事の始まりは、ミズーリ州セントルイスのテレビ局 KSDK でアンカーを務める韓国系アメリカ人のミシェル・リーさんが元日に出演した番組で、新年に食べる物を紹介した時に言ったこの一言でした。
“I ate dumpling soup. That’s what a lot of Korean people do.”
(私は dumpling soup を食べました。元日に多くの韓国人が食べているものです)
“Korean dumpling soup” を検索すると、Manduguk(マンドゥクッ)という料理が検索結果に出てきて、おいしそうな写真も表示されます。
私なら「へー、そうなんだ、おいしそう。どんなレシピだろう」となるのですが、事態は意外な方向へ。
と言うのも、この番組を見ていた一人の女性がわざわざテレビ局に電話をかけて、苦情のボイスメッセージを残したからです。
“Hi, this evening your Asian anchor mentioned something about being Asian, and Asian people eat dumplings on New Year’s Day. And I kind of take offense to that because what if one of your white anchors said, ‘Well White people eat this on New Year’s Day’. I don’t think it was very appropriate that she said that, and she was being very Asian. I don’t know. She can keep her Korean to herself. Alright, sorry. It was annoying. Because, if a White person would say that, they would get fired (chuckles). So, say something about what White people eat. Alright, thank you.”
そのボイスメッセージの内容は、ミシェルさんの一言は「適切ではないと思った」「非常にアジア的」「ちょっと腹が立った」「彼女は自分の韓国的なことを自分の中にしまっておくべき」「白人が何を食べるかを話して」というものでした。
そもそもミシェルさんが自分のことを持ち出した理由は、番組で紹介した緑の野菜、黒目豆(ブラック・アイド・ピーズ)、コーンブレッド、豚肉を元日に食べるのはアメリカでも一部だけだから(参考)。アメリカはもっと多様だよという文脈だったんですよね。
ミシェルさんが元日にツイッターで “I’d like to say something back” という文章とともにシェアしたこのボイスメッセージの録音を聴いた時は、新年早々、食べ物の話でさえ人種問題にしてしまう視聴者にげんなりしたのですが、よく見るととてもポジティブな流れが巻き起こっているではないですか!
全米の報道業界のアジア系アンカーたち(もちろん、シアトルのテレビ局のアンカーたちも)、俳優のジョージ・タケイやケン・ジョン、台湾系アメリカ人のボストン市長ミシェル・ウーなどといったアジア系の著名人をはじめ、人種を超えた応援ツイートが数千件。
それも、「アジアンであることを誇りに思っている」「2022年にもなって、まだこんな人がいるのか」「この女性こそ黙っておくべき」というツイートから、「このツイートを読んだら、dumpking が食べたくなったから冷凍庫から出してきたよ」「#VeryAsian なところを見られてしまった~!」とアジア系の料理を作っている写真や食べている写真をシェアするツイート、そしてシンプルに「dumpling おいしいよね」というツイートまで、パッと見たところポジティブな応援の内容ばかり。
その勢いは止まらず、動画のアクセスは数百万件になり、ハッシュタグの #VeryAsian がトレンド入りしました。
ミシェルさんの勤務先のテレビ局 KSDK は、「採用する社員、提供するストーリー、地元コミュニティのダイバーシティを歓迎している。ミシェルをサポートし続け、ダイバーシティとインクルージョンをたたえる」とのメッセージを出し、ミシェルさん自身がこの件について番組で話す時間を作っています。
実はミシェルさんは以前、シアトルのテレビ局 KING5でアンカーを務めていたことがありました。いろいろな記事を読んでみると、韓国で生まれて養子に出され、白人の養父母にミズーリ州で育てられた韓国系アメリカ人で、1998年に韓国の家族と再会し、それ以来、韓国の文化を生活に取り入れてきたそうです。
自分のルーツは、自分のアイデンティティの一部。それを大切にするのは、ジャーナリストとして数々の賞を受賞しているベテランだって同じですよね。ミシェルさんは、この女性のボイスメールが届く前に「アジアの食べ物について触れてくれてありがとう」といった感謝のコメントを視聴者からもらっていただけに、とてもショックを受けたそうです。
でも、ワシントンポストの取材に対し、「差別的で偏見に満ちていて間違っていると思う意見であっても、誰かが意見を持っていることを恨んだりしない」「私たちは皆、存在しようとしている人に過ぎない」「もしこの女性と実際に話す機会があれば、dumpling soup を食べながら、心のこもった会話をしたいと思う」と話していました。
2020年に表面化したアジア差別をやめさせるため #StopAsianHate というハッシュタグが作られてから2年がたって、「アジア的なことを誇りにしようよ」という #VeryAsian というハッシュタグが作られる、そんないい展開が広がっていることにうれしくなりました。なので、ジャングルシティのツイッターのプロフィールにも #VeryAsian を追加しています。
この後、#VeryAsian は草の根のムーブメントとなって、ミシェルさんは教育、ストーリーテリング、そして地域社会とのつながりを通じて、多様な AAPI(アジア系アメリカ人と太平洋諸島出身者)の声をより広く伝えることに取り組む The Very Asian Foundation を設立しました。今は活動資金に充てるため、このハッシュタグを使った商品の販売を通じて寄付を募っています。