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「日本の子どもたちに ”世界はつながっている” と実感してもらえれば」 非営利団体 SIJP 運営 今崎憲児さん

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シアトル・熊本・福岡・北海道をつないでクラスを開催

「英語でコンピュータ・サイエンスを楽しく学ぼう」をキーワードに、熊本・福岡・北海道・シアトルをネットでつなぎ、ボランティアでクラスを開催しているシアトルの非営利団体 『Seattle IT Japanese Professionals』(以下 SIJP)。でも、2014年にクラスを始めた当時は、今のような形ではありませんでした。どんなモチベーションを持って活動しているのか、5年間で何が変わったのか、これからやってみたいこと、これからの計画について、現役エンジニアの今崎憲児さんに伺いました。

– 子供のコンピュータ・サイエンス教育を始めたきっかけについて教えてください。

シアトルの IT 業界で働く日本人エンジニアたちと地域グループとして 「Seattle IT Japanese Professionals」(以下 SIJP)を一緒に立ち上げました。「人の横のつながりを構築したい」「シアトルの日本人コミュニティにITの力を使って貢献したい」という共通の思いがあったからです。

– なぜそういった思いを持つようになったのですか?

アメリカでは子どものころから give(与える・貢献する・助ける)の考えを教えられますし、僕のまわりにも give の精神がある人がいて、とても刺激を受けました。やはり、take するばかりではなく、give and take だと。僕がこうしてアメリカで暮らして仕事ができるのもたくさんの人の助けがあったからですから、コミュニティに恩返しをしたいと思うようになりました。

福岡のクラスでは、コスプレをした先生が解説を担当

– 最初のクラスから今年で5年目になりますが、どのような変化があったのでしょう。

当初はシアトル在住の日本語が話せる子供達のために日本語で学ぶ機会を提供することを考えていました。日本語でコンピュータ・サイエンスや最新技術を教えることで、学校で学ぶ日本語だけでなく、日本語で何かを楽しく学ぶ機会を与えたいと思っていたのです。なぜなら、僕の娘の日本語がどんどん弱くなってきていて、家庭では基本的に英語になってしまうので、なんとか日本語で楽しく何かを学ぶ機会を作りたいとも考えました。

そして、2016年から2017年にかけて、アメリカで教えるコンピュータ・サイエンスの基礎、マイクロビットを使って教えるフィジカル・コンピューティングのクラスなどを日本人エンジニアの方々と10回ほどやりました。すべて日本語でやり、とても楽しかったのです。ただ、2018年からはすべての授業を基本的に英語で実施しています。

シアトルのクラスで楽しくダンスを踊る子どもたち

– その大きな切り替えを実行したのはなぜですか?そのきっかけは?

その日本語のクラスをしている時に、違和感がありました。なぜなら、コンピュータ・サイエンスはそもそも英語なので、それを日本語で教えようとすると、難解な日本語で教えるか、英語をカタカナにした言葉で教えるかのどちらかになってしまうからです。例えば、binary number にしてもそうです。日本語では「二進法」になるのですが、小学生向けではありません。それなら「バイナリ」と言ってもいいわけですが、「二進法」も「バイナリ」もしっくりこない。だいたい「二進法」という言葉をこちらにいる子どもが覚えても役に立たないのです。

2017年の夏に僕の実家のある熊本県の小学校で、コンピュータ教育について講演する機会がありました。残念ながらその学校ではコンピュータの授業は行われていませんでした。また2016年には熊本地震もありましたし、「熊本の子どもたちに何かしてあげたい」「何とか教えられないものか」という思いもありました。

