みなさん、こんにちは!真洋です。
僕のシアトル生活も残り少なくなり、折り返し地点を過ぎた短いシアトルの夏と共に名残り惜しさを感じている日々です。今年の2月から4人のメンバーで始めたこのブログも、9月から新しいメンバーに引き継ぐことになり、これが僕の最後の記事になります。いつも以上に気持ちを込めて書きたいと思います!(笑)
それでは、『シアトル留学生カフェ探訪』 第29回のスタートです!
世界中からカフェの街として注目されているシアトルには、カフェ文化の礎を作り、 支えてきた歴史あるお店がいくつかあります。世界中に瞬く間にカフェ&コーヒーの波を広めたスターバックスが注目されがちですが、僕の最後のブログでは、シアトルのカフェ&コーヒーの歴史の中で皆様にぜひ知っておいていただきたい2軒をご紹介します。
バリスタのあるべき姿を教えられた 『Monorail Espresso』
まずご紹介するのはシアトルのダウンタウン、Pike Street 沿いにある 『Monorail Espresso』。Banana Republic が入っている米国歴史建造物指定の建物の壁に埋め込んだようなスペースで、コーヒーを淹れています。to go専用のお店なのですが、お店の目の前の道沿いにテーブルと椅子が並べられており、買ったコーヒーやペイストリー類をそこで楽しめるようになっております。

基本的にはコーヒーを購入して去っていくお客さんがほとんどなのですが、かわいらしいオレンジの椅子に、色とりどりのきれいな花が飾られている飲食スペースは、晴れている日の小休止には最高の場所になっています。
実はこのお店、もともとは世界で初めて移動式のエスプレッソカートで営業を始めたという歴史があり、1980年の営業開始当初はシアトルのモノレールの下にそのエスプレッソカートを置いていました。
エスプレッソベースのドリンクが基本で、日によってはクッキーなどの軽いペイストリー類もカウンターに置いてあります。僕が初めて日曜日の朝にここに訪れた時、バリスタの方にカタコトの日本語で「おはようございます。こんにちは。元気ですか?」と、今までシアトルのカフェで見てきたバリスタの中では一番高齢だと思うおじさんに話しかけられたのがとても印象的でした。とても気さくで陽気な方で、「毎週日曜日の朝にいるからまた来てね!今度来たらエスプレッソの淹れ方を教えてあげるよ!」と言われました。その後、日曜の朝に何度か訪れても、エスプレッソの淹れ方を教わることはありませんでしたが(笑)。
シアトルならどこにでもありそうな to go 専門の店で、個人的にはコーヒーのクオリティも他のカフェと変わり映えはしないのですが、アイスアメリカーノ(夏の晴れた日でコールドブリューがないお店では、エスプレッソに冷たい水と氷を加えたアイスのアメリカーノが僕の中での定番です 笑)をすすりながら店を眺めていると、ひっきりなしにお客さんが来てはコーヒーを買っていくのです。歩行者にはちょっと迷惑になりそうな列が店の前にできることもありました。日曜の朝はおじさんが一人で店に立っているのですが、じーっと観察してると、僕に優しく陽気に接してくださった時と同じように、すべてのお客さんに対してニコニコと話をしていました。
彼が朝からずっと店に立ち、コーヒーを淹れ、お客さん一人一人と最高のコミュニケーションを築いている姿を見て、これがバリスタとしてあるべき姿だと思いました。確かにこれだけ忙しくしていたら、ただでさえ狭いスペースに僕が立ち、彼からエスプレッソの淹れ方教わることができないのも当然です(笑)。でも教えてあげるよと言われたことがとても嬉しく、彼の心の優しさに触れ、大げさではなく、その日一中気分がずっと穏やかでした。
後からネットでの口コミを読んでみると、このおじさんに対しての口コミが大半を占めており、その人柄を評価しているお客さんが多くいました。すべての職に対して言えることではあるのですが、特にバリスタはコーヒーを作るだけではなく、コミュニケーションありきで、どれだけ温かい気持ちや体温をお客さんに伝えることができるかが大切なのだとこのおじさんから学ぶことができました。以前にスターバックス本社訪問のブログでも触れましたが、お客さんからオーダーを受けてコーヒーを淹れてお客さんに出すことはロボットでも可能なのですから。
コーヒーに情熱を注ぎ続けて47年 シアトル最古の焙煎所 『The Good Coffee Company』
次にご紹介するお店は、実はカフェではなく、焙煎とコーヒ豆の販売を専門にしているお店です。
パイク・プレース・マーケットに店を構える 『The Good Coffee Company』。実は僕が Bellden Cafe(僕が働いているカフェ)以外でこの一年間、一番多く足を運んだお店です。
