シアトルのコミュニティ・オーケストラ『シアトル・フェスティバル・オーケストラ(SFO)』による3月の公演で、シアトル出身で13歳のソリスト・戸倉凛(とくら・りん)さんが演奏します。3歳でバイオリンを始め、11歳の時にカスケード交響楽団のライジングスター・コンクールで優勝し、マイケル・ミロポルスキー氏の指揮のもとオーケストラ・デビューを果たした戸倉さん。現在はイギリスの音楽学校に在籍しており、今回はメンデルスゾーンの『ヴァイオリン協奏曲』を演奏します。戸倉凛さんにメールでお話を伺いました。
(This interview has been edited for length and clarity.)
– バイオリンを始めたきっかけは何でしたか?
2歳半の頃、近所にバイオリン教室ができて、お母さんとお父さんが見学に連れて行ってくれました。お母さんは小さい頃ピアノを習っていましたが、ピアノが好きではなかったので、バイオリンへの憧れもあったからと言っていました。

– 続けていくきっかけになったことはありますか?
とにかくバイオリンを弾くことが楽しかったということに尽きます。3歳から8歳までスズキ・メソードのお教室に通っていましたが、スズキ・メソードは1巻から10巻まであり、みんな1巻のキラキラ星からスタートします。習う曲の順番が全て決まっているため、どのくらいの習熟進度かが、曲を聞くとわかるんです。私は負けず嫌いなので、同じスタジオにいるお兄さんお姉さん達が弾いている曲を自分も早く弾けるようになりたくて、たくさん練習していました。練習すると、1曲の仕上がりが早くなり、次の曲、次の曲と、どんどん進んでいって、自分より年上のお兄さんお姉さんに混じって同じ曲を弾けることがとても嬉しかったです。小さいうちは、それが続けていくモチベーションだった気がします。
– どんな時に「バイオリンが好きだ」「バイオリンをやっていてよかった」と感じますか?
特別な時ではなく、毎日バイオリンが大好きだなあと感じるし、バイオリンをやっていて良かったと思っています。自分が練習をしていて、楽しいな、とか幸せだなって、思えることに出会えて、それができる環境にいられるのは、本当に嬉しいです。最近だと、練習していて、ツィゴイネルワイゼンをピアノと合わせた時に、好きなメロディのところで、毎回幸せだなあ、好きだなあ、と思っています。
– 練習で自分が思ったように弾けないと感じることがあれば、それをどのように乗り越えていますか?
乗り越えてはいません。毎回とてもイライラするけれど、ひたすら練習を続けるのみです。例えば、スケールをやっていて、それができない時は、ひたすら同じことを繰り返して、時間を忘れるまでやっています。そうすると、以前よりマシになった自分に気が付きますが、また次の大きな課題がやってくるので、乗り越えている気がしません。
– 初めて大きな舞台に立ったときのことを覚えていますか?どんな気持ちでしたか?
7歳の時に、カーネギー・ホールで3回演奏しました。大きな舞台は多分そこが初めてだったような気がしますが、幼かったので、音楽を届けるために弾くというよりは、単に楽しいから弾いていたことを覚えています。

