ワシントン州は全米最大のホップの産地で、全米でもトップクラスのクラフトビールの集積地として知られています。州内には459のクラフトブルワリーがあり(2023年:Brewers Association)、クラフトビール醸造所の数で全米トップ5に入ります。
少量生産が魅力のクラフトビールの唯一の難点は、価格がやや高めなこと。それでも、大手ブランドの銘柄ではなく、ローカル商品を選ぶのが「シアトル・スタイル」です。
この記事では、そんな豊かなビール文化を支える「シアトルの定番クラフトビール10種類」をタイプ別にご紹介。地元や全米で長年親しまれている銘柄や、ホップの風味が際立つ人気ビールなどを試してみて自分の好みのタイプがわかったら、新銘柄や個性的なビールにもどんどん挑戦してみてください。
アメリカのクラフトビール
アメリカのクラフトビールの歴史は、1960年代に西海岸で始まりました。1970年代後半に自家製ビールが合法化されると、それまで主流だった大企業の軽いラガービールとは違う、個性的な味わいのビールの人気が高まり、クラフトビールの市場が形成されていきます。
1985年には110しかなかったクラフトブルワリーは、1990年代にはアメリカンペールエールやIPA(インディア・ペール・エール)といった、アメリカのクラフトビールの代表的なスタイルの誕生を経て順調に増加を続け、2023年には9906のクラフトブルワリーが存在しています。(Brewers Association)
- 2023年にはビール生産量と輸入量は全体で5%減少しましたが、クラフトビールのブルワリーの販売量は1%の減少にとどまりました。
- 小規模かつ独立したクラフトビールのブルワリーのシェアは、13.3%に増加しました。
- クラフトビールの小売売上高は3%増加し、289億ドルに達しました。これは、アメリカ全体のビール市場規模1170億ドル(以前は1150億ドル)のうち、24.7%を占めています。
- この売上高の増加の主な要因は、価格の上昇、流通販売よりも醸造所での販売がやや強く成長したことによります。
ブルワリーの数が多い州トップ10
- カリフォルニア州:987(一人当たり3.4)
- ニューヨーク州:539(一人当たり3.6)
- ペンシルバニア州:530(一人当たり5.4)
- コロラド州:468(一人当たり10.6)
- ワシントン州:459(一人当たり7.8)
- テキサス州:445(一人当たり2.1)\
- オハイオ州:419(一人当たり4.8)
- ミシガン州:418(一人当たり5.5)
- ノースカロライナ州:407(一人当たり5.1)
- フロリダ州:404(一人当たり2.3)
ペール・エール(Pale Ale)
ペール・エールは、クラフトビール初心者がまず試したい基本のタイプ。モルトの味をしっかり出しながらもホップの香りが高く、飲みやすいビールです。アルコール度数は通常4.5%から6.2%。
Manny’s Pale Ale
中でも、2002年創業のジョージタウン・ブリューイング・カンパニーが醸造する『マニーズ・ペール・エール』は、シアトルで最も好まれていると言っても過言ではありません。深みのある複雑な味に、ほのかなシトラスの香りが、幅広い層に好まれる理由と言えます。
シアトル市内の工業地帯ジョージタウンにあるブルワリーでは、毎日テイスティングができるようになっています。缶入りも限定数製造される時もありますが、基本的に生ビールのみの製造です。地元のバーやレストランでしか飲めませんが、取り扱っている店は多いです。
インディア・ペールエール(IPA)
インディア・ペールエールは、ペールエールの強化版で、ホップの香りを際立てアルコール度を高めたタイプ。クラフトビールの代名詞的な種類と言えます。シアトルは特に IPA(アイ・ピー・エー)へのこだわりの強さで知られており、IPA オタクや IPA のみのタップバーなどもあります。アルコール度数は通常5%から7%。
Fremont Brewing:Interurban IPA
『インターアーバン IPA』は、2009年創業のフリーモント・ブリューイング・カンパニーの看板銘柄。缶ビールのデザインがおしゃれ。地元スーパーマーケットでも売られているので、お土産にもおススメです。
Elysian:The Immortal
