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フィンと呼ばれるドリッパーに、深めに焙煎して挽いたコーヒー豆を入れ、その上にフィルタを置き、お湯を少しずつ注ぎ時間をかけて抽出した濃い味わいのコーヒーに、コンデンスミルクを加えて飲む。
これまでベトナム料理レストランで注文するものだった、そんなベトナム式のコーヒーを主役にした個性派カフェが、今、シアトルで増えています。
なぜ今、ベトナム式のコーヒーなの?
ベトナムはロブスタ種コーヒー豆の生産量では世界第1位で、2001年からブラジルに次ぐ世界第2位のコーヒー豆の産地であることをご存知ですか?
世界のスペシャリティコーヒー企業がアラビカ種より劣ると考えてきたロブスタ種ですが、子どもの時にベトナムからアメリカに来てベトナム系アメリカ人となった1世、アメリカ生まれ育ちのベトナム系アメリカ人2世がそのイメージを変えようと、ベトナム式カフェを通じてベトナムのコーヒー豆とその文化を英語でメインストリームに紹介し始めているのです。
ワシントン州には、ベトナム戦争によって難民となった数万人のベトナム人を受け入れた歴史があります(シアトル・タイムズ参照)。1980年にシアトルで最初のフォー専門店『Pho Bac』を今のリトル・サイゴンに開店したのは、そんな状況でアメリカに移住したベトナム人夫婦でした。それから40年以上がたった今、フォーはすっかりシアトルの食文化の一部となっています。ベトナム式コーヒーも、そんなふうにシアトルでは一般的なものになっていくかもしれません。
アメリカに増えているベトナム系のロースター
ニューヨークにある『Nguyen Coffee Supply』は、ボストン生まれのベトナム系アメリカ人、サーラ・ウィンさんが創業したロースター。これまでドキュメンタリー制作監督として活躍してきたサーラさんは、ベトナム産ロブスタ種のイメージを改善しようと、アラビカ種一辺倒のメインストリームとは逆行するビジネスを展開し、注目を浴びています。
imbibe magazine によると、2021年時点で、オースティンの『Phin Coffee Club』、シカゴの『Fat Miilk』、サンノゼの『Omni Bev』、フィラデルフィアの『Càphê Roasters』など、ベトナム系アメリカ人が経営するロースターが増えています。
インターナショナル・ディストリクト:Phin(フィン)
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1995年にベトナムからシアトルに移住したバオ・ウィンさんが2020年に開店したカフェ。物があちこちに置かれ、おすすめの本が並ぶ本棚があり、静かで落ち着いた雰囲気です。バオさんによると、ベトナムで過ごした幼少時代に父親についてよく行った、住宅の1階を改造したカフェを再現するよう心掛けたそう。
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特にこだわっているのは、ベトナム式のフィンと呼ばれるドリッパーを使い、4~5分かけてゆっくりとコーヒーを抽出する伝統的な方法をシアトルでも続けること。「パンデミックになってしまい、あらゆる面でスローダウンし、自分にとって本当に大切なものは何だろうといろいろ考えました」とバオさん。「そして、静かな空間で、ベトナム産のコーヒー豆とフィンを使って、コーヒーができる時間をも楽しむのがベトナムのコーヒー文化だ、という結論に行きついた結果が、このカフェなんです」。
コーヒーとコンデンスミルクを混ぜた伝統的なドリンクはもちろん、自家製のヨーグルトを使ったドリンク、コーヒーで作った氷を砕いて乗せた濃厚なフラン、パンダン入りの焼きたてワッフルなども人気です。
リトル・サイゴン:Hello Em(ハロー・エム)
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1980年にシアトルで最初のフォー専門店『Pho Bac』を開店したベトナム出身の夫婦の娘イェンヴィ・パムさんが、ビジネスパートナーのギエ・ブイさんと2020年夏に開店したカフェ。ギエさんの親戚がベトナムで経営するコーヒー農園から仕入れたロブスタ種の豆を、店内にある小さな焙煎機で焙煎し、エスプレッソマシンで抽出したエスプレッソを使ったドリンクが味わえます。
