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HOLLABACK! バイスタンダーのワークショップで学んだ「5つのD」

アジア人とアジア系アメリカ人に対する差別や暴力が報道されることが増えているアメリカ。

このシアトルでも日本人の那須紀子さんがいきなり殴られ怪我を負う事件が発生したことで、自分が被害にあうこともそうですが、自分以外の誰かが被害にあっている場に遭遇した時はどうしたらいいのかと考えさせられ、「アジア人に対するヘイトクライム 私たちにできることは」を書きました。

たくさんの反響をいただいたので、Asian Americans Advancing Justice を通じて知った HOLLABACK! という非営利団体が無料で提供しているバイスタンダーのためのワークショップに参加したことについてまとめたいと思います。

HOLLABACK! は、アジア人に対する差別だけでなく、「ハラスメントをよしとする文化を変えること」を目標に啓蒙・教育活動を行っている非営利団体です。

4月14日に開催されたワークショップには、全米各地はもちろん、カナダからの参加者もいました。また、参加者全員がアジア人やアジア系アメリカ人というわけではなく、「家族や友人などにアジア人やアジア系アメリカ人がいるので、バイスタンダーとして良い介入方法を知りたい」「歴史を知りたい」「今起きていることを知りたい」という理由で参加している人もいました。とても心強いですね。

ちなみに、バイスタンダー(bystander)には、「傍観者」「見物人」という意味もありますが、この場合は「その場に居合わせた人」という意味です。

「どういったものが嫌がらせ・差別なのか」を明確にする

ワークショップはまず、この団体のトレーナーの一人で、俳優・振付家・監督などとして活動しているダックス・ヴァルデスさんがリードし、ジョージア州アトランタやコロラド州ボルダーで起きた銃乱射事件の被害者を追悼するための黙とうから始まりました。

次に、「どういったものが嫌がらせ・差別なのか」といった質問が投げかけられました。

「そんなこと今さら?」と思うかもしれませんが、「自分が経験したことは、嫌がらせ・差別なんだろうか」「自分の思い込みや勘違いではないだろうか」「あの人はそんなつもりではなかったのでは」と考えることもありますよね。

参加者は、「人種に関連した差別用語を言われた」「サービスを拒否された」といった複数のチョイスの中から、自分が経験したことや目撃したことを選びます(私は iPad でこのワークショップに参加していたので、画面をタップする方法で選びました)。いろいろなチョイスのすべてに「体験したことがある」と答えた人がいましたが、これはつまり、あらゆる形で嫌がらせ・差別が起きているということで、自分だけでなく、いろいろな人が体験しているということ。

回答者が最も多かったのは、「ジョークの形で恥ずかしい気持ちにさせられた(shaming)・屈辱を与えられた(humiliation)」というものでした。

「こうした行為は他人を尊重しない行為であり、良いことではなく、放置すると許してしまうことにもなり、どんどんひどくなる」と、ダックスさん。

「だから今、声をあげなくてはならない。」

被害を受けた方が「スルーするのが大人の対応」「ジョークなのに、真面目に受け取る方が悪い」「悪気はない」などと言われて泣き寝入りしたり、報復を受けたりし、やった方は放置されて増長する - そうした出来事が地層のように積み重なり、今、大きな問題になっているのは、アメリカや人種問題に限ったことではないですよね。

その後、アメリカでのアジア人に対する差別についての歴史も簡単におさらいしました。

中国人排斥法(Chinese Exclusion Act: 1882~1943)、日系人強制収容(1942~1949)、9/11の後のイスラム教徒への差別など主な出来事が紹介され、今起きていることは最近始まったことではなく、昔から続いていることがわかります。これとあわせて、最近の事件や政治家などの問題発言も例として挙げられました。

1時間のワークショップなのに、とても内容が濃く、ここではとても書ききれません。

バイスタンダーのための「5つの D」とは

ワークショップが始まって25分ほど過ぎた頃、実際にアジア人に対する嫌がらせや差別の現場に居合わせた時にどうすればいいのかという本題に入りました。

そもそもなぜバイスタンダーが介入することがトピックになるのかというと、第三者の介入があることにより状況が改善される場合が多いにも関わらず、実際に介入した場合が少ないからとのこと。それを示す統計もあることから、HOLLABACK! は「可能な限り介入した方がいい」という考えを多くの人に理解してもらおうとしています。

「介入」というと、その場で加害者に立ち向かうことを想像するかもしれません。確かに、それもチョイスの一つですが、「自分の安全を確保するのが最優先」と繰り返し教えられました。

そして、加害者が自分よりはるかに強そうな場合や、自分が子どもや年老いた親を同伴している場合、自分もアジア人であるために自分にも危害が加えられそうな場合など、「直接介入できない、したくない」と考えるのも当然だと説明された後に紹介されたのが、「5つの D」です。

簡単に説明すると上記のとおりですが、HOLLABACK! の公式サイトで詳しく説明されています(英語)。

最後に、この「5つのD」のどれを使うことができるか考える練習もしました。すごく身近な状況が例として挙げられ、参加者はその場で「これなら Delegate にしよう」「この場合は Direct ができる」「そんな場合は Document かな」と、それぞれ考えてオンライン投票していきます。結果を見ると、参加者のチョイスはさまざま。それぞれが自分に何かできることがあると考えていることがわかりました。

「スーパーヒーローにならなくていい。普通の対応をすればいいのです。」

ワークショップの最後の質問は、「さて、これから実際に嫌がらせや差別を目撃した場合、自分にできることが一つはあると思いますか?」

加害者に直接立ち向かうのは難しくても、バイスタンダーとしてそれ以外にできることがある。この「5つの D」を知ることは、まさに empowerment という感じがしました。そういうバイスタンダーを増やしていくことが、このワークショップの目的なのですね。

最後にダックスさんが言った言葉が印象に残りました。

「スーパーヒーローにならなくていい。普通の対応をすればいいのです。”Show up and do the best you can for each other.”」

その翌日の15日に公開された KUOW のポッドキャスト『SEATTLE NOW』で、シアトル市の職員のためのバイスタンダー・ワークショップを提供しているという Assistant Ombud & Mediator のアブドゥル・オマールさんも、同じ「5つの D」対策を紹介していました。

「被害者になることはとても屈辱的な経験です」と、オマールさん。「なので、自分がバイスタンダーになって写真や動画を撮っても、勝手に公開しないこと。常に被害者の立場で考える、それが基本です」。

自分も参加してみたいと思った方は、HOLLABACK! のワークショップをチェックしてみてください。

HOLLABACK!: Bystander Intervention Training
www.ihollaback.org/harassmenttraining/

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