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第24回 進化する街 – サウス・レイク・ユニオン地区

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筆者プロフィール:松原 博(まつばら・ひろし)
GM STUDIO INC.主宰。東京理科大学理工学部建築科、カリフォルニア大学ロサンゼルス校建築大学院卒。清水建設設計本部、リチャード・マイヤー設計事務所、ジンマー・ガンスル・フラスカ設計事務所を経て、2000年8月から GM STUDIO INC. の共同経営者として活動を開始。主なサービスは、住宅の新・改築及び商業空間の設計、インテリア・デザイン。2000年4月の 『ぶらぼおな人』 もご覧ください。

今シアトル市内で最も注目されている地区は、サウス・レイク・ユニオン地区ではないだろうか。東側を Interstate 5、南側を Denny Way、西側を Aurora Avenue、北側をレイク・ユニオンで囲まれたこの地区は、最近 Amazon.com のメインキャンパスが移転したことで急激に周辺開発のスピードが上がったようだ。

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写真1:REI のそばにあるギリシャ正教会

歴史的には、この地域は19世紀半ばに白人の入植が始まる前まで、Duwamish もしくは South Coast Salish 部族のテリトリーであった。1882年にユニオン湖の南端に入植者によって Lake Union And Lumber Company と呼ばれる製材所ができると、周辺の原生林が伐採され、製材所の社員のための住宅地の開発が進められた。20世紀になると、現在 REI 本店があるカスケード地域は、主にロシア系、スカンジナビア系、ギリシア系の移民が中心となって居住区を形成し、Amazon.com のキャンパスがある Terry Avenue North、Westlake Avenue North 近辺は、自動車の販売所とその修理工場等他軽工業地域として発展した(写真1)。

その後、カスケード地区は、1960年代の高速道路の建設に伴い、東側にあるキャピトル・ヒルと分断されたのを機に、次第に人口減少を余技なくされた後、住宅地としての機能を果たせなくなってしまった。1980年代になると、元マイクロソフト起業者の一人である、ポール・アレン氏を始めとする土地開発業者がサウス・レイク・ユニオン地域に投資を始め、1990年代からは癌研究で有名なフレッド・ハッチンソン研究所キャンパス、ワシントン州立大学メディカル・センターを始めとするバイオテクノロジー関係の企業がこの地域に移転し、バイオテクノロジー企業が集積する地域となった。

2000年になるとバイオテクノロジー以外の企業がこの地域に移転し始めるようになった。2010年、Amazon.com がビーコン・ヒルから Terry Avenue を挟んだ11棟のビルに移転し、キャンパスを形成するころには、その就業人口を目当てに多くの有名レストランなども Westlake Avenue を中心にオープンし、夜の街としても人気が出るようになった。

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写真2:Terry Avenue North にある Brave Horse Tavern 前

Amazon.com の本社メイン・キャンパスがある Terry Avenue North は、通りの真ん中に路面電車が走り、両側にある街路樹の後ろにレストランやカフェが連なり、ポートランドで最近開発に成功したパール地区を思い起こさせる。ほとんどの新しい建物はガラスとメタル鉄板で覆われたモダンな建築だが、その間にこの地域の過去の様子を伺わせるレンガ造りの古い建物も残っている(写真2)。昼食時や夕方の帰宅時は、東京の丸の内のように、Amazon.com のセキュリティ・カードを首からぶら下げた人々がせわしなく通りを歩きまわっている。レドモンドにある Microsoft やカークランドにある Google のキャンパスに比べ、どちらかと言うと街区の中に溶け込んだ Amazon.com のキャンパスは、都市の高密化と古い街の再利用という観点で見ると、成功した例なのではないだろうか。

この通りから1本東側 Boren Avenue North、そして Westlake Avenue North の西側 9th Avenue Noth では、開発申請が行われたことを告知する看板がほとんどの既存建物の外壁に見られ、近い将来この通りも中高層の新しい建物建設に伴い、街並みが急速に変わることが予想される(写真3)。

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写真3:Boren Avenue North、通りの右側はまだ古い建物が残っている

シアトル市は最近、「アーバン・センター」というコンセプトのもと、この地域の容積率アップを認める市条例を発行した。その背景には、この地域の集合住宅戸数を増やすことによって、職住一致型の新しい都市空間を創造することがあるが、現実は多くの就業人口はシアトル市以外の地域から通勤しており、この急激な就業人口の増加を支える大量輸送機関の増設のないまま、周辺の交通渋滞を引き起こしている。

また、10年前まで高さ制限が65フィートまでしかなかったこの地域の大半が突然、商業施設なら85フィートまで、集合住宅なら240フィートまでに引き上げられたということは、その土地の価値も当然何倍にも上がることを意味する。1980年代、日本において特定地域の容積率アップを容認することによって起こった土地価格上昇がバブル経済の一つの原因になったという歴史的事実を鑑みると、この地域の急激な開発は将来、シアトル市の不動産市場に多大な影響を与えると思われる。いずれにせよ、サウス・レイク・ユニオン地区はシアトル市の中で最も早いスピードで進化している街と言えるだろう。

掲載:2013年8月

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