米国には、全米を対象にした有給育児休暇制度はありません。米国労働省によると、有給の家族医療休暇制度を導入しているのは、13州とコロンビア特別区のみです。このような状況から、民間企業で働く労働者の多くは、雇用者が自主的に提供する有給育児休暇に頼らざるを得ない状況となっています。
米国における有給育児休暇の現状
米国には、全米を対象にした有給育児休暇制度はありません。連邦法として制定されている家族医療休暇法 Family and Medical Leave Act(FMLA)は、公的機関、公立および私立の小中学校、さらに従業員50人以上の企業に適用されるもので、雇用主は対象となる従業員が仕事と家族の責任を両立できるよう、特定の家族および医療上の理由で年間最大12週間の無給休暇を取得することを認める必要があります。この期間中、従業員の団体健康保険も継続されることが求められています。
米国労働省によると、有給の家族医療休暇制度を導入しているのは、ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州、コロラド州、コネチカット州、デラウェア州、メイン州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ミネソタ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ロードアイランド州の13州と首都ワシントン D.C.のみです。
ワシントン州の有給家族医療休暇制度
ワシントン州では、2020年1月2日に州政府が定めた有給家族医療休暇法(Paid Family & Medical Leave)が改正され、出産や養子縁組、家族の介護、大病の治療などのために有給休暇を取得できることになりました。
シャッツ法律事務所の井上奈緒子弁護士によると、有給家族医療休暇を取る理由には、出産、養子縁組、慢性病の治療、麻薬中毒や精神疾患の治療、家族の介護、軍務につく家族との面会などが挙げられます。
主な変更事項は下記の通りです。
- 家族休暇が有給休暇となる。
- ワシントン州に所在する企業に関しては規模にかかわらずほとんどすべてが対象となる。
- 従来は前年(前期)に1250時間就業しなければ家族休暇を取る資格がなかったが、改定法上では、前年(前期)820時間就業すれば従業員が休暇を取る資格を得られる。
- 理由によっては16週間まで休暇を取ることができる。(通常は12週間)
家族の介護の対象は、配偶者、子供、孫、兄妹、父母、祖父母に限定されます。
有給休暇の資金については、従業員の給料の0.4%を事前に保険料として控除し、州政府に支払うことによって運用されます。0.4%の控除をする際、中小企業(従業員数50人未満)の場合は、従業員のみに支払い義務があり、雇用者は支払いをする必要はありません。
民間企業の有給育児休暇
このような状況から、民間企業で働く労働者の多くは、雇用者が自主的に提供する有給育児休暇に頼らざるを得ない状況となっています。
米国労働省によると、2023年3月時点で、勤務先の有給家族医療休暇を利用できる民間労働者は全体のわずか27%で、短期障害保険を利用できる労働者は41%にとどまっています。一方、最も低賃金の労働者で雇用主から有給家族医療休暇を提供されている人はわずか6%しかいません。アーバン研究所が行った調査で、FAMILY法案で提案されたような最大12週間の有給家族医療休暇制度が採用された場合、97%の労働者が対象となる可能性があります。さらに、「幅広い労働者への適用、低所得要件、進歩的な賃金補填などを伴う普遍的な政策は、有給休暇の恩恵を受ける家族の貧困率を16%削減する効果も期待されている」と指摘されています。