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コロナ禍に関連するメンタルヘルスと、心を平穏に保つための心構え

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Studio Mene and Counseling Services
高田 Dill 峰子さん

Mineko Takada-Dill, MA, LMHC, ATR
カウンセリング:
Rockwood Office Park
1409 140th Place NE, Bellevue, WA 98007

アート・セラピー・スタジオ:
7048 27th Avenue NW, Seattle, WA 98117
【電話】 (206) 276-4915
【メール】 info@studiomene.com
【公式サイト】 jp.studiomene.com
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高田さんへのご質問はこちらからお送り下さい。

ワシントン州では昨年12月に新型コロナウイルスのワクチンの接種が開始されてから接種率が増加し、6月30日にほとんどの規制が解除され、経済活動が全面再開となりました。シアトルのあるキング郡では7月に入ってから12歳以上の接種率が70%を超え、生活での規制はほとんどなくなったかのように見えます。

それでは、私たちの生活はコロナ禍の前と同じになったのでしょうか?

巷はどこも混雑してきて、表面的には「普通に戻った」ように見えますが、1年以上も不安がつきまとう生活をしてきたことと、今後の生活がどうなっていくのか予測できない状況から来る健康への影響は計り知れません。

また、デルタ変異株による感染者の増加や、将来出てくる新たな変異株に対するワクチンの効果は現時点ではわからないことから、予断を許せない面もあります。

メンタルヘルスの分野では、多くの専門家が今回の新型コロナウイルスの体験は trauma(トラウマ)的なものであると考えています。日本語ではわりと、「トラウマになったわ」と、「ちょっとショックでガックリきた」ということのように使われたりもしますが、英語や心理学で言う Psychological Trauma は、後遺症も伴う心理的外傷を意味し、深刻な意味を伴います。

同じ経験をしても、trauma を長期的に後に引きずってしまう人と、うまく乗り越えていく人がいるなど個人差が多いのですが、その個人差は「私が弱いから」というものではなく、個人が持って生まれた感受性や生まれ育ったときの経験、trauma 的なことが起きた後のサポートシステムなどが、その後の心の状況を左右します。

コロナ禍のことを trauma という視点から見ると、感染に対する恐怖、感染による家族や友人の闘病生活や死、感染を防ぐために行われた対策から来る恐怖感の増長、感染対策から来る日常生活への支障(家庭でのリモート教育、狭い家に皆が閉じこもっている等など)、経済面、運動不足、孤独感など、考えてみるとかなりストレスの高い状況を過ごしてきたわけです。

trauma の専門家の Cathy Malchiodi 博士は、長期的な trauma になる可能性があることが起きている場合や、すでに慢性になってしまった、PTSD(心理的外傷後ストレス障害)の治療方法を理解するために、脳の機能を三段階に分けて説明しています

脳自体は非常に複雑な臓器ですが、この説明の仕方には結構納得できるところがありますので、参考にしてみてください。4つ目のポイントには、PTSD の治療に使われる、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理方)の一部の左右の脳の交流が含まれています。

博士の視点から見る trauma 的な経験後の対策法は、図の1)から3)の作業、感覚統合の作業を増やし、人との交流を高め、話をすることを推奨しています。

コロナ禍に関連するメンタルヘルスと、心を平穏に保つための心構え

1)原始脳:首に一番近い部分にある原始脳では、体や心のバランスをとっています(regulate:調整)。コロナ禍では、運動不足、コンピュータの画面を見ることで視野が狭まることにより、体の左右のバランスが取れなくなった症例(平衡感覚の問題)もあります。Zoomでの授業やミーティングでは、ほとんどの人がカメラやスピーカーをオフにして参加し、話をする側は感覚の刺激がない状況になります。

コロナ禍での自宅待機の状況が長く続いた後、自分の気持ちを上手く調整できないで、衝動的になってしまうことはありませんか?考えてみたらたいしたことではないのに怒ってしまう場合などは、話をして問題解決する前に、6感覚(視覚、聴覚、臭覚、味覚、皮膚感覚、深部感覚)を通して感覚統合をする、体の調整を図ることが必要かもしれません。この部分がオフになっていると感じたら、以下のアクティビティなどを試してみて下さい。

