人口学の分野で世界的に知られるワシントン大学にて研究中で、地域人口論を専門とする青山学院大学経済学部の井上孝教授が、ワシントン州版・人種別小地域将来人口推計ウェブシステム ver1.0 をリリースしました。
この4月に「ワシントン州の人口は2040年までに約910万人に増えることが見込まれている」と話してくださった井上教授に、この画期的なシステムについてご説明いただきました。
このシステムは、小地域(census block group)別に人種別・男女5歳階級別の2060年までの5年ごとの推計人口を知ることができるもので、地図上の任意の場所をクリック(あるいはタップ)すると、その場所の人口が表示されるほか、高齢化率などの地図を閲覧したり、データをダウンロードすることもでき、デスクトップ・タブレット・スマホからもアクセスすることができます。
「小地域単位で男女5歳階級別・人種別の将来人口推計の結果を州レベルで2060年までの長期にわたって公開したのは、私の知る限り全米で初めて」と、井上教授。このような推計が達成できたのはいくつかの新しい手法を導入したからで、「このデータを適切かつ積極的に使うことで、行政においては都市計画・住宅・交通・教育・福祉・防災・防犯などの諸政策についてより細かな立案、また、民間企業にとっては、いわゆるエリアマーケティング(※)の観点から経営の立案に資することができると考えています」。
※あるエリアの人口がどのような構造(年齢別人口、男女別人口、人種別人口など)をしているか、あるいは、それらがどのように変化するかをビジネスの視点から分析する手法およびその分野。たとえば、20~30代の女性向けのファッションを扱う店舗の場合、店舗の周囲の女性人口の変化は、店舗経営にとって極めて重要。
このシステムにアクセスすると、最初に表示されるのは、上のような「Small Area Population Projections for Washington:All Races (Download Mode)」。地図上でどこでも一度クリックすると、郡別の推計人口(例:County-Level Population(All Races)
County Name:King)がポップアップで表示されます。
「郡別ではなく、市内の特定の地域の推計人口が見たい」という場合は、ポップアップの最上段に表示されている「1 of 2」の右にある右向きの矢印をクリックすると、その小地域の人口推計が表示されます(指定した小地域は地図上で水色の線で囲まれています)。
また、全人種については (1)人口密度(Population Density)(2)高齢人口割合(Proportion of Elderly Population)(3)年平均人口増加率(Average Annual Rate of Population Increase)(4)人口性比(Sex Ratio)の4種の地図を見ることができます。
人種別でも人口密度の推計を見ることができます。例えば「アジア人の人口密度」を小地域別に見たい場合、「アジア人(Asian)」と指定してダウンロードモードに入り、人口密度(Population Density)をクリックすると、「アジア人の人口密度」を見ることもできます(人種別は人口密度の地図のみ)。
上の画像のように、「特定の市の特定の小地域」まで絞り込んで、「アジア人の人口密度」を見ることもできます。
人口の急増により、住居の供給増加、ライトレールの拡張を含む公共交通機関やインフラの整備が急ピッチで進められているシアトル市やワシントン州。井上教授によると、そうした整備を行う際に各分野の専門家が実施する需要予測の基礎となるのが人口推計とのこと。
「より正確かつ精密な推計人口であるほど、より正確かつ精密な需要予測ができるので、そのような面で資することができればありがたいと考えています」。
皆さんのお住まいの地域や、引越し先の地域の今後の推計人口を見てみるのも面白いかもしれません。
青山学院大学経済学部 井上孝教授
理学博士。日本人口学会にて「GIS チュートリアルセミナー」を主催。地方創生の動きや、地方の人口減少に対応し、地方を支援するべく小地域単位での将来人口推計データを日本で初めて公開。2015年の第8回人口地理学国際会議で「小地域人口統計の推計に関する新しい手法-人口ポテンシャルを用いた試み-」の研究発表で最優秀ポスター発表賞を受賞。共著に『首都圏の高齢化』(2014)がある。青山学院大学公式サイト。
掲載:2017年8月