アジアの音楽をオーケストラの生演奏で紹介するシアトル・シンフォニーの特別公演 『Celebrate Asia』 が、1月末の日曜の午後、ベナロヤ・ホールを沸かせた。第8回となった今年は、スタンフォード大学のオーケストラ指揮者/教授であるジンドン・カイ氏(Jindong Cai)が、けれんのない丁寧な指揮で、楽しくわかりやすい解説を交えながら公演をリードした。
プログラムが絶妙だった。ロジャース作曲 『King and I (邦題:王様と私)』 序曲に始まり、中国で活躍したユダヤ系ロシア人アヴシャロモフロ作曲による『北京のフーチュン』。そして本年度作曲コンペティション優勝作品である、中国人作曲家 Shao Zheng が中国をテーマとした 『Bai Chuan Fu Hai(百川赴海)』 と、イラン出身の Alireza Motevaseli による民族楽器を用いた『サントゥーンとアコーディオンのためのファンタジア』。いずれも3分から10分の楽曲で、バラエティに富んだ新旧の小品だ。そして、第一部を締めくくったのは2008年北京オリンピック開会式で演奏されたイェ作曲のピアノ協奏曲 『Starry Sky』。若手ピアニスト、チャーリー・オルブライトによる叙情溢れる演奏と、美しくも壮大な楽曲に、スタンディング・オベーションが起きた。
第二部は現代音楽の牽引者ドゥンの新作、パッサカリア 『Secret of Wind and Birds』 で始まった。風の音や鳥の声をオーケストラで再現しようとしたドゥンのもう一つの試みが、観客も動員し、スマートフォンを使って効果音を鳴らすこと。幕間に専用アプリをダウンロードをした観客が、指揮者の合図に合わせて音を出すと、客席のあちこちから鳥の声が響く。そこにオーケストラの音を加えて、早春の森、夜の闇、躍動する水などさまざまな自然風景を、音楽で浮かび上がらせた。終盤では、指揮者カイ氏が異国の地で母国の歌を耳にした時の自身の体験を語り、中国と韓国の伝統歌を通して望郷心を盛り上げ、アンコールに応えてアメリカの愛国歌 『America, the Beautiful』 を演奏した。
公演前後にロビーで行われたパフォーマンスも、例年通りストリートフェスティバルさながらの賑わいを見せた。特に、コンサート開始直前に行われたノースウェスト・カンフー学校によるライオンダンスに目を奪われた観客がライオンの後を追うようにホール内に導かれ、コンサート後にはその余韻がまだ残っている間に、シアトルを拠点とするプロの太鼓奏者 『ちきり』、そして 『太鼓の学校』 が力強い和太鼓のリズムで観客をロビーに誘導するという演出は素晴らしく、さまざまな民族衣装姿の観客がそれに華を添えた。
掲載:2016年2月 取材・文:渡辺菜穂子 写真:Brandon Patoc