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パンダンと呼ばれるハーブを入れたベトナム系のカフェならではのユニークなドリンクや、バンミーをパニーニのように焼いた『bánh mì-nis』などもラインアップ。店内は赤や黄などベトナムらしい配色で、ベトナムが世界第2位のコーヒー豆の生産国であることなどを簡単に紹介する展示、ベトナムについての書籍の販売も。建物はコワーキングスペースにもなっています。
ユニバーシティ・ディストリクト:Sip House(シップ・ハウス)
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ワシントン大学のキャンパスから数ブロック、ユニバーシティ・ディストリクトのファーマーズ・マーケットが開催されるところから1ブロックの交差点に、2020年に開店したカフェ。全面がガラス窓なので、店内は自然光で明るく、内装はシンプルで、ゆったりとした雰囲気です。
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コーヒー豆はシアトルでも一般的なアラビカ種と、ベトナムで親戚が経営するコーヒー農園から仕入れたロブスタ種の両方を使ってエスプレッソマシンを使うドリンクから、伝統的なフィンを使うドリンク、ミントモヒートアイスコーヒーなどのオリジナルのドリンクまで、10数種類のドリンクが楽しめます。ロゴの入った、きれいな色のフィンも販売しているので、自宅でもベトナム式のコーヒーを淹れたい方はチェックしてみてください。
グリーンウッドなど:Coffeeholic House(コーヒーホリック・ハウス)
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2020年3月にシアトルの中心地の南にあるエリア、コロンビア・シティに、サイゴン出身のチェン・ディエンさんが妻トランさんと開店したカフェ。2021年秋にはグリーンウッドの中心地に2号店、2023年にはベルビューのオールド・ベルビューに3号店が開店しました。
フィンを使って淹れたコーヒーにコンデンスミルクを加えただけの伝統的なべトナミーズ・コーヒーに加えて、べトナミーズ・コーヒーの上に塩を入れたチーズの泡を乗せたドリンク、紅山芋のウベ(Ube)を使った紫色が鮮やかなドリンクなど、オリジナリティのあふれるドリンクが人気。子ども用にはホットチョコレートやバニラ・スチーマー(スチームしたミルクにバニラシロップを入れたもの)などがあります。
フリーモント:Aroom(アルーム)
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2022年夏に開店した、家族経営のカフェ。通りに面した側が全面ガラスなので、自然光がたくさん入り、エレガントで落ち着くインテリアを引き立てます。フィンを使ってコーヒーを入れる定番のカフェ・デン(砂糖入りコーヒー)やカフェ・スア(コンデンスミルク入りコーヒー)のほか、黒ゴマの風味が堪能できる黒ゴマクリームのセサミ・ラテ、甘じょっぱいカフェ・ムオイ、低温殺菌した卵の黄身を使ったカフェ・トランなど、オリジナリティあふれるドリンクも。コーヒーを使わない、夏季限定の冷たいドリンクもあります。
※Google Map などで、入口が North 38th Street に面していると、間違って表示されることがあります。実際の入口は、Stone Way に面しています。
ベルビューなど: TRA(トラ)
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2024年時点で、ベルビュー、サマミッシュ、カークランド、レントンに展開しているカフェ。白を基調にしたミニマリストなインテリアが特徴です。メニューにあるドリンクは50種類以上。細身の容器に入れられてサーブされる時は、ボバ(タピオカ)、コーヒー、ミルクが混ざっておらず、見た目がとてもキレイです。店内で注文する場合はタブレットで注文するオンライン注文&ピックアップもできます。
レントン:Sip and Smile(シップ・アンド・スマイル)
シンプルなべトナミーズ・コーヒーから、ハーブのパンダンや紅山芋のウベ(Ube)を使ったドリンクが楽しめます。卵やスモークサーモンなどのサンドイッチもあり。