先ほど述べた日本語で教える違和感を解消するために、シアトルに戻ってきてから、僕は英語のネイティブスピーカーではありませんが、実験的に現地校の子供に英語で教えたいと思いました。その年末にベルビュー市のインディペンデント・スクール「Open Window School」で実施しました。また、アメリカの4分の1の学校で使われているオンラインの学習環境 SeeSaw も使ってみました。そして、「日本語で教えるより、英語でできるだけ楽しく教える方がいい」と改めて思ったのです。そこで、完全に英語に切り替えました。

iPad を使ってダンスをプログラミング

– その間に SIJP はワシントン州登録非営利団体となるという大きなステップアップも経験されましたよね。そして、シアトルだけでなく、熊本や福岡ともつないでクラスを提供するようになりました。

たまたま2018年3月に熊本で開催されていた Information and Communication Technologies(ICT)のシンポジウムの案内をネットで見つけました。「SIJP の活動や SeeSaw を使うこと、英語で学ぶことについてシアトルからプレゼンさせてもらえないか」と問い合わせたところ、すぐに受け入れてくださいました。そして、プレゼンもとても好評で、実際にアメリカ在住のエンジニアの話を聞けることもあり、「熊本でもクラスをやろう」という話になったのです。また、興味を持ってくださったシンポジウムの主催者の方やTEDx の熊本の主催者の方が TEDx 福岡の実行委員会につないでくださり、Kids Code Club という子供向けのコーディング・クラブからも参加したいという声をいただいたので、昨年4月、シアトル・熊本・福岡をつないだ最初のクラスを実現することができました。

いろいろ改善点はあったものの、評判は良く、昨年7月には熊本高等専門学校でもクラスをする機会をいただきました。それ以後、シアトル・熊本・福岡をつないだクラスを開催し、熊本高等専門学校の生徒や福岡の学生やエンジニアの方がティーチングアシスタントとしてが毎回5-10人参加してくれ、うまくまわるようになりました。学生さんたちにとっては、英語の大切さ、人に教えることの大切さも学べるチャンスになっています。そして、昨年12月に開催したのが、シアトル・熊本・福岡・北海道をつないで、それぞれの場所で子どもたちがダンスをし、そのダンスをコーディングして発表するというクラスでした。熊本の英会話の先生が英語でダンスの動きを教えてくれたのですが、そんなふうにセクションに分けていろいろな場所からいろいろな人が教えるのが理想です。

– 今崎さんが考える、理想のコンピュータ・サイエンス教育とは?

僕が知っている限りでは、2020年から始まる新しい教育方針では、日本ではコンピュータ・サイエンスを教えるのではなく、それぞれの教科に組み込んでいく方針のようです。例えば、算数に組み込んで、スクラッチを使って多角形を描くという感じですね。

それもいいのですが、僕の考え方はやはり、算数や国語と同列に、コンピュータ・サイエンスという教科を設けることです。コンピュータは子供達の将来にとって国語や算数と同じように大切。これからコンピュータなしでは何もできない世の中になるので、コンピュータ・サイエンスを知っているか知っていないかで将来に大きく差がつくと僕は考えるからです。

また、英語「で」何かを学ぶというのは、英語を身につけるために必要なことだと思います。その一つとして、英語でコンピュータ・サイエンスを学ぶことをシアトルから日本へ提供したいと思っています。

クイズアプリ Kahoot を使って授業内容をみんなで復習

– なぜ英語でコンピュータ・サイエンスを学ぶ必要があるのですか?

幼い頃からコンピュータ・サイエンスを英語で学んでいると、将来につながりますよね。なぜなら、コンピュータ・サイエンスでは、最新情報も英語なら、プログラムを書くのも英語だからです。日本語化される情報はほんの一握りで、その上、日本語化は一番最後。

特にコンピュータ・サイエンスでは日本語しかできないと世界がどんどん狭まってしまいますから、それなら最初から英語で学ぼうよと。そして、アウトプットも英語で出していく。僕もクラスのレポートを英語にしています。

– 今崎さんご自身は日本でどんなふうに英語の勉強を始められましたか?