1996年創業のエリシアン・ブリューイング・カンパニーが造る『ザ・イモータル』は、ノースウエストの IPA の代表的な味。クラシックな英国スタイルをノースウェスト風にアレンジしたもので、ミディアムボディの明るい色に、地元産ホップの味と香りを存分に味わえます。創業者ディック・キャントウェル氏が執筆した著書 『Brewing Eclectic IPA: Pushing the Boundaries of India Pale Ale』(Amazon.com)は、クラフトビール業界の教科書的存在にもなっています。
Holy Mountain Brewing:IPA
2014年創業のホーリー・マウンテン・ブリューイングは、バレルエイジドや混合発酵ビール、ベルギー風スタイルのユニークさが特徴で、革新的な醸造技術と丁寧に造られたビールが高く評価されています。
アンバー・エール(Amber Ale)
アンバーエールは、カラメルやクリスタルモルトを使用することで得られるアンバー(赤褐色)色をしたビールです。モルトの甘さとホップの微かな苦味がバランスよく調和し、カラメルの香り、時にはフルーティーな香りも楽しめます。アルコール度数は通常4.4%から6.1%。アンバーエールは、グリルした肉やバーガー、こってりとしたシチューなど、さまざまな料理と相性良し。
Mac & Jack’s:African Amber
ワシントン州レドモンドで1993年に創業したマック&ジャック・ブルーイング・カンパニーの代表的銘柄。苦味とコクと旨味のバランスが絶妙で料理にも合わせやすいため、地元レストランでもよく見かけます。
ピルスナー(Pilsner)
ピルスナーは、1842年にチェコ共和国のプルゼニ市で誕生した淡色ラガーの一種。金色の透明な色合いが特徴で、シンプルなさわやかさと、ホップの香りとわずかな穀物の香りが特徴です。これは、独特のスパイシーな香りと風味を持つサーズホップの影響でしょう。アルコール度数は通常4.5%から5%。
Obec Brewing:Czech Pils
2017年創業の『オベツ・ブリューイング』は、他店では味わえないヨーロピアン・ビールを取り揃えたブルワリー。店名の「Obec」はチェコ語で「コミュニティ」という意味(”オベック” ではなく、カタカナなら “オベツ”)。そのオベツの代表的なビールは、鮮やかな金色、滑らかでキリッとした味わいと、豊かなモルトの風味が特徴の『チェコ・ピルス』です。チェコ産ホップの風味が際立ち、モルト感にスパイシーな苦味が加わってバランスの良いビールとして人気があります。アルコール度数は5.0%。
Chainline Brewing:Polalis Pilsner
2014年にカークランドで創業したチェインライン・ブリューイングの『ポラリス・ピルスナー』は、ボヘミアン・スタイルのピルスナーで、2023年のワールド・ビール・カップで金賞を受賞するなど、数々の賞を受賞しています。黄金色で、フローラルなホップの香り、モルトの甘味ととスパイシーなサーズホップのバランスの取れた風味が人気の理由です。暖かい日やボリュームのある食事にピッタリ。
ポーター(Porter)
黒ビールの一種。焙煎した麦芽の焦がした風味とホップの苦味の両方を際立たせています。一日の最後の一杯、または食後のデザートとして飲まれます。アルコール度数は通常4.4%から6%。
Reuben’s Brews:Robust Porter
2012年に創業したルーベンズ・ブリューズは、クオリティの高さが評価され、大人気のブルワリーの一つに急成長しました。8種類のモルトを使い、コーヒーやチョコレートの香りと、カラメルの風味が秀逸な 『ロバスト・ポーター』 は、創業時から人気のビール。2015年のワシントン・ビール・アワードとワールド・ビール・チャンピオンシップのダブル金賞、2018年のヨーロピアン・ビール・スターの銅賞など、数々の賞を受賞しています。
Stoup Brewing:Robust Porter
2013年創業のストゥープ・ブリューイングのロバスト・ポーターも人気。色も個性も豊かで、チョコレートモルト、ローストした麦とライ麦などの複雑なモルトの組み合わせから生み出された、ダークチョコレート、ローストしたコーヒー、軽いモルトの甘味が味わえます。
スタウト(Stout)
