけようと、教室内には「本棚」「時計」「靴箱」「窓」など漢字の表示があちこちに貼られている。また、少しでもたくさんの日本語に触れて欲しいとネイブさんが集めた絵本の数々はネイブさん自身が朗読をして録音したカセットと3冊の絵本のセットとして生徒に貸し出されています。ネイブさんはクラスを終えた後、「子供達の吸収能力は無限ですから、自由にのびのびと、可能性を引き伸ばしてあげてください」と、エクササイズでも終えたかのように額に汗をにじませながら、自信のあふれる笑顔で語ってくれた。 |