米国西海岸の北西部にあるシアトル。そこから車で30分ほど南下したデモイン市の海の上に、ハイライン・カレッジの小さな校舎があります。今回は、ジャングルシティのインターン・田部井愛理さんが、海洋生物研究施設でもあるこの海の上の小さな校舎で受講した海洋生物学の授業の魅力をお伝えします。
このクラスを取ろうと思った理由
海へ遊びに行った時、「Highline College」と書かれたこの校舎を見つけ、こんなところに学校があるのかと興味を持ちました。卒業するのにサイエンスのクラスを3つ受講する必要があったので、この校舎で授業を受けることができる Marine Biology 110を選びました。
クラスの雰囲気
25人ほどのクラスでしたが、そのうち留学生は2人、日本人は私だけでした。海洋生物について初めて勉強する生徒たちがほとんどだったので、先生が1つ1つのトピックに関して丁寧に説明してくれました。疑問に思ったことはすぐに質問するなど、とても積極的な生徒が多かったです。
ほとんどがグループワークなので、毎回の授業でメンバーと会話をするのが必須でした。お菓子を使った実験など、面白い実験がたくさんあったので、楽しくコミュニケーションを取ることができました。
課題について
週に1回、3時間におよぶ授業で、毎回、先生からその日の実験内容のレクチャーを受け、そしてグループで実験を行います。その後、グループごとに実験結果を発表し、最後に先生からクラスへのコメントと、その実験でわかったことについてのレクチャーを受けます。
実験内容はさまざまで、校舎が浮かぶピュージェット湾で発見されたアシカの解剖や、海水を汲んでプランクトンを識別したり、簡易水中モーターを組み立てて走行実験をしたり、水中を想定した人間の最大肺活量の計測をしたりしました。そうしたことに限らず、ダイバーでもある先生が、海に関するさまざまなことを教えてくれました。トピックが毎回変わるので「今日は何を学べるのかな」と、わくわくしました。
でも、クラスが週に1回しかなかったので、その分、課題がたくさんありました。
文章を読んで、その記述に関する生物の部位や要素に分けてぬり絵のように色を塗っていくカラーリング・シート、海に関する新しい発見を掲載したニュースについてのディスカッション、さらに、海の生態系に関する書籍の一部を読み、2-3枚ほどのエッセイを5本仕上げました。さらに、中間試験、期末試験、魚の一般名称と学名を実物と照らし合わせて暗記するテストがありました。
その他にも、実際に南極で撮影された写真をもとに、ペンギンの数を数え、南極のペンギンの生態系について調査をしているプロジェクトに協力し、データを送るという課題もありました。
印象に残っている授業
アメリカにある水族館のオルカ・ショーのため、オルカが乱獲され、ショーの訓練中に事故で亡くなったオルカのトレーナーの話や裁判、さらに水槽などの慣れない環境で傷ついたシャチの様子を追ったドキュメンタリーを見てクラスでディスカッションをしたことがとても印象に残っています。
ピュージェット湾は海洋生物に恵まれ、特にオルカがたくさん生息していることで有名です。今はオルカの捕獲は法律で禁止されていますが、昔は水族館へ送るオルカをこぞって捕獲しに来ていたそうです。オルカをピュージェット湾で見たことがあるので、乱獲されるシーンに胸が痛みました。
先生が配った資料に目を通し、事故の原因などを分析し、クラスで話し合った結果、犬が飼い主のサインを間違えてしまうことがあるように、オルカも間違えてしまったケースもあれば、水槽でストレスがたまり、普段とは違う激しい抵抗をした、という結論に至りました。水族館にいるオルカの体は傷や老いが目立っていたことが、大変な環境であったことを物語っていました。
この授業で、生物がありのままの環境で生きて行くことの大切さを学びました。
この校舎の魅力
ピュージェット湾に面した校舎で、その海にまつわる題材が授業で取り上げられることですね。校舎に隣接している水族館 MaST Center Aquarium は、250種類以上もの海洋生物を保有しており、それらはすべてピュージェット湾に生息しています。
魚の名前を覚えるテストは、水族館で実物の魚を目で見て覚え、先生が魚を指差し、その名前を書くという内容でした。貝類の場合は、実際に触って確かめてみました。教科書に載っている写真と実物はまったく違うので、実際に目で見て得る情報が大事なのだと気付きました。
廊下の天井には、11.58メートルものコククジラの骨格標本が吊るされていて、迫力満点。毎週土曜日の午前10時から午後2時まで、夏は木曜日の午後4時から7時まで、無料で公開されているので、興味のある方はぜひ立ち寄ってみてください。イベントも開催されていますよ。
この授業で学んだこと今後にどう生かせるか
海洋生物に関するクラスを取ったのは初めてでしたが、日本の大学では学べないことだったので、とても新鮮かつ貴重な体験でした。生物の専門用語がたくさんあり、最初は戸惑いましたが、授業で大事なことはしっかり押さえていたので、何度も読み返していると頭に入るものですね。先生がいつも楽しそうに教えてくれていたこともあって、苦手分野という意識を持つことはありませんでした。
これはどのクラスにも言えることですが、わからないところをわからないままにしておくと、自分だけ知らない状態になってしまい、授業に遅れを取ってしまったり、テストで点数を取ることが難しくなってきます。なので、理解が曖昧なところがあれば、授業後に、必ず先生に質問して間違いを減らし、その結果、積極性をアピールすることができました。また、クラスで黙っていては、グループワークのメンバーに迷惑をかけてしまうので、自分の意思を伝えることがとても大事でした。「ここがわからない」と言うと、理解してくれて、教えてくれたり助けてくれたりする場面がたくさんありました。実験の準備などに積極的に取り組んで貢献することでチームワークがスムーズになりますね。おかげで積極性が身についたと思います。
海の生物は、私たちにとって欠かせない存在。それらと共存するために、どうすれば良いのか、自分でも考えるようになりました。節水をしたり、台所のシンクになるべく流さないようにしたり、そういう小さいことが少しでも水質汚染を防ぎ、助けになるのだと思いました。
シアトルは自然が豊かで、そこに住む海洋生物も豊富なところ。それにまつわる文化も知ることができて、ますますシアトルが好きになりました。
先生からのコメント
この Marine Biology というクラスは、一般的に、科学者を目指しているわけではない生徒や、科学のクラスを最近受講したことがない生徒が受講するものです。たいていのサイエンスの入門クラスは事実を山ほど教え、現実世界とかけ離れたものになりがちですが、私は教科書に集中しすぎず、他の方法を採用しようとしています。その一例が、色を塗るうちに動物の体について詳しく学べる大学レベルの塗り絵の本です。また、水族館で飼育されている海洋生物を使い、それぞれの特徴を自分の目で見て知ることも大切にしています。タコがとてもクールな理由や、ピュージェット湾のグイダックの密漁などについての書籍を読んでまとめ、評価を行うことで、知識をもっと大きな世界にあてはめることができるよう工夫しています。