今回は、従業員が出版物や発明等にかかわる仕事を担当した場合の著作権についてご説明します。
職務著作権(物)は、米国では Section 101 of U.S. Copyright Act of 1976で定められています。基本的には従業員等が職務上の発明や職務上作成した著作物については、会社(法人)側に所定の権利が認められることになります。
まず、この職務著作物を定義する際に、作成者が “従業員” として業務に従事しているかどうかの判断が必要となります。つまり、使用者(法人)がこの知的財産権を所得するには、法人と作成者との間に雇用関係が必要です。すなわち、作成者が独立した契約者(企業)であった場合、この職務著作権が使用者(法人)に移行せず、下記の例外を除けば作成者が財産権を保持することが可能です。
さて、作成者が “従業員” かどうかを判断する材料として、法人が作成者に社員として給与を支払っている場合はもちろん、仮に使用者(法人・雇用者)が独立した契約者に作業を依頼した場合でも、使用者が契約者の作業や納期を管理したり、作業の過程を指示したり、作業の場所や道具を指定した場合は、その契約者が “従業員” として従事していると判断されます。
この “従業員” と使用者(雇用者)の関係があれば、契約書に “Work Made for Hire” と記されていなくても、使用者(雇用者)が所有権を保持することができます。もちろん、雇用契約書として “Work Made for Hire” の条項があれば、後に両者が紛争や論議をすることなく、作品が職務著作物として認められます。
たとえば、ある新聞記者が日本の震災に関する記事を書いたとしても、その記者が新聞社の社員であれば、記者が勝手に自分の記事を他の出版社に売却することはできません。仮にその記者が独立契約者として業務依頼を受けていたとしても、新聞社が震災に関する記事というテーマを与えて記者が新聞社の指示に従って記事を書いた場合、その記者は “従業員” として判断され、新聞社が記事の財産所有権を保持することになります。
次に、作成者が独立した契約者だった場合ですが、例外作業として、1)使用者(法人)との共同作業、2)映画制作、3)翻訳、4)主な仕事から派生した作業、5)作業の一部を引き受けた業務、6)手引書作成、7)試験の内容、8)試験の模範解答、9)地図の作成などがあります。これらの業務を独立契約者として作業をした場合、これらの業務が職務著作物として使用者(法人)に財産権利が与えられることもあります。しかし、これらの作業が職務著作物として認められるには、使用者からの特別注文、または委託業務であり、契約書に業務が “Work Made for Hire” であることが明記されていなければなりません。
たとえば、使用者(法人)が作曲者に作曲を依頼し、契約書に Work Made for Hire と記していても、作曲者は実際、使用者の “従業員” ではなく、依頼内容が上記の例外作業の範囲ではないため、契約書の “Work Made for Hire” 条項は無効となり、作曲者が作曲した曲の所有権を得ます。従って、作曲者は使用者に対してはもちろん、誰にでも自由に曲を販売したり使用権を与えることができます。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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