僕はアメリカのテレビ番組の『Friends』 や 『Full House』 が好きで、それを見ながら主人公になったような気持ちで話すなど、シャドーイングして勉強しました。好きな映画の脚本や洋書を買って読んだりもしました。そんなふうに、英語「を」勉強するのではなく、英語「で」”勉強”する機会、演劇やダンス、スポーツ、なんでもいいから好きなことと英語を組み合わせる機会を増やすべきだと思います。この前のコーディングのクラスではダンスをやったわけですが、みんなで Floss を踊って、そうすると自然に Floss という単語が頭に入ってきます。

今の子どもはツールには恵まれているのに、学校では受験のための英語になってしまっています。また、海外に来て友達を作るというのも一つの手ですが、1週間いたってそんなに単語は増えませんから、日常生活に英語をどんどん組み込んでいくことが必要だと思います。これから日本国外で働きたいエンジニアもそうです。エンジニアなら好きな分野があるでしょうから、それについて英語で読むといいですね。

他の都市のクラスでも同じように踊る様子を画面で見ながらダンス

– 今年やりたいと考えていることを教えてください。

サイコロトークってご存知ですか?サイコロの6つの面に「今日あった面白い話」など話題を書いて、さいころをふって、出た話題について話すというものです。「シアトル・熊本・福岡でせっかくつながってクラスをしているのに、子ども同士が話せる機会がない」というフィードバックがあったので、以前からこのサイコロトークをやってみたいと思っていましたが、今年は日本の子どもとシアトルの子どもをインターネットでつないでやったら面白そうです。日本語で話すとか、英語で話すとかいった、言語を決めて話すサイコロを作るのも面白いですよね。

また、実際にクラスに行くのは大変だったりするので、時間がある時に学べるオンラインの仕組みを開発しています。code.org が出している英語の動画を見て、5分たったら動画が止まり、クイズが出てきて、正解だったら次に行けるというような感じです。ボイスオーバーもできるので、日本語で解説も追加することもできます。今まで開催した10種類のクラスをそのシステムに落とし込めば、世界のどこにいても使えます。また、将来的には日本の47都道府県すべてでクラスをやってみたいとも考えています。ご興味のある方々からご連絡いただけると嬉しいです。

もうひとつ、福岡の人たちが取り組んでいるのは、ポイント制です。クラスをやっている時に、例えば友達同士で助け合ったりしますよね。その感謝の気持ちを表すために助けたら何ポイント、Seesawのアクティビティを完成したら何ポイントと、見える化するのです。Google や Facebook ではthanks system というものがあり、プロジェクトなどで助けてくれた同僚にポイントをあげ、たまった手持ちポイントをパフォーマンス(業績)評価にデータとして使用していますが、それと同じようなシステムで驚きました。「ポイントがあるから助ける」というのもよくないのですが、子どもたちが助けることに躊躇してもらいたくない。また、チームが成功することはみんなの成功ですから、ポイント制でもそれが学べるのではないかと思っています。

– 子どもたちが世界とつながるチャンスが増えますね。

複数の都市で同時開催して、それをライブ中継して、みんなが同じダンスをしている。それを見ていて、すごいなと思いました。私たちのクラスではシアトル、熊本、福岡、北海道も子供達が一つのクラスになるのが理想です。

インターネットのおかげで物理的な距離を超えることがこれから加速するでしょう。子どもたちに世界はつながっているんだと実感してほしいです。複数の都市をオンラインでつなげば、シアトルに来なくても、自分とは違う誰かと話す機会になります。そうした機会を通して、いろいろな子どもがいることを知り、ダイバーシティを実感して、相手の意見を尊重しながら自分の意見を積極的に発言していくことを学んで成長することができればいいですよね。日本の子どもたちに「世界はつながっている」と実感してもらうことができれば、これ以上に嬉しいことはありません。

– ありがとうございました。

SIJP では、英語でのコンピュータ・サイエンス教育に興味があるボランティアを募集しています。興味のある方は contact@sijp.org までご連絡ください。

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