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第2回 離婚とメンタルヘルス

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離婚と別居は人生で最も辛いイベントの上位2位・3位ですが、離婚によるストレスは心と身体の両方に強い影響を及ぼすとされます。

離婚のストレス

これまでの研究で、離婚を経験する人は免疫力が低下し、さまざまな心身の疾患にかかる確率が高くなるだけでなく、事故に遭うリスクも高いという報告がなされています。離婚とは、配偶者と対立し、親権や財産という大切な問題を、時には法的な争いも含めて細かく取り決めていく作業です。自分の法的権利を守るためには心身ともにベストな状態で臨む必要があります。

離婚を選択する結果となったら、健康管理の重要性を心に留め、心と身体の調子を日々モニターすることが大切です。そして、離婚中・離婚後は普段以上に心身の健康管理をしっかりと行うことが、離婚という危機を乗り越えるため、そして離婚後の新たな人生をより充実したものにするための秘訣と言えます。

離婚と心のリアクション

離婚はそれまでの婚姻関係が機能不全となった結果ですが、離婚を機にそれまで共有していた財産・居住形態・子育てなどの生活形態を全面的に変えることを強いられるのですから、家族全員の心が大きく揺らぐのは自然な反応です。離婚に直面した多くの人が悩むこととしては、以下が挙げられます。

  • 離婚という未知の法的プロセスに対する恐れと不安
  • 思い描いていた結婚像が実現しなかったことへの幻滅
  • これまで築いてきた家族の形が壊れることへの怒りと失望
  • 離婚後、一からやり直さなければならないということへの怒りと不安
  • 経済面・キャリア・仕事復帰などに関する不安
  • 配偶者の落ち度に対する怒り
  • 「結婚相手を見る目がなかった」と考える自分に対する怒り
  • 自責の念、罪悪感、悲しみ、自信の喪失
  • 離婚という結果において子どもに対する申し訳なさと心痛
  • 世間体への懸念
  • 配偶者との法的争いによる極度のストレス

うつ病

離婚は身近な人の死などによる心痛に近い悲しみと喪失感をもたらします。通常、こうした強い悲しみを伴う喪失感は6ヶ月から1年にわたり続きますが、多くの場合はその後さらに1年から3年ほどかけて徐々に回復に向かい、多くは2年ほどかけて心のダメージから回復すると言われます。しかし、大きな損失を体験した人のほとんどは正常に回復するものの、うつ病を発症するケースもあります。その確率は25~30%と言われるほどで、珍しい病気ではありません。一生の間にうつ病にかかる人の割合は人口の17%と言われます。しかし、一旦かかってしまうと、仕事や社会生活を含めた日常生活のさまざまな場面に支障をきたします。主な症状は次の通りです。これらの症状に加えて不安感を経験する方も多くいます。

  • 睡眠障害(不眠、または睡眠過多)
  • 食欲障害(体重の異常な減少、または増加)
  • 疲労感
  • 無気力感
  • 楽しさ、面白みを感じることができない
  • 思考能力・記憶力の低下
  • 過度の罪悪感
  • 生きているのが辛いという気持ち・自殺願望

うつ病は治療することが可能です。現在は薬物療法とカウンセリング・サイコセラピーのコンビネーションが一番効果的だという研究結果が広く受け入れられており、American Psychological Association もこれをすすめています。うつ病を長い間放っておくと脳内物質のバランスが崩れ、脳細胞がダメージを受けます。これはうつ病の慢性化につながります。さらに脳のダメージや睡眠障害、長期間におけるストレス・ホルモンのレベルの高さが身体の免疫力低下につながり、身体の他の部分の機能不全を引き起こす可能性を高めます(例:心臓疾患、骨粗しょう症)。調子が悪いと思ったら放っておかず、早めに医師や心理療法士に相談することが大切です。

健康管理

心身の健康を損なうことなく離婚を成立させ、離婚後の人生を有意義なものにするために、自己の健康管理に気を配り、麻薬・ギャンブル・タバコなどに手を出さないようにしましょう。なお、お酒はうつ病を引き起こす可能性があり、カフェインの取りすぎは不安感をあおることがありますので、どちらも控えましょう。体に良い食生活、質の良い睡眠、適度な運動で体調を整えます。

離婚に理解のある家族や友人などと交流し、積極的に精神的なサポートを得るようにします。定期的な健康診断を怠らず、心身に不調が感じられたらファミリー・ドクターに早めに相談してください。心理的な症状を引き起こす身体の病気もありますので気をつけましょう。薬を処方されたら、処方されたとおりに摂取し、治療を続けることが望ましいでしょう。そして、カウンセリングをすすめられたら試してみてください。

離婚は人生の危機でしかないことはなく、新たな可能性を切り開いていくチャンスでもあります。離婚のプロセスをより良い将来のための通過点ととらえ、自分にとって最善の方法で乗り切ることが離婚後の人生の豊かさにつながります。

戸村 みゆきさん PhD, Psychologist

臨床心理学者。1998年、シアトル大学心理学科卒業後、2002年に同大学の心理学科修士課程卒業。2010年、セイブルック大学の心理学博士課程卒業。専門は心理療法とペアレンティングエバリュエーション(Parenting Evaluation/離婚訴訟時の子育て能力審査)。日英両語で、個人、家族の諸問題に幅広く対応。豊かな人間関係を育みたい、自己の可能性を広げたい、健やかで充実した人生を送りたいと望むあなたの心の旅をサポートします。

【住所】 3035 Island Crest Way, Suite 108, Mercer Island, WA 98040
【電話】 (425) 429-2069
【メール】 miyuki@islandtherapy.net
【公式サイト】 www.islandtherapy.net

掲載:2011年11月

コラムを通して提供している情報は、一般的、および教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 このコラムから得られる情報に基づいて何らかの行動を起こされる場合は、必ず専門家に相談するようにしてください。

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