スタウトは、ポーターよりコクがあり、アルコール度の高い黒ビール。ローストした麦芽の香ばしさとどっしりとした飲みごたえが特徴。雨の降る冬の夜にチビチビ飲んだり、食後のデザートドリンクとして飲みたくなります。アルコール度数は通常4%から7%。
The Pike Brewing:Pike 5X Stout
1989年にパイク・プレース・マーケットで創業したパイク・ブリューイングは、地元素材を使った多くのビールを醸造しており、『Pike 5X Stout』も数々の賞を受賞している伝統的銘柄です。バーリー、チョコレート、コーヒー、ホップが絡み合う複雑で深みのある味。
へーフェヴァイツェン(Hefeweizen)
小麦から作られたやや不透明のビール。最初の一杯としてよく飲まれます。フルーティーでまろやかな味なので、ビールの苦味が苦手な人でもトライする価値あり。アルコール度数は通常4.9%から5.6%。
Stoup Brewing: Bavarian-Style Hefeweizen
2013年創業のストゥープ・ブリューイングのババリアン・へーフェヴァイツェンは、ドイツのババリア地方の伝統的な技術と、バナナとクローブのような香りが強いドイツの酵母株で発酵させたもの。北米ブルワーズ協会やワシントンビールアワードなどから数々の賞を受賞しています。
ラガービール(Lager)
上記にあげたビール(エール)とは異なり、下面発酵され、大量生産に向いているのがラガービール。ホップの香りが効いていて爽快な喉越し!日本の大手ブランドビール好きの人にはなじみ深い味で、暑い夏にゴクゴク飲みたくなります。アルコール度数は通常4%から5.5%。
Chuckanut Brewery:Chuckanut Helles Lager
ラガーの中でも、発祥地ドイツでは朝食に「飲むパン」として飲用されるヘレス・ラガーは、麦芽の風味が効いた飲みやすいビール。ワシントン州ベリンハムにあるチャカナット・ブルワリーのヘレス・ラガーは、2015年のワシントンビールアワードの銅賞を含む多くの賞を受賞しています。
セゾン(Saison)
セゾン・ビールは、フルーティーでスパイシーな風味、強めの炭酸、そして喉越しがドライなベルギーの田舎風エールです。野生酵母や地元の原材料を使用することが多く、複雑で爽やかな味わいが特徴。昔は夏向けだったそうですが、今は季節を問わず醸造されています。アルコール度数は通常5%から7.9%。
Obec Brewing:Harvest Saison
2017年創業の『オベツ・ブリューイング』は、他店では味わえないヨーロピアン・ビールを取り揃えたブルワリー。店名の「Obec」はチェコ語で「コミュニティ」という意味(”オベック” ではなく、カタカナなら “オベツ”)。そのオベツのハーベスト・セゾンは、ライ麦やさまざまな穀物を使ってベルギーのクラシックなスパイスの風味を引き出し、新鮮な生姜を加えることで秋の風味を引き立たせたユニークなビールです。「これを飲めば、暖炉のそばでくつろぎたくなること間違いなし」。アルコール度数は7.9%。
サワー・エール(Sour Ale)
サワー・エールは、あえて酸味を持たせたビールの一種で、最も古いビールスタイルの一つ。野生酵母やバクテリアを使用することで、独特の風味が出るそうです。現代のサワーエールは、フルーツを加えることでさらに複雑な風味を持たせるものも。アルコール度数は通常4.4%から5.4%。
Urban Family Brewing: Tropic Heart
2013年創業のアーバン・ファミリー・ブリューイングは、特にサワー・エールやバレルエイジドのビールに重点を置き、ユニークなビールを造っています。IPA も複数の種類がありますが、特にさまざまなフルーツや発酵方法を使ったサワー・エールのシリーズは高い評価を受けているので、初めてサワー・エールを試すならここからスタートするのがいいかもしれません。
シアトルで昔の「ご当地ビール」といえば・・・
1878年創業の地元ブランド。アルコール分も苦味も少ないので、エールビールのコクが苦手な人にもオススメ。現在は売却されてロサンゼルスのブルワリーが製造していますが、ワシントン州最高峰のマウント・レーニアの姿を描いた缶デザインはそのまま。今でもシアトライトには馴染み深いブランドとして好まれています。アルコール度数は4.6%。