ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー
清水 楡華(しみず ゆか)さん
14640 NE 24th Street
Bellevue, WA 98007
【電話】 (425) 785-8032
【公式サイト】 ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー土曜学校
バイリンガル幼稚園、BCA 現地校(英語サイト)
Willows Preparatory School ミドルスクール現地校(英語サイト)
詳細プロフィールはこちら
9月7日に大切な人を亡くしました。幼いときに父親を癌で亡くしている私の子供たちにとっても大きな存在であった人です。共通の知人である桐島洋子さんにシアトルのホテルで紹介されてからのお付き合いでした。
子供も親戚もなく、一人で最期まで生きた彼女にとっても、私たちは本当の家族のようでした。それぞれの仕事が忙しく、祭日にもめったに揃わない子供たちが、告別式に出席するため、サンフランシスコやニューヨークから帰ってきました。
主人のいなくなった彼女の部屋で、ひとつのかばんを見つけました。子供たちが彼女に贈ったカード、写真、作文、お土産、すべてが詰まっていました。子供たちが初めてひらがなで書いた彼女の名前のお習字から、子供たちが初めてのお給料から彼女にあげたお年玉袋も年が記入された状態できれいに保存されていました。留学先のイタリアや、旅行先のアフリカから、日本語と英語で送られたカードも出てきました。子供たちの成長のアルバムをそこに見つけ、彼女が子供たちに寄せてくれた愛情の深さに涙があふれました。
彼女はそれほどに子供たちの成長過程に、大きな影響を与えた一人でした。バイリンガルとして日本語と英語を学習する以上に「世界で生きていく力」をつけるよう、指導してくださいました。
わたしが日本食にこだわっていた頃、「幼い時は世界の味を食べさせなさい」と言われました。1950年代後半に世界中を飛び回って活動していた彼女からバイリンガルに育つ子供への最初の贈り物でした。そのおかげでヨーロッパへ行ってもどこへ行っても、たくましく食べ、また、食を通じて現地の人と交流し、ビジネスの成功に貢献しています。
「子供のときにアメリカの社会をできるだけ体験させなさい」と指導してくださったのも彼女でした。私が日本で育っているわけですから、アメリカの家庭環境を子供に与えることができませんので、アメリカ人の友人と交流し、アメリカでのお泊りキャンプや夏休みの合宿に積極的に参加させました。おかげで、今ではアメリカ社会で何の躊躇もなくリーダーシップをとっています。
また、日本人としての誇り、マナー、しつけにも厳しい彼女でした。それは日本の昭和初期の厳しいしつけでした。日本人が昭和の経済成長期に忘れてしまったしつけかもしれませんが、そのしつけは不思議と現在のヨーロッパ、またアメリカの上流家庭に残っており、普通の家庭に生まれた子供たちなのに、そういう方々とも交流し、子供たちの人生に大きく貢献しています。
そして人と物を見極める力もそうです。いつも子供たちに「人を観察しなさい」と言っていました。うわべでなく、本質を見極めなくてはいけません。人種の坩堝であるアメリカで生きていくなら、それは自分で自分を守る上で一番大切なことであるような気がします。
世界を変えるのは教育です。昭和の激動期に世界をめぐった彼女は、外交官だったアメリカ人の夫とともに Watergate に住み、その知性と知恵でたくさんの人に彼女流の教育をしてくれました。私を含め、告別式に世界中から集まった人たち、世界中から届いたさよならのカードは、彼女の教育が世界を変えたという一つの証です。親である私たちもまた、子供を育て教育することで世界を変えていくことになるのです。日頃の小さな事柄に追われ毎日を忙しく過ごしている中、彼女の人生を振り返り、人の命の尊さと教育の尊さをもう一度見直すことができました。
母親として、教育に携わる者として、彼女の教育への感謝を忘れず、命の尊さ、教育の尊さを大切にしていきたく思います。
掲載:2013年10月