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アメリカ企業が2025年の昇給率を検討する際に役立つ5つの重要情報

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去る11月5日に投開票が行われたアメリカ大統領選挙で、トランプ氏が圧勝しました。トランプ政権が始動すれば、今後多方面にわたり政策が変化することが予想されます。このような状況も含め、今月は2025年の昇給率を決定するにあたり重要と思われる情報を5つピックアップして解説します。

もくじ

トランプ政権の影響

特に労働法関連で、トランプ氏は選挙中にさまざまな公約を掲げました。その一つが移民政策です。不法移民に対する厳しい規制、I-9監査の強化の他、DACA(若年移民に対する延期措置)の停止、H-1Bビザへの規制強化などがあげられています。

11月10日付けの Forbes によれば、今後どのような政策となるかは、トランプ氏の前政権で実施された政策が参考になるといいます。

例えば、前政権では、H-1Bビザ枠拡大の停止や申請却下率の拡大(裁判での和解後は減少)に加え、裁判で差し止められ実現こそしなかったものの、H-1Bビザや永住権申請の給与水準引き上げ、H-1B配偶者ビザやH-4ビザの就労手続きの厳格化など、さまざまな規制を試みていました。これらがそのまま復活することはなくとも、再び混乱を引き起こす火種となることは想像に難くありません。

このような移民規制によって労働力に影響が出る可能性が高いと言われるのが、建設業、農業や販売・接客業といった業界です。すでに人手不足であるこれらの業界で、人員確保のために賃金上昇が起これば、近しい給与水準である製造業などから人材が流出するなど、他業種への影響も懸念されます。

また、2025年1月1日から予定されている Exempt の最低賃金再改定は、年内に裁判所で延期の判決が出ない限り、2016年のような影響はなく、当初の予定通り、施行されると見られています。いったん施行された法律を覆すには、差し止めと異なり多大な労力が必要です。また、仮に数ヵ月から半年後にそれらが覆っても、1月1日時点ですでに賃上げもしくは Exemption の変更を実施していれば、企業への影響は限定的となり、トランプ氏がこれに力を入れるかは疑問視されています。

2025年昇給率予測調査結果

2025年度の昇給率予算予測は、多くの調査会社で Merit 昇給(業績昇給)が3.1〜3.2%、総合で3.5〜3.9%と見込まれており、いずれも今年の昇給予算実績を下回る結果となっています。

以下は大手調査会社の予測データである。

WorldatWork

WorldatWork 社が発表した「2024-25年給与予算調査」によると、昇給予算は3.8%と前年の4.1%よりも落ち着いているものの、依然としてコロナ以前の水準を上回っています。

2024年の実績値は3.9%と予測を下回っており、これは今年後半に人材供給が充足し、インフレがある程度安定したことが背景にあります。

2025年については、さらに低い予算を設定する企業が増える傾向が見られ、昇給予算のばらつきが減少しています。

 PayScale社

同社の調査結果では、2024年の平均昇給予算率は3.6%であり、2025年の予測は3.5%と微減にとどまっています。66%の企業が昨年と同じ昇給率を維持する方針である一方、増額した企業は減額した企業を若干上回っています。増額の理由には人材不足が挙げられ、減額の理由としては「前年度の昇給が高すぎた」と「将来の経済不安」が指摘されています。 

従業員数別・売上高別の昇給予算(PayScale)

従業員数別に見ると、15,000名を超える企業の昇給率は約3.2%であり、小規模な企業ほど昇給率が低下する傾向が顕著です。特に、99名以下の企業では昇給率が2%台にとどまり、売上高別では5000万ドル以下の企業でも同様の傾向が見られます。

# of EmployeesNon-ExemptExemptManagersOfficers & Executives
<502.5%2.6%2.6%2.1%
50-992.7%2.6%2.7%2.6%
100-1,9993.3%3.2%3.3%3.0%
2,000-4,9993.4%3.5%3.5%3.4%
5,000-15,0003.5%3.4%3.4%3.2%
>15,0003.2%3.2%3.2%3.1%
RevenueNon-ExemptExemptManagersOfficers & Executives
<$5M2.4%2.5%2.4%2.0%
$5M-$50M2.9%2.9%3.0%2.7%
$50M-$500M3.2%3.2%3.2%3.0%
$500M-$1B3.3%3.2%3.2%3.2%
$1B-$5B3.5%3.5%3.5%3.3%
>$5B3.4%3.4%3.4%3.2%

