オーナーのデビット・ショマーさん
「シアトルのカフェでどこが好きですか?」と尋ねると、必ずと言っていいほど名前が挙がるのがキャピトル・ヒルにあるエスプレッソ・ヴィヴァーチェ。エスプレッソ・ドリンクの味、豆の品質、バリスタのスキルなどすべての面でトップクラスの同店を抜きにして、シアトルのカフェを語ることはできないと言っても過言ではない。
取材当日、オーナーのデビット・ショマーさんがまずラテを作ってくれた。エスプレッソを抽出するためにタンピング(tamping)をするところから、ミルクをスチームし、カップにミルクを注ぎ、ミルクのフォームでロゼッタ状の葉を描き終えるまで、真剣な面持ちだ。その丁寧かつ迅速な手際は見事で、ものの数分で1杯のラテが完成。葉を見て「良い葉が描けた。自分でも納得することはあまりないけど、これは自分でも納得できるよ」とデビットさん。彼がこだわるのはラテ・アートだけではない。豆はもちろんのこと、エスプレッソを抽出する機械からバリスタ教育まで、その細やかさはまさに職人。そのコーヒー職人、デビット・ショマーさんに ヴィヴァーチェの誕生からシアトルのコーヒー事情まで聞いてみた。
【公式サイト】espressovivace.com
初めてコーヒーについて学んだのはいつですか?
ほぼ素人同然でビジネスをスタートさせたので、経験を通して学びました。開店してからですが、イタリアへ勉強にも行ったこともあります。
ヴィヴァーチェという名前はどこから来ているのでしょうか?
ヴィヴァーチェという名前は僕が考えました。 “すばらしい人生を奏でる” という意味の言葉 “motto of vivace” から来ています。コーヒーのすばらしさを称える意味では、この店にぴったりの言葉だと思いました。
ヴィヴァーチェでバリスタになるのは大変だという話を聞きますが、どのようなトレーニングをしているのですか?
トレーニングは継続して毎日やっています。私や他の訓練担当者からエスプレッソやミルクについてトレーニングを受けながら練習を重ね、経験を積み、当店で1人前のバリスタとして勤務できるようになるには1年かかります。私達は常にチームとして働きますので、経験の浅い人は経験豊富なバリスタから学ぶことができます。また、私自身にも、そして熟練したバリスタたちにも継続して学ぶことを義務づけています。その目的は、常に生徒である態度を持ち続けるためです。学ぶことを止めてしまうと、良いものを作ることはできません。プロのバリスタとして働くことは、簡単ではないのです。
奥が深いですね。バリスタにとって大事なことは何でしょうか?
何かに興味が持てること。そして、常にコーヒーを作ることに興味を持っていなければなりません。コーヒーについてのセンスも必要です。生活のためにバリスタをするというのでは長続きしないでしょう。コーヒーの美しさを引き出すことに興味があってこそ、良いバリスタとして活躍できると思います。
ラテを作り終える時に、カップにロゼッタ状の葉を描くラテ・アートをシアトルのカフェで採り入れたのはデビットさんだと言われていますが、そのアートに関して聞かせてください。
1988~1989年当時はラテにハートを描いたのですが、ある時イタリアのバリスタが作るロゼッタ状の葉を見て、「自分にもできる」と思ったのです。そして、大きなカップにミルクを注ぎながら、幾度か挑戦するととても美しい模様が描けるようになりました。それが始まりです。しかし、ラテ・アートはコーヒーの美しさに関心を向けるためだけのもので、決してドリンクを作る時にたどり着くべきゴールではありません。寿司職人が演出のために寿司を美しく盛り付ける、そのような感じと言えばよいでしょうか。
今ではそのラテ・アートがさまざまなところに広まっていますね。
1994年に教材用のビデオを作成したせいもあるでしょう。ビデオはアメリカのみならずアジアでも販売されました。コーヒーに対し私が貢献したことをいろいろなところで目にできるのは嬉しいことです。ラテ・アートを広めたことを誇りに思います。
プロのバリスタ達の多くがヴィヴァーチェを絶賛していますが、それは何が理由だと思いますか?
そのように評価してもらえるのは嬉しいことですね。私たちが本当に関心を持っているのは、一杯のドリンクの質なのです。当然かもしれませんが、私たちが常に気にかけていることはそこなのです。メーカーと取り組み、私の納得がいくように機械も改良をします。私の仕事は、高いクオリティを追い求めるため膨大な資金と労力を投資して調査し、豆をブレンドすること。ただただおいしい一杯を作るということが最大の動機で、それを求めて行動することほどスリルを感じることはありません。コーヒーを改善し続ければ、ビジネス面は自然とついてくる。これまでずっとそうなっています。
シアトルのインディペンデント系カフェについてどう思われますか?
最良なエスプレッソを作るのは、インディペンデント系カフェで、今後も向上し続けるでしょう。私は組合や企業がコーヒーの質を高めるとは信じていません。市場がコーヒーの質を高めると信じています。シアトルではそれが実現されていると思います。
企業系のコーヒーは広く知れ渡り、誰もがそこで何が飲めるのか知っています。多くの人が企業系のコーヒーを利用するのは、どこに行ってもある程度同じものが手に入るからです。一方、インディペンデント系カフェはお客を惹きつけるためにコーヒーの質で勝負しなければなりません。そのようにして、常連客を増やしていくのです。シアトルではそれが実際に起きています。レベルが上がっているのです。私がコーヒー・ビジネスをはじめた当初は、ボタンを押して、素早くエスプレッソを抽出だけで、まともにエスプレッソを出している店はありませんでした。しかし、今ではインディペンデント系カフェではイタリアで出されている本物のエスプレッソを味わるようになりました。これは大きな変化です。市場がそこまで成長させたのです。
5年後のインディペンデント系カフェはどうなっていると思われますか?
