数年前にニューヨークとサンフランシスコに専門店ができて以来、アメリカの大都市で「Bento」として広く知られるようになった、日本風のお弁当。2017年にケータリング会社『こずも食堂』を立ち上げた小泉佳奈子さんも、イベントやミーティング、企業向けにお弁当を販売してきましたが、今年に入って新型コロナウイルス感染対策により大勢での集まりが禁止されたため、一個からでも買えるお弁当を中心としたラインアップにシフトしました。店内での飲食に制限があるレストランもお弁当を販売することが増えた今、どのように自分らしさを出してビジネスを展開しているのか、これからどのようなことを計画しているのかについて伺いました。
新型コロナウイルス感染対策で考えた、『こずも食堂』ならではのお弁当
新型コロナウイルス感染対策で今年3月から店内での飲食に制限が設けられたため、さまざまなレストランがテイクアウトでお弁当を始めました。確かにお弁当は宅配とテイクアウトに向いています。でも、おかずを作る時よりも詰めるのに時間がかかり、労力のわりに収益は少なく、数を売らないと話にならないのも、お弁当の特徴の一つ。ビジネス経営の経験がある夫に言わせると、私は一から手作りすることで逆の方向へ行っています。
以前よりたくさんのレストランがお弁当を始めても、私がやっていることは変わりませんが、「そうすると、『こずも食堂』の特徴は何だろう」「『こずも食堂』をあえて買ってくれるのはなぜだろう」と