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第5回 子供に与える影響: 発達段階から見た概要

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皆さんは、「暴力が子供に与える影響」という言葉を聞くと、どんなことを考えられますか。よくテレビ・ビデオゲーム・映画などの暴力、学校への銃の持ち込み、殺人事件、非行グループ、ギャング集団などが話題になります。親として、コミュニティとして、どのようにしてこれらの影響から子供たちを守ることができるのかと真剣に悩まれたことがあると思います。

しかし、子供に与える影響という意味で、最も深刻で長期に及ぶ影響は、DV によるものと言われています。子供にとって安全で安心できる場所であるはずの家庭が危険で安らぎが得られない場所だとしたらどうなるのでしょうか。今回は DV の影響を発達段階別に見て行きましょう。

胎児:

DV は、母親が妊娠している時に増加すると言われています。母親が殴られたり、蹴られたりすれば、当然胎児への悪影響が心配されます。母親が精神的にいつも緊張していたり、妊娠中に医師の定期検診やその他のケアを受けられなかったりすると、低体重や発育の遅れなどの問題が起こることがあります。

幼児:

幼い子供は、DV によってケガをしがちです。これは、子供を抱いている母親が暴力を振るわれたり、父親が怒鳴ったり暴力を振るったりする時、子供が怖がって母親のそばに行くなど、子供が父親の暴力を避けられないことで増加します。また、身体的暴力の犠牲にならなくても、父親がいつ怒鳴るか、暴力を振るうか予測できない恐怖、また、父親が年齢不相応の期待を子供に押し付け、(幼児が)泣いたから、またはおもちゃを片付けなかったからという理由で "叱られる"、家族が父親の暴力から身を守ることに精一杯で、普通なら家族の関心が幼い子供に向けられる時であるにも関わらず無視されてしまうなどといったことのために、夜泣き、おもらし、つめ噛みなどの神経質な症状、腹痛などの身体的症状を訴えたり、感情が乏しく、引きこもりがち、逆に他の子を叩く、噛む、物を壊すなどの問題行動が多くなると言われています。

学童期:

この時期の子供は、母親を守ろうとしてケガをすることがよくあります。さらに父親にはむかったという理由で、父親の暴力の対象になりがちです("しつけ" という名を借りて)。この時、子供は複雑な気持ちを経験しています。例えば、父親への恐怖や憎しみ、そしてそういう感情を持つことへの罪悪感、母親を守ることができないことに対する罪悪感・無力感、また母親が自分達を守ってくれないことへの恨みなどです。

また、父親が母親を子供の前で始終けなしたり、母親がちゃんとしないから父親が "怒る" のだと父親に教えられたりしていると、母親を尊敬しなくなり、母親が子供をしつけることが難しくなるかもしれません。あるいは、学校に行っていても母親がケガしているのではないか、自分たちを置いてどこかに行ってしまうのではないかなど心配になり勉強に身が入らず、自宅で宿題も落ち着いてできないため学業不振になるかもしれません。成績以外にも落ち着きがない、乱暴であるなど行動上の問題が出て学校で問題児のレッテルをはられるかもしれません。家で何が起こるかわからないので恥ずかしくて友達を呼べない、だから友達の所にも呼んでもらえないということで友人関係もうまくいかないという問題がおこるかもしれません。抑鬱・自殺願望・登校拒否・非行などの問題が見られることもあります。

逆に、親を頼ることができないので年齢以上にしっかりし、親代わりに弟妹の世話をする、成績もいい "いい子" になることもあります。しかしこの場合、大人になって依存しあう関係ができにくいなどのの問題が出てくるかもしれません。

思春期:

加害者の父親は非常に保守的な性的役割の考え方を持っていることが多いと言われています。つまり、男は男らしく、女は女らしく、妻は夫に従い、などというものです。思春期は性的発達が進むと同時に自分の性的役割を学ぶ時期でもあります。男の子は、両親の関係を見て、暴力を振るってでも女性を自分の思い通りにコントロールしてよいと思うようになるかもしれません。早期の性的関係・妊娠・喫煙・飲酒・その他の薬物中毒・家出・犯罪などの問題が起こる率が高いとも言われています。

今回は DV による子供への影響を述べてきましたが、DV があるから子供は問題を起こすようになるかというと必ずしもそうではありません。ではどうしたら子供への影響を食い止めることができるのでしょうか。そこで重要となるのが、信頼できる大人の存在です。

  1. 被害者である母親・兄・姉が子供を守り、子供といい関係にある。
  2. 親戚(祖父母、叔父叔母)が物理的・精神的な子供の逃げ場所を提供している。
  3. 学校の先生・カウンセラー・コーチ・友達の親などに話を聞いてもらうことができる。

このように、他の大人が父親とは違うロールモデルになり、子供をサポートし、必要な時にはいつでも話ができ、子供は自分の中で1人で秘密を抱えて生きていかなくてもいいということになれば、精神的にも安定した大人に育つことが期待できます。逆に、子供の時に DV を経験すると一見適応しているように見える人でも、長期のカウンセリングが必要という話をよく聞きます。このため DV などの問題があれば子供の時期に学校などででカウンセリングを受けることができる体制を整えること、周囲の大人が見て見ぬふりをせず、積極的に援助することなどが必要でしょう。ここで再び DV は個人の問題ではなく、地域社会全体の問題だということを強調しておきたいと思います。

掲載:2004年7月

家庭内暴力・性暴力被害者のための日系人専門アドボケイト
ひろこさん

名古屋大学教育心理学専攻。埼玉県児童相談所・東京都下の一般病院・精神科病院などでの心理職・カウンセラー歴10年、インディアナ州立大学で心理学修士、ロサンゼルスでインターン後アジア系ドメスティック・バイオレンス被害者用シェルターに勤務。2003年5月から2004年8月までドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者のための非営利団体 Asian & Pacific Islander Women & Family Safety Center(アジア・太平洋諸島出身の女性と家族のためのセーフティ・センター、現 API Chaya)でアドボケイトとして勤務。DV・性暴力などの被害者に直接相談に応じる他、DV についてのコミュニティ教育やアウトリーチに力をいれています。

DV に関する相談所:
API Chaya
P.O. Box 14047, Seattle, WA 98114
【メール】 info@apichaya.org
【無料ヘルプライン】1-877-922-4292
【公式サイト】 www.apichaya.org/japanese

LifeWire(旧称:Eastside Domestic Violence Program)
【クライシス・ライン (24時間受付)】 (425) 746-1940 または (800) 827-8840

※現在、「ひろこさん」に直接連絡できるところはありません。

コラムを通して提供している情報は、一般的、および教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 このコラムから得られる情報に基づいて何らかの行動を起こされる場合は、必ず専門家に相談するようにしてください。

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