純粋な質はどんどん上がっているでしょうね。なぜなら、メーカーはエスプレッソ・マシンを改良し続けており、それを購入すれば、今私の店で使用している機会と同じ品質のものが他の店でも得ることができるようになるのです。5年後に大きな変化はなくとも、コーヒーの質自体はゆっくりと進歩して行っていると思います。
最後にデビットさんが好きなドリンクは何でしょうか?
トール・マキアートです。スチーム・ミルクとエスプレッソが入っており、朝食にはもってこいです。しかし、1日のドリンクで一番好きなのはなんといってもランチの後のエスプレッソ・ショットです。もちろん自分で作りますよ。
「私にとってエスプレッソはアート。それで食べていける私は幸せだと思います」とデビットさん。彼ほどに一杯のコーヒーにこだわるバリスタはそういないのではないだろうかと思わせられるほど、その職人技には感嘆させられる。「良いものを常に提供している」という彼の確固たる自信がコーヒー・キャピタルと言われるシアトルでもトップ・クラスという地位を不動の物にしているのだろう。
掲載:2004年9月 更新:2014年2月
ラテを作り終える時に、カップにロゼッタ状の葉を描くラテ・アートをシアトルのカフェで採り入れたのはデビットさんだと言われていますが、そのアートに関して聞かせてください。
1988~1989年当時はラテにハートを描いたのですが、ある時イタリアのバリスタが作るロゼッタ状の葉を見て、「自分にもできる」と思ったのです。そして、大きなカップにミルクを注ぎながら、幾度か挑戦するととても美しい模様が描けるようになりました。それが始まりです。しかし、ラテ・アートはコーヒーの美しさに関心を向けるためだけのもので、決してドリンクを作る時にたどり着くべきゴールではありません。寿司職人が演出のために寿司を美しく盛り付ける、そのような感じと言えばよいでしょうか。
今ではそのラテ・アートがさまざまなところに広まっていますね。
1994年に教材用のビデオを作成したせいもあるでしょう。ビデオはアメリカのみならずアジアでも販売されました。コーヒーに対し私が貢献したことをいろいろなところで目にできるのは嬉しいことです。ラテ・アートを広めたことを誇りに思います。
プロのバリスタ達の多くがヴィヴァーチェを絶賛していますが、それは何が理由だと思いますか?
そのように評価してもらえるのは嬉しいことですね。私たちが本当に関心を持っているのは、一杯のドリンクの質なのです。当然かもしれませんが、私たちが常に気にかけていることはそこなのです。メーカーと取り組み、私の納得がいくように機械も改良をします。私の仕事は、高いクオリティを追い求めるため膨大な資金と労力を投資して調査し、豆をブレンドすること。ただただおいしい一杯を作るということが最大の動機で、それを求めて行動することほどスリルを感じることはありません。コーヒーを改善し続ければ、ビジネス面は自然とついてくる。これまでずっとそうなっています。
シアトルのインディペンデント系カフェについてどう思われますか?
最良なエスプレッソを作るのは、インディペンデント系カフェで、今後も向上し続けるでしょう。私は組合や企業がコーヒーの質を高めるとは信じていません。市場がコーヒーの質を高めると信じています。シアトルではそれが実現されていると思います。
企業系のコーヒーは広く知れ渡り、誰もがそこで何が飲めるのか知っています。多くの人が企業系のコーヒーを利用するのは、どこに行ってもある程度同じものが手に入るからです。一方、インディペンデント系カフェはお客を惹きつけるためにコーヒーの質で勝負しなければなりません。そのようにして、常連客を増やしていくのです。シアトルではそれが実際に起きています。レベルが上がっているのです。私がコーヒー・ビジネスをはじめた当初は、ボタンを押して、素早くエスプレッソを抽出だけで、まともにエスプレッソを出している店はありませんでした。しかし、今ではインディペンデント系カフェではイタリアで出されている本物のエスプレッソを味わるようになりました。これは大きな変化です。市場がそこまで成長させたのです。
5年後のインディペンデント系カフェはどうなっていると思われますか?
純粋な質はどんどん上がっているでしょうね。なぜなら、メーカーはエスプレッソ・マシンを改良し続けており、それを購入すれば、今私の店で使用している機会と同じ品質のものが他の店でも得ることができるようになるのです。5年後に大きな変化はなくとも、コーヒーの質自体はゆっくりと進歩して行っていると思います。
最後にデビットさんが好きなドリンクは何でしょうか?
トール・マキアートです。スチーム・ミルクとエスプレッソが入っており、朝食にはもってこいです。しかし、1日のドリンクで一番好きなのはなんといってもランチの後のエスプレッソ・ショットです。もちろん自分で作りますよ。
「私にとってエスプレッソはアート。それで食べていける私は幸せだと思います」とデビットさん。彼ほどに一杯のコーヒーにこだわるバリスタはそういないのではないだろうかと思わせられるほど、その職人技には感嘆させられる。「良いものを常に提供している」という彼の確固たる自信がコーヒー・キャピタルと言われるシアトルでもトップ・クラスという地位を不動の物にしているのだろう。