MENU

第9回 子どもの心が落ち着く環境作り

  • URLをコピーしました!
モンテッソーリ教育

9月はアメリカでの新学期、入園の時期で、慌ただしく過ごされたご家族の方も多くいらっしゃることと思います。

私の運営する幼稚園でも、多くの新入生のお子さんがご入園されました。新学期は子どもだけでなく、親もそわそわ、ドキドキするものです。

最初は親御さんと別れるのがさみしくて泣いていた子ども達が、クラスの習慣を身につけていく早さにはいつも驚かせられます。涙が少し目に残ったままでも、自分の水筒をバスケットに置きに行き、手を洗いに行って準備する様子から、すでに身体が習慣を身につけていっている様子が伺え、胸が熱くなります。

お仕事の時間には、ハサミで紙を切るのに夢中になる子、テーブル拭きをしている子、お花をいけている子と、さまざまです。自分の興味のある分野のお仕事に集中して過ごすことができるお仕事の時間が、子ども達はみんな大好きです。

今回は、自然に子どもの心が落ち着く、モンテッソーリの整えられた環境についてお話ししたいと思います。

モンテッソーリのお教室

モンテッソーリ教育

モンテッソーリ園に足を踏み入れると、子どもサイズの家具やお道具が置いてあり、子どもが中心のクラスルームがあります。そして、通常の幼稚園とは雰囲気が異なり、棚の上にたくさんの種類の教具が子どもの目線に整然と並んでいる様子を見ることができます。

多くの見学者の方から、「きれいですね」「スッキリしていますね」とコメントを頂いたり、「どうしてこんなにたくさんの物をきれいに置いておけるのですか?うちの子どもも片付けることができるでしょうか?」と聞かれることもあります。

環境が整理整頓されていると、気持ちよくスッキリした気持ちになるのは、子どもも大人も同じです。

子ども達には敏感期(あることにものすごく興味を持って、集中して繰り返し行う時期のこと)があることをお話ししてきましたが、モンテッソーリのお教室にはこの敏感期に適応した環境が整えられています。

モンテッソーリは生理学、生態学、医学などの当時の最先端の科学者達から多くの知見を受け、また自身で科学的研究を行い「整えられた環境(The Prepared Environment)」を考案しました。

それは、「日常生活の練習」から「感覚の洗練」「読み書き」「数」「地理、植物、動物など文化一般の知識の習得」など、子どもが自分で考えて、選択して、行動をしながら学習、発展していけるという環境です。「整えられた環境を用意してあげることで、子どもが自分で自分自身の主人公になれるように応援していく」という考え方が背景にあります。クラスにいる先生は環境と子どもをつなぐガイドであり、大切な環境の一部であると考えます。

それぞれの学びのエリアには、関連する教具が美しく並んでいます。簡単なものから、難しい、より複雑なものへと、左から右に並べてあります。

モンテッソーリ教育

例えば、大きなビーズ通しのお仕事の右横には小さなビーズ通しやお裁縫などのお仕事が置かれています。なぜ左から右かというと、英語では左から右に文字が綴られており、左から右への目の動きに連動するためです。なので、縦書きでは右から左に綴られる日本語がベースの日本のモンテッソーリ園では、右から左に向かって難易度が高くなるように教具を並べます。

教具を順番に並べることで、先生達は目の前にいる子どもがどの教具を選んで活動しているのか観察し、どの発達レベルにいるか把握することができますし、次のステップのお仕事を紹介する上でも、順番に並べておくことが大きな助けになります。

また、フロアの上でのお仕事には、小さなマットを広げ、そのマットの上にお仕事を置いて活動するというお約束があります。子どもがマットを広げると、そのマットはその子どもの活動領域となり、他の人が勝手に踏み入れることは許されない、守られたスペースになります。また、マットを広げ、お仕事に取り組み、活動が終了したらマットを丸めて戻すという作業が、子ども達にとってワークサイクルの終了の心の区切りになっています。新入生の最初のレッスンは、このマットを広げて丸めるという練習からスタートします。自分のスペースが目に見えるのでわかりやすく、クラスが平和に保たれる役目も果たします。

子どもが自分でできるようになる環境作り

モンテッソーリ教育

子どもの願いは、大人のように自分で身体を動かして「自分の身体の主人公になる」ことです。

おしゃべりが始まる年齢になると、親なら誰もが「自分でやる!」「できるからさわらないで」と子どもからの声を何度も聞くことがあるかと思います。おうちでも「どうしたら自分でできるかな」という視点で環境を見直してみると、さまざまな工夫ができるかもしれません。

例えば、何かをこぼしてしまった時に拭くための雑巾も、お子さんの手のサイズにあった小さなものを、手の届くところにわかりやすくおいておくことで、自分で牛乳をこぼしてしまっても慌てず対処できるようになります。アート活動のための文房具(クレヨン、鉛筆、ハサミ、のり、消しゴム)なども定位置を決めて、画用紙や折り紙なども一定量をセットで同じ場所に分かりやすくおいておきます。大切なのは必要以上のものを置かずに、自分で選べる環境を作ることです。

洋服ダンスも、文字が読めるようになる前には絵や写真、読めるようになったらひらがなで「くつした」など、中身がわかるためのラベルを引き出しに貼ってみるのも良いかと思います。そのラベル作りの作業や分類に分けるところからお子さんと一緒に行う方が、自分の持ち物という自覚や責任感が生まれるので有効的です。

私の娘は子どもサイズの小さなピッチャーを用意してからというもの、牛乳やお水を注ぐことに夢中になった時期がありました。そして、何度もこぼしては雑巾で拭いていました。ある日、お客様が家にいらした際、「わたしがやる!」と言って、ミルクを注いでくれました。娘の顔にはとても満足そうな自信の溢れる表情が広がっていました。

人は生まれながらにして少しずつ自立に向かって生きています。その育ちの中の子どもの敏感期を捉えて、環境を整えて、大人は環境との交わり方を示してあげていけたらと願っています。

次回は、「子どもが自分でできるようになる方法とその見せ方」について、お話ししたいと思います。

掲載:2021年9月

文・写真:斉藤カルコーヴァン智美
慶應義塾大学文学部、シャミナード大学院幼児教育学科卒。ワシントン州ベルビュー市にある日本語と英語のバイリンガル幼稚園、ピカケスクール園長。日本では株式会社オリエンタルランドが経営するチャイルドセンターの立ち上げに携わり、プログラム・マネージャーを務めた。渡米後はモンテッソーリの教員として、ハワイとシアトルで約14年間勤務。2017年夏にベルビュー市でピカケスクールを創立。

Pikake School
www.pikakeschool.com

  • URLをコピーしました!

この記事が気に入ったら
フォローをお願いします!

もくじ