これまでは生存中に準備しておくべきエステートプランとその書類についてお話ししてきました。今回は、ワシントン州法における、亡くなった後の手続きについてご説明します。
「プロベート(probate)」とは
「プロベート(probate)」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。
基本的に、プロベートというのは、裁判所の監督のもと、故人の財産を回収、確定し、負債を清算したのちに分配を行う相続手続きのことです。遺言の有無にかかわらず、故人に財産がある場合は、基本的にこのプロベートを通した相続手続きが行われます。
遺言書がある場合
第5回のコラム「ワシントン州における「執行人」の指名について」でご説明しましたが、まず、遺言書があり、執行人(personal representative)が指名されている場合は、指名された人が裁判所に執行人任命の申し立てを行うことがほとんどです。
ワシントン州法では、遺言書の原本を所有・管理している人は、遺言者の死亡を知ってから30日以内に遺言書を直接裁判所に提出するか、遺言書で執行人として指名されている人に引き渡す義務があります。
どちらにせよ、プロベートの手続きを開始する際は、必ず遺言書の原本が裁判所に提出されなければなりません。裁判所は遺言書の内容、遺言者と証人の署名等を確認し、法的に有効なものであると判断した上で、正式にエステートの執行人を任命します。
遺言書の原本がない場合
さて、「遺言書のコピーはあるが、原本が見つからない」「うっかり原本をゴミと一緒に処分してしまった」「原本は銀行の故人名義の貸金庫に入ったままで、誰もアクセスできない」といった状況がたまにあります。
そういった場合には裁判所に特別な申し立てをして状況を説明したり、遺言書のコピーを原本の代わりとして裁判所に承認してもらったり、裁判所から貸金庫のある銀行に対して令状を出してもらう必要があります。裁判所がその申し立てを受け入れてくれるかどうかは、その状況や提出された証拠、裁判所の裁量によります。
遺言書がない場合
一方、遺言書がない場合は、ワシントン州法のもと、故人の配偶者、子ども、その他の近親者が申し立てを行い、裁判所からエステートの執行人として任命を受けるのがほとんどです。執行人になれる近親者の順番については、第6回のコラムでご説明した通りです。
執行人と任命書
遺言書があるエステートは testate estate と呼ばれ、裁判所に任命された執行人には letters testamentary という正式な任命書が発行されます。
遺言書がないエステートは intestate estate と呼ばれ、裁判所から執行人に発行される任命書は letters of administration といいます。
基本的に、米国の金融機関は、この任命書がない限り、故人の口座に関する情報を開示しませんし、裁判所が正式に執行人を任命するまでの間、故人の口座は凍結されたままとなります。
ワシントン州の場合
遺言書の有無にかかわらず、ワシントン州のプロベートは、他の州より比較的簡単で効率的です。
プロベートの開始は、基本、裁判所を通して行われますが、一定の条件を満たすエステートには、裁判所が介入することなしにプロベートを進める権限(nonintervention powers)が与えられます。
特に、執行人にその権限を与える旨が遺言書に明記されている場合や、エステートに故人の債務を清算するに十分な遺産がある場合、裁判所がこの権限を認めてくれることがほとんどです。それによってプロベートはさらに簡素化されるので、時間も費用もかなり節約できます。
次回のコラムでも、このワシントン州のプロベートについてさらに詳しくご説明します。
Ako Miyaki-Murphey, J.D.
パーキンズ・クーイ法律事務所(Perkins Coie LLP)
シカゴでパラリーガルとして働きながら2002年にJohn Marshall Law School(現在はUniversity of Illinois Chicago School of Law)でJ.D.を取得。2002年から2006年までハワイ州の弁護士事務所で勤務した後、2006年にワシントン州弁護士資格を取得。シアトルのFoster Garvey弁護士事務所でトラスト・エステート法の経験を積んだ後、2020年から現在のPerkins Coie LLPに勤務。エステートプランの作成だけでなく、ワシントン州のプロベート手続きやトラストの管理、日本在住の遺産受取人代理や、相続税・贈与税申告書の作成も行う。
【公式サイト】www.perkinscoie.com
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