初めてこのお店を訪れたのは、今年の2月でした。僕はカフェ巡りをする時、Google Maps に「coffee」や「cafe 」とだけ入力し、地図上に表示されたお店に手当たり次第に行くのですが、その時も、Google Maps に入力した結果、このお店が表示されたのが、このお店との出会いでした。
レンガ造りの建物がひしめく狭い路地に、『The Good Coffee Company』 とゴールドのオシャレなフォントで大きく記されたお店を見た時、胸の鼓動が少し早くなったのを今でも覚えております。それもそのはず、こんなに雰囲気のある店構えなのに誰からも聞いたことがなく、インターネットで探してもどこにも情報が落ちていない・・・。「秘密のカフェを見つけた」と思いました。
店の扉を開けると、そこは古い倉庫のようで、入って左側には年季の入った大きな焙煎機、右にはグリーンビーンズ(焙煎する前のコーヒー豆)の袋がたくさん並べられておりました。それらを見た瞬間「あ、カフェではなくて、焙煎所か・・・」と少しがっかりしたのですが、聞き覚えのない名前であったことは確かだったので、店員と思われるおじさんに声をかけてみました。
そのおじさんから話を聞いた後、店構えを見た時よりも3倍くらいのスピードで鼓動が早まりました。
この店は、1971年、スターバックスが創業を始める数ヶ月前に創業を始めたシアトルで最も古い焙煎所だということ。創業当初は別の場所にカフェとして店を構えていましたが、その後カフェを閉じ、ここに場所を移し、焙煎と豆の販売のみを行っているということ。オーナーは91歳で現役とのこと。おじさん自身は常連の一人で、オーナーの娘さんと息子さんと彼の4人でお店を回しているということ。現存するシアトル最古のカフェとして知られる 『Cafe Allegro』 も最初はここの豆を使っていたということ。
そして、オーナーの方針として、今まで「一切 "SNSやインターネット上に情報を公開せず、 シアトルの地元のコーヒー愛好家たちであってもこの店を知る人は少ない" 知る人ぞ知る焙煎所」だということ。
これらの話を聞いた瞬間にまずこの店を地図上に表示してくれた Google に感謝の気持ちでいっぱいになりました。そして、シアトルのコーヒー業界で最高齢のオーナーにぜひお会いしたくなったのですが、ご高齢で店に立てる時と立てない時があるとのことだったので、その日から毎日通い、娘さん、息子さんを経て、4日後に初めてお会いすることができました。少し耳が遠くなられているのですが、91歳には見えない姿勢の良さと、機敏に動き回り、注文された豆を袋に詰める姿を見て驚きました。このお店ではコーヒー豆の焙煎、販売の他に、コーヒー器具の販売とエスプレッソマシンの修理も行っており、修理に関してはオーナーがすべて一人で行っています。また、ドリンクの中で唯一エスプレッソのみ店頭で販売しており、オーナーがいる時は彼自身が時間をかけて丁寧にエスプレッソを淹れてくれます。
店を手伝っていた常連さんに聞いた話では、オーナーは誰かにここを継がせるつもりはなく、彼を最後に店を閉める予定とのことで、さらに、身体が年々弱ってきているので、数年以内にはこのお店も閉じてしまうだろうとのことでした。僕は、世界中からカフェ&コーヒーの街として世界中から注目されているシアトルで、一番初めにコーヒービジネスを始めたこのお店をシアトルの人が知らないのはとても残念なことだと思いましたし、なるべく多くの人に知ってもらうべきだと思いました。
この店のオーナーがそんなことは求めていないことを知ってはいたのですが、何かこのお店に対してできることはないかという衝動に駆られ、この店をシアトル中のコーヒーラバーに知ってもらうイベントをこの店で開催するために、企画を練り、できるだけ多く足を運び彼に僕のことを好いてもらえたらいいなと、2月から5月まで3ヶ月の間、授業の合間をぬいながらほとんど毎日通ってオーナーとの関係を築き、3ヶ月後にイベントをオーナーに提案しました。
しかし、彼の答えは一言、「Absolutely, No」。
僕自身、0か100の提案だと思っていたので、やはり残念ではあるのですが、それ以上に、3ヶ月間通って彼の姿を見続けた中で得た大切なことがありました。
「好きな事に情熱を捧げ、のめり込む」。よく聞く言葉ですし、世にありふれ過ぎた言葉ではあるのですが、彼の姿を見ていて、この言葉の大切さを改めて肌で感じることができました。特にアメリカでは好きなことにのめり込みすぎるくらいの人々がたくさんいます。でも周りは誰もその人たちを止めようとはしません。同じように誰かのチャレンジを止めたり、評論家のように蔑むような風習は、日本より圧倒的に少ない気がします。だから彼らは大きく成功するし、大きく失敗するのだと思います。大きく失敗したとしてもそこから学べることは計り知れません。チャレンジを恐れて小さく動き、小さく成功しても小さく失敗しても、そこから得られるものは大きく動いたそれよりも少ないのではないでしょうか。