  • 自然に触れて、素足で歩いてみたり、散歩をしたりする。運動量を増やす。
  • ガーデニングで土と自然に向き合い、自分で作ったものを食事に取り入れる。
  • あまり熱くないお風呂に、エプソン・サルやハーブなどをつけてリラックスする時間を持つ。
  • 自分が食べたいと思う料理を作って、食べる。旬の野菜、果物を食べる。
  • 好きな音楽を聴いて一緒に歌ってみたり、ダンス、ドラムを叩いたり、拍子をとってみたりする。
  • アロマのある生活を始める。自分で良い匂いだと思う匂いを生活に取り入れる。できれば、人工的に作られた匂いは避け、自然のアロマを楽しむ。
  • 瞑想

※深部感覚を英語で proprioception といいます。位置感覚、運動感覚、振動感覚、重量感覚などの筋肉、腱、関節に関係する感覚のことです。

2)中間脳:調整脳の上にあるのが中間脳です。これは、他の人と relate(関係を持つ)する役割を持っています。この1年半多くの人たちは、孤立した世界に生きることを強いられ、人口的なネットでのコミュニケーションをしてきました。道で人に出会ったら、マスクをしていても2メートルどころか5メートル離れた場所を歩いてきました。マスクをしていると、声が聞こえにくい上に、表情がつかめません。最近では Zoom を通して自分や他のストレスを経験している人の顔を見る、声を聞くことが続いたことによるメンタルヘルスへの影響も報告されています。

中間脳の co-regulate する働きは、人と一緒にバランスととって生きていくことに携わっています。最近久しぶりに友人に会ったら、どのくらい自己主張しても良いのか、空気が読めなかったりしませんか?混雑した高速道路を時速100マイルぐらいで飛ばしている人はコロナ禍以前にもいましたが、まさしく、1)がうまくできていないところに持ってきて、2)に影響を与えている例です。

人混みに行くと怖くて仕方がない場合は、それも自然な気持ちと考え、1)の活動を増やしつつ、少しずつ、人との接触を増やすようにしましょう。

マスクをするかどうか、ワクチンの接種を受けるかどうかに始まって、人種や人権の問題がさらに大きくなってきたアメリカで、人を信用して交流していくのはなかなか難しいものかもしれません。2021年7月現在で日本との行き来が難しいことも、私たちのメンタルヘルスに大きく影響していると思います。

3)人間が人間になった証拠の額のあたりにある脳は、考えることを専門にしています。動機、集中、記憶、計画などを含む executive fictions(実行機能)の司令官がこの脳にあると言われています。原始脳や中間脳の部分のサポートがあってこそうまく働くので、それに乏しかった1年半の間に、一番うまく機能しなくなった部分かもしれません。「何かをするモチベーションがわかない」「後回しにしているうちに手がつけられなくなってしまった」。心当たりがありませんか?子供がリモートでの授業を受けているうちにやる気がなくなったのは、当たり前だとさえ言えるかもしれません。1)の作業が多い遊びを増やしてこの夏を過ごしてください。また、コロナ禍で遅れた日本語教育に追いつく時期と考えて勉強を強制することは、逆効果とも言えるでしょう。

4)左右の脳の交流を深める。トラウマになりそうなことを経験した後は、左右が交差する動作を取り入れてみることによって、右脳と左の脳の交流が深まります。右脳は知覚、直感、感性を司り、左脳は言語を司るので、右脳で感じたものを、左脳で言葉に表現して問題を消化していきます。日本のラジオ体操は意外とこの動きを取り入れています。

基本的には調整脳の働きを潤滑にし、体のバランスを取り戻し、左右の脳が同時に働く作業をし、人との交流を持ってからこそ、考える脳がうまく働き始めるのだと思います。

私たちは、心配事に対して解決しようとしがちです。心配事が現実にあり、計画が立てられるものであれば、どんどん考えて解決していっても良いでしょう。でも、そうでない場合は、今やっていることに意識を向け、生活していきましょう。これを実践していくには、瞑想が役に立つかもしれません。

掲載:2021年7月

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