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第1回 労働法・雇用法の概要

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もくじ

労働法・雇用法とは

労働法・雇用法という名前を耳にされることはよくあるかと思いますが、これは “人” を扱う上で発生する関係を処理し、問題を解決する法律というだけで、かなり幅の広い法律分野であることは想像していただけるでしょう。

企業が事業を運営するうえで必要なのは、”人” です。

最近は特に、日本企業がアメリカで事業運営をする場合や、日本人がアメリカの企業で働く場合において、文化の違いや法律の違いによって、さまざまな問題が職場で起こりやすくなっています。従って、雇用者としては、職場での問題を未然に防ぎ、あるいは解決するんはどうしたらよいのか、また被雇用者としては雇用者による不当な扱いにどのように対処したらよいのかということを知っておくことは大切なことです。

ここでは、1)差別に関する問題(年齢差別・性別差別・障害者差別・人種差別など)、2)育児介護休業法、および労働災害補償法とその対応に関する問題、3)雇用契約上の問題(競業禁止契約など)、4)従業員手引きの内容に関する注意点、5)業務の請負契約上の注意点、6)解雇契約とそれに関わる問題点を中心にご説明します。

差別に関する法律について

差別に関する法律は、アメリカの歴史上において黒人民族の社会的地位を改善向上するために制定されたのが始まりです。その後、移民と組織の多様化によって問題が発生するに伴い、今となっては性別・年齢・人種・宗教・結婚の有無や子供の有無、育った国、身体障害の有無、同性配偶者などの理由によって不当な対応をされた場合も違法とされるようになりました。

概して、法律の適用方法についてはどのタイプの差別も同じ効果と効力を持っていますが、差別のタイプによって、企業の対処の仕方が違ってきます。差別の性質としては、明らかな差別待遇と陰険な差別待遇がありますが、職場では特に後者の陰険な差別待遇が多いのが現状です。

例えば、40歳以上の日本人の女性従業員に対し、「あなたの職種はなくなったので、解雇します」と言って解雇した1週間後に20代の白人男性を同じ職種に採用するというような形で若い男性社員を好むという本当の理由を隠し、みせかけの理由(pretext)によって差別的な待遇を隠す場合があります。もし、解雇された女性が企業を相手にそれを差別として訴えた場合、雇用者は差別を否定できる証拠書類を提出して正当性を証明するか、差別を認め、多額な損害賠償を相手側に支払わなければなりません。

下記に、さまざまな差別のタイプの中から、年齢差別・性別差別・障害者差別について、特徴的な事柄をご説明します。

  • 年齢差別(Age Discrimination in Employment Act ): 20人以上の社員を抱える企業が、40歳以上の社員または社員応募者に対して差別的な待遇をした場合、違法になります(ただし、州によっては、従業員の人数に限らず、年齢差別を違法としているところがあります)。具体的な例として、40歳以上の銀行業務の経験のある女性を面接した際に、「たぶんあなたはこの職種には向いていないと思います」と断った場合や、明らかに歳をとっていると見える応募者に対して窓口の社員が「わが社はこの職種は採用しておりません」と言ったにも関わらず、次の日に同じ職種の募集要項を広告した場合、また、組織改変のために解雇する社員を選択する際に年齢の一番高い60歳に近い社員を選び、若い社員のみを残そうとした場合などがあります。ただし、これによって40歳以上の社員は解雇できないというのではなく、あくまでも解雇するのに正当な理由、例えば、それぞれの社員の勤務評定・業務考査を細かく検討した上でたまたま解雇対象者が40歳以上、または定年に近い社員となった場合は、正当な理由として認められます。従って、雇用者が社員を解雇する際の理由が重要で、年齢を理由に社員の募集対象や解雇対象を決定してはいけないということです。あるいは、解雇の対象になった社員が差別に関しての不平を言ったからといって解雇にした場合(retaliation)も不当な理由として扱われます。
  • 性別差別(Gender Discrimination): この分野の差別に関しては、性別を理由に雇用、または解雇する純粋な性別差別と、性行為やそれを目的とした雇用、そしてその目的が満たされないため解雇する場合(セクハラ)、妊娠中の女性を不当に解雇した場合に大きく分けられます。セクハラについてはよく知られているトピックですが、ここで雇用者が注意するべき点は、肉体的なセクハラだけではなく、言葉による性的暴言もセクハラの対象になるということです。さらに、セクハラによって職場に敵対的環境が発生し、セクハラの対象である社員を会社を辞めざるをえない状況に追い込んだ場合は、構成的解雇(constructive discharge)という不当な解雇として扱われ、退職した社員に対して企業がその損害に対する支払い責任を負うことになりかねません。
  • 障害者差別(Americans with Disabilities Act): 15人以上の社員を抱える企業がこの対象になります。この分野については日本人にとってはあまりなじみがないかもしれませんが、意外に “障害者” 差別に関する訴訟が多いのがアメリカの現状です。それというのも、アメリカでは仕事に支障をきたす程度のケガをした場合にも “障害者” と定義するなど、定義と制限の差が少ないために、この分野の問題が多いように思われます。通常、障害者に該当するためには医師による証明が必要ですが、該当者のタイプとしては、肉体的な障害がある場合と精神的障害がある場合があります。そのような人物を障害を理由に採用しなかったり解雇したりすることは違法です。もちろん、企業内で仕事をできないほどの障害者は社員として雇うことはできませんが、企業として、少なくともその障害者が仕事ができる環境を作る努力(reasonable accommodations)をする義務があります。この適正な設備の調整においては、障害者が働ける部署や職種を企業内で探したり、働く場所の設備や仕事のスケジュールを変更したりするなどの調整が求められます。ただし、障害者を雇うことによって企業側に予想以上の困難があった場合は、この条件から容赦されます。

次回は、育児介護休業法(FMLA)における権利と適用法及び障害者法(ADA)との関連性を中心にお話しします。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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