去る10月8日、消費者の感性に訴える「ワクワク系マーケティング」を提案するオラクルひと・しくみ研究所代表の小阪裕司氏が、『「心の時代」にモノを売る方法 ~顧客と売上を創り出すための3つのカギと実践~』と題し、シアトルでは今年6月に続いて2回目となる講演を日系コンサーンズで行った。
何を持っているかが大事だった時代から、どう充実して生きているかが問われる時代に入った消費先進国・日本。心の豊かさを感じさせ、毎日のちょっとした幸福感を与えてくれる店や商品が好まれる消費動向の変化に現場が追いつかず、売上が落ち込むと、競合店を研究したり、商品価格を下げたり、商品をリニューアルしたりするのが一般的になっていると、小阪氏は指摘する。「しかし、売上は、競合が作るわけでも価格が作るわけでもない。お客さんに「買いたい」という気持ちになってもらう方法、その行動をしてくれるようになる方法を考える方がもっと大事」。
小阪氏は、「買いたい」「なんかいいね」「この店いいね」という気持ちを “感性” と呼ぶ。商品やサービスの価値をうまく伝え、人生を豊かにできるよう、買い手の “感性” に意識的にアプローチしていくには、時代の変化を認識して買い手が本当に求めているものを知り(同時代性)、ただ待つのではなく、気持ちと行動を生む「はたらきかけ」をし、買い手と絆を結ぶことが必要だという。
一時は廃業も考えながら、価格で選ばれる商品と価値(心)で選ばれる商品の違いに気づき、価値で選ばれる商品を多く揃えるようになってから、遠方からも利用客が訪れる繁盛店になり、過去50年で最高の売上を実現した過疎地のスーパーマーケット。重くて高価な鍋、ル・クルーゼは、 「かわいい」「これを使って料理をすると楽しい」という、楽しさ・幸せを感じさせることで不景気にも関わらず売れている。かつては不良品と考えられていたバークポケットなどのある木を床材に使って自然の木味を楽しむという新たな需要を作り出した朝日ウッドテックは、5年間も売れなかった商品ライブナチュラルを業界一位の人気商品に成長させた。
「成長している企業や売れている商品の何が以前と違うかというと、今のお客さんの心をつかむことが上手。ファンを増やし、買いたいものを増やしていく。心豊かに暮らしたいというお客さんに訴えることができている」
一方、全体的に消費が落ち込んでいる日本酒。若者が日本酒を飲まない理由について、業界関係者は「二日酔いになりやすいからか」「においが嫌なのか」など30数種類も挙げたが、実は若者は日本酒を飲む理由があると思っていなかった、つまり、日本酒の価値がうまく語られていなかったと、小阪氏は言う。
「ただ事実を並べているだけでは、買い手の心を動かすことはできない。情報の伝え方を間違えると、価値がないことと同じになってしまう。情報の量ではなく、質。その商品を買わないといけない理由を聞かれたら何と答えるか。その商品の持つ物語を伝え、買うという行動を動機付ける必要がある」
会場に集まった学生から社会人、企業経営者らは、セミナーに熱心に耳を傾け、閉会後には小阪氏と言葉を交わそうという人の列ができた。小阪氏は、「ドラマチックな例を挙げたが、実際は日々の地道な努力」と語る。ある企業経営者は、「前回のセミナーにも出席したが、面白くてためになる。今日からでもできることのヒントがまた見つかった」と、笑顔を見せた。
小阪裕司
オラクルひと・しくみ研究所代表
www.kosakayuji.com
人の心と行動を研究し、中小企業を対象に、現場での実践を行っている。過去15年で約5千社が会員サービスを利用。著書に『「お店」は変えずに「悦び」を変えろ!』『「心の時代」にモノを売る方法 変わりゆく消費者の欲求とビジネスの未来 (角川oneテーマ21)』など。一部の著書は韓国語・中国語にも翻訳されている。