Willis Towers Watson(WTW)

WTWの調査結果では、2025年の昇給予算は3.9%の上昇が見込まれています。73%の企業が昨年よりも年間総給与費用(給与、ボーナス、変動給与、福利厚生費を含む)が増加したと回答しており、企業は人材採用とその維持に苦労していることを実感しています。

以上のデータから昇給率予算は減少傾向にあり、2023年をピークとして減少していることがわかります。

 雇用コスト指数(ECI)の下落

上述の大手調査会社による昇給率予算調査は、春に統計を取り、夏頃に発表されるため、実際に昇給が決定するまでにはタイムラグがあります。

つまり、今年後半の影響は考慮されていないことになるので、最新動向として10月にBLS(労働統計局)が発表したECI について触れておきたいと思います。

ECI(Employment Cost Index)とは、雇用コストを表す指数で、従業員の賃金と雇用主が負担する福利厚生のコストが時系列でどのように変化しているかを測定しています。連邦準備制度理事会が金利の変更を検討する際に参考にされている重要な指標です。

BLSが10月31日に発表したデータによると、ECIは前四半期の0.9%上昇に続き、今年第3四半期も0.8%上昇しました。具体的には、給与コストが2024年6月から0.8%増加し、福利厚生コストも同様に0.8%増加しています。多くの経済学者は、ECIが第2四半期と同じ0.9%上昇すると予想していましたが、結果はわずかに予想を下回りました。

以下の表からも明らかなように、米国の民間企業における労働者の報酬コストの上昇率は前年比で減少傾向にあります。

労働者総報酬コスト
(給与と福利厚生を含む)
給与コスト福利厚生コスト
2024年6月前年比3.9%上昇前年比4.1%上昇前年比3.5%上昇
2024年9月前年比3.6%上昇前年比3.8%上昇前年比3.3%上昇

全体として、労働市場の緩やかな冷え込みに伴い、多くの雇用主は過去数年間にわたり従業員が経験してきた賃金の大幅な引き上げに、ブレーキをかけています。

医療保険コストの増加

上記以外にも雇用主が考慮すべきなのは医療保険料の高騰です。今年9月に発表された Mercer の雇用主提供医療保険制度調査によると、2025年の医療保険料は従業員1名あたり平均5.8%増加すると予測されています。この数値は企業が計画しているコスト削減対策を考慮に入れたもので、コスト削減策を講じなかった場合、保険料の上昇率は平均7%に達する見込みです。

特に、小規模事業者(従業員数50〜499名)は、この保険コスト上昇の影響を最も強く受けています。多くの企業は自家保険ではなく保険を購入しているため、保険料の上昇がそのままコスト増加につながり、平均して9%の上昇が見込まれています。

Mercer の調査結果では、雇用主の約半数(53%)が2025年にコスト削減のために保険プランに変更を加える予定で、この数字は2024年の44%から増加しています。具体的には、控除額や医療費用の個人負担が増えるプラン変更、保険費用の従業員負担率増加などです。これらの動きが上述のECIが発表した福利厚生の増加率データに反映されていると考えられます。

インフレ率の低下

消費者物価指数(CPI)は、2024年9月は前月と比較して0.2%、前年同月比で2.4%の上昇となりました。8月の前年比では2.5%だったため、現時点ではインフレ率は緩やかに低下していく傾向が見られます。

一方で、11月6日のロイター通信によれば、トランプ氏は輸入品すべてに10%、中国製品に60%の関税を課すことを提案し、さらにメキシコからの全輸入品に25%の関税を課す可能性も示唆しています。

もしこれらが施行されれば、上述の緩やかに下降線を描き始めたCPIは、再度上昇へと転じる可能性も否定できません。

まとめ

以上のことから、トランプ氏の大統領就任に伴う法律や経済の先行きにはまだまだ不透明な部分も多い状況です。

既に来年度の昇給予算を決定した企業もあるかと思いますが、これから決定する企業は例年以上に慎重な対応が必要かもしれません。

総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん

2004年、オハイオ州シンシナティで創業。北米での人事に関わる情報をお伝えします。企業の人事コンサルティング、人材派遣、人材教育、通訳・翻訳、北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。
【公式サイト】 creo-usa.com
【メール】 info@creo-usa.com

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