– 本番前の緊張はどのようにコントロールしていますか?
小さい頃からの大切にしているお守りのクマのぬいぐるみがあって、その子を抱いていると、心が落ち着きます。また、お水を飲んだり、甘いものを食べて脳がしっかり働くように備えています。
以前、国際コンクールのファーストラウンドの直前に、緊張していたので、ガツガツ練習をやり過ぎて変なスイッチが入ってしまい、沼にハマって、本番で上手く弾けなかった失敗から学びました。コンサートやコンクール直前は、軽くウォームアップする程度の練習だけにしています。
– これまでに挑戦したコンクールや演奏会で印象に残っている経験を教えてください。
11歳になったばかりの時、カスケード・シンフォニー・オーケストラという、エドモンズにあるオーケストラと初めて共演しました。オーケストラと音を合わせて、ソリストとして弾いた時の楽しさや感動は一生忘れません。他の音楽家と一緒に弾くのが大好きです。自分一人では出せない音をみんなで作り出せると、やっぱり嬉しいです。
– 現在はイギリスの音楽学校で学んでいるとのことですが、毎日の楽しみはなんですか?
毎週、同じバイオリンの先生の門下生の前で、自分の曲を弾く機会があります。そこで自分なりの成果を発揮して演奏できたら、嬉しいです。
それから学校には、毎日Tea timeという時間があり、その時間には、スクールシェフの手作りのケーキやスコーン、チュロス、クッキーなどが出されます。とても美味しいので、楽しみにしています。また、アカデミックの授業で、時々楽しみなことがあります。例えば、先日ドイツ語の授業で、ドイツ語のレシピを読んで料理を作るという実習がありました。クレープを作ってレモン汁と粉砂糖を一緒に食べたら、とても美味しかったです。

– 今後、どんなバイオリニストになりたいですか?憧れのバイオリニストや影響を受けている演奏家はいますか?その理由も教えてください。
今後、たくさんの方々に興味を持ってもらえる音楽家になりたいです。音楽家という側面だけでなく、私自身にも興味を持ってもらえたら嬉しいです。憧れているバイオリニストは Augustin Hadelich です。誠実で真っ直ぐな彼の音が大好きです。音にも人柄が表れるということを、彼の演奏を通してとても感じます。もう1人、Maria Dueñas も好きです。彼女の情熱と表現力には、本当に魅了されます。
– バイオリンを学ぶうえで、技術以外に大切だと感じることは何ですか?
感謝の気持ちです。今の私があるのは、バイオリンに出会わせてくれた両親や、私にバイオリンの楽しさと技術を教えてくださっている先生方がいるからです。一人では何もできないし、大好きなものに気づくことさえなかったかもしれません。自分をサポートしてくれる家族や先生や周りの人達には、感謝してもしきれません。いつか私がプロのバイオリニストになった姿を見せることでしか、この恩は返せないなと思っています。
– 今、凛さんにとってバイオリンはどのような存在ですか。
バイオリンは、私にとって人生そのものです。バイオリン以外の道を考えたことがありません。
– これからやると決めていること、やってみたいこと、将来の夢について教えてください。
やってみたいことは、大好きなチャイコフスキーのコンチェルトを弾いてみたいです。あと Waxman や Sarsate のカルメンも弾いてみたいです。カルメンを弾く時には絶対にオペラも見てみたいです。将来の夢は、もちろんコンサートバイオリニストです!世界に名だたるオーケストラや指揮者と共演したり、CDも出せるような音楽家になりたいです。
– ありがとうございました!
シアトル・フェスティバル・オーケストラ(SFO)の公演の詳細は、下記をご覧ください。

戸倉凛(とくら・りん)略歴
3歳でバイオリンを始め、11歳の時にカスケード交響楽団のライジングスター・コンクールで優勝し、マイケル・ミロポルスキー氏の指揮のもとオーケストラ・デビューを果たす。その後、バンクーバー・メトロポリタン管弦楽団、ベルビュー室内管弦楽団、フィルハーモニア・ノースウェストと共演。さらに、2024-2025年シーズンでは、シアトル・シンフォニーおよびオリンピア交響楽団のヤング・アーティスト・ソリストに選ばれた。また、室内楽にも積極的に取り組み、シアトル室内楽協会アカデミー・プログラムに参加し、Classical KING FM 98.1やシアトル室内楽協会アカデミー・ショーケース・コンサートで演奏し、さらにジェームズ・エネス、エドワード・アロン、アリサ・ワイラースタインによるマスタークラスにも出演した。13歳の現在はイギリスのユーディ・メニューイン音楽学校でロビン・ウィルソン博士に師事。使用楽器は、日本ヴァイオリンより貸与された1669年製 ニコロ・アマティ(3/4サイズ)。
インスタグラム | YouTube