筆者プロフィール:松原 博(まつばら・ひろし)
GM STUDIO INC.主宰。東京理科大学理工学部建築科、カリフォルニア大学ロサンゼルス校建築大学院卒。清水建設設計本部、リチャード・マイヤー設計事務所、ジンマー・ガンスル・フラスカ設計事務所を経て、2000年8月から GM STUDIO INC. の共同経営者として活動を開始。主なサービスは、住宅の新・改築及び商業空間の設計、インテリア・デザイン。2000年4月の 『ぶらぼおな人』 もご覧ください。
シアトルの住宅街を歩いてまず気がつくことは、築50年以上の古い家が圧倒的に多いことだろう。シアトル市内でも比較的古い街並みが残っているキャピトル・ヒルや筆者が住むモントレイクの周辺では、築90年以上の家がほとんどだ。開発が遅かったウェスト・シアトル周辺でも、1950年から60年代にかけて建設された建物が多い。
米国では一般的に、既存の家を潰して新しい家を建てるより、新しい家主がライフスタイルに合わせて改築・増築を繰り返すでほぼ原型をとどめることが多く、米国内の住宅の平均寿命は約100年とも言われている。その理由として、外装材にペンキを多用することにより、外装木材が傷みが少なく、同時に外装材に守れらた内側の構造材の損傷が少ないことや、20世紀初頭から導入されたプラットフォーム・フレーミング式(日本では一般的にツーバイフォー工法と呼ばれている)と呼ばれる熟練職人を必要としない合理的な構造システムが挙げられる。これにより、西ヨーロッパの建築物で多用されているブロック造に比べ構造フレーミングの改造が比較的簡単にできるため、増改築の普及をもたらし、建物の寿命を延ばしていると言えるのではないだろうか(写真1)。もうひとつの大きな理由として、一般の米国の住宅では、建物の増改築をした場合、工事費の60%から80%が建物の評価額の直接増加分として追加され、増改築が資産投資として幅広く認識されていることが挙げられるだろう。しかし、決定的な理由は、建物の資産価値が日本のように年代と共に減ることがないことと言える。