2016年10月にシアトル美術館で開幕したイヴ・サン=ローラン展 『The Perfection of Style』。その特設店で展示販売されているジュエリーを手がけるデザイナーの一人は、青森県出身のレイデン中村奈美子さん。さまざまなショーなどを通じて自らジュエリーを販売する傍ら、シアトルのファッション界を牽引するデザイナーたちとのコラボも展開する中村さんに、お話を伺った。
手作りのジュエリーが起業のきっかけに
幼少の時から手先を使うことが大好きだったので、将来はクリエイテイブな仕事をしてみたいと思っていました。ジュエリー・デザインを始めたきっかけは、シアトルのダウンタウンで同じ日に3回、見知らぬ方々からその日に着けていた自作のジュエリーにコメントいただいたこと。夫の後押しもあり、ビジネスにしてみようと思いました。
ローカルの個性的なデザイナーとのコラボが刺激的
ここ数年、シアトルのファッション界の第一線で活躍しているデザイナーたちとショーなどでコラボさせていただく機会が増えています。そんなデザイナーたちの中には、シアトルに本社のあるアラスカ航空の制服をデザインすることになった Luly Yang さんや、先月のベルビュー・ファッション・ウィークの独立デザイナー部門で優勝した Devon Yan さんなどがいます。個性の強いデザイナーさん達とのコラボは、毎回、自分にとって新たなチャレンジですが、身近な彼らの活躍がモチベーションになり、躊躇することなく自分のデザインを伝える大切さを実感しています。
私は多種類のジュエリーを制作するのですが、今回シアトル美術館に扱っていただいた作品は、美しいノースウエストの自然や自然エネルギーにインスパイアされたデザインでした。イヴ・サン=ローランのように、時代を超えてタイムレスに美しいと思える定番デザインを作っていきたいです。
東京で服飾レースのデザインの仕事をしていた頃、同業者の方達とパリに出張し、イヴ・サン=ローランが21歳の若さでデザイナーに抜擢されたクリスチャン・ディオール本社を訪問しました。それは強烈な体験で、「本物のクチュールを作り出す世界にいつかデザイナーとして携わってみたい」という思いを抱かせてくれました。当時は自分がジュエリー・デザインをすることになるとは思ってもいませんでしたが、今回、イヴ・サン=ローラン展に参加させていただけたことに、不思議なご縁を感じています。
イヴ・サン=ローランの作品は、クラシカルで優雅、それでいてとても斬新な初期の作品も素敵ですが、モンドリアン・ルックに見られる代表作のように、アートとファッションの融合や、彼の人生全てがデザインに繋がってしまうような、自由な想像の世界に惹かれます。彼の作品を見ていると、私もジュエリーだけでなく、いろんなジャンルのデザインをしてみたくなります。
カジュアルなシアトルも人口増加でファッションが変化
美しい自然が身近なシアトルはカジュアルなファッションの街なので、ジュエリーも小ぶりな物が人気なようです。私は長年、カジュアル・ジュエリーも作っていますが、気軽につけられる繊細なカットの天然石デザインは常に人気があります。アメリカの方はやはり、大ぶりでインパクトのあるものを好む傾向にありますが、その一方で、シンプルなメタルのジュエリーも人気のようです。最近の特徴としては、お客様にとって特別な意味を持つ一点ものの作品のご要望が増えてきていること。大量生産のジュエリーが蔓延する中、他にはない、「自分だけのこだわり」を求める方が増えていますね。
一昔前はグランジファッション発祥の地だったシアトルも、最近のシアトルやベルビューのファッション・ウイークなどのイベントでも見られるように、人口増加と共にファッションへの意識が大きく変わってきています。それがこうしたジュエリーの好みにも関係しているのかもしれません。
SNS でオーディエンスが多様化。活動の場を広げたい
最近 Instagram を始めたことで、従来のような店頭やファッションショーなどに限らず、より多くの方に作品を見ていただける機会が増えました。それが新たなコネクションに繋がっており、シアトル以外での制作活動が少しずつ広がっています。いつかオペラなどの衣装装飾や、アメリカ以外でも制作活動してみたいと思っています。
掲載:2016年10月