彼から言われた「スターバックスはマーケティングの道を選んだが、俺はクラフトマンシップ(craftsmanship)の道を選んだ」という言葉がとても印象的でした。彼はあまり話す方ではないので、いつも店に訪れては彼の姿をただただ眺めていただけなのですが、エスプレッソマシンを修理している彼は本当に楽しそうで、耳が少し遠くなられているのもあって、僕が何を言っても反応しないくらい集中して作業にのめり込んでいました。
創業当初からのこのお店の常連さんが何人かいらっしゃり、その方々たちも、「彼は本当にこの空間だったり、コーヒーのことを愛しているんだよ。日々満足しているんだよ。だから別にこれを誰かに継がせようと考えていないし、何よりずっと元気なんだよね」と話していました。
コーヒーに情熱を注ぎ、その結果、自分が満足し楽しく豊かな人生を送ることができている彼と出会えて本当に良かったです。コーヒーやカフェと Google Maps が繋げてくれた奇跡の出会いに、ただただ感謝です。
この1年間、シアトル周辺のカフェをひたすら巡り、数か月前からはバリスタの卵としても働き始めましたが、その中で将来僕が地元で開くであろうカフェへのヒントがたくさん散らばっていました。一番の気づきは、コーヒーだけでもダメで、美味しいペイストリー類があるだけでもダメで、それらのベースの上に、優しく、柔らかい人の温もりを感じられる空間がカフェにとって大切だということです。
それはバリスタの対応や姿勢かもしれませんし、お客さんがくつろいでいる光景かもしれませんし、家具や店の造りなどに見られる内装かもしれません。シアトルにある多くのカフェでは、人の温もりが感じられ、この街に住んでいる人々にいかにカフェが浸透しているか、いかにカフェが寄り添っているか、いかになくてはならないものか、カフェの街と言われるだけあって、シアトルでは日常にカフェが存在している様子を垣間見ることができました。1回訪れて写真を SNS に投稿したら満足してしまうような流行りのカフェではなく、毎日のように訪れて、自分が過ごしたい時間を充分に過ごせる空間が広がっておりました。パシャパシャと写真を撮ることが目的で訪れている人達ではなく、第二のリビングのように毎日に訪れては自分が過ごしたい時間を思いのままに過ごしているお客さんがたくさんいました。
正直、昨今の日本のカフェ文化に関して詳しいことを知らないので偉そうなことは言えないのですが、喫茶店の長い文化がある日本でも、カフェが文化や風習ときれいに混ざり、日本人にとってもなくてはならない日常のものになる日が来ることを願っています。そして将来、僕もその世界に手助けできるようになれたら素敵だなあと、まだ見ぬ僕のカフェの妄想でワクワクしながら日々を過ごしております。
カフェブログを書いている中で、僕が働いているカフェを訪れてくださった方や、レストランなどで「カフェブログの方ですよね」と声をかけて下さった方々、このブログを好きだと言ってくださる方々がいらっしゃいました。その度に言葉にならないほど嬉しく、少しはこのブログを執筆している意味はあったのかなと思うことができ、書く上で僕達の大きなモチベーションにもなっていました。短い間でしたが、僕達のつたないブログを読んでくださった皆様に感謝申し上げます。
そして、一緒にこのカフェブログを作り上げてくれた3人のメンバーに、留学生の僕たちにこのような素晴らしい執筆の場を与えてくださったジャングルシティさんに、御礼を申し上げます。
冒頭でも触れましたが、この 『シアトル留学生カフェ探訪』 はこれで終わらず、ジャングルシティさんのご厚意もあり、次の執筆メンバーに引き継ぎ、9月より再スタートさせていただきます。これからも、シアトルに来た留学生が彼ら独自の目線でお届けするリアルなシアトルのカフェ情報を楽しみにしていただけると幸いです。
これまで本当にありがとうございました。そして引き続き、『シアトル留学生カフェ探訪』 をよろしくお願い致します。
沢田 真洋(Sawada Masahiro)
1991年、神奈川県藤沢市生まれ。大学卒業まで三度の飯よりサッカーな生活を送り、卒業後一般企業に就職。3年と少し勤めた後、退社を決意し、2017年9月よりIBPプログラムでベルビュー・カレッジに留学中。シアトルに来てから柄にもなくカフェ専用のインスタグラムアカウントを作り、備忘録代わりにシアトル周辺で訪れたすべてのカフェを記録している。将来は地元・湘南にカフェを開くのが夢。最近のマイブームはハーモニカ。
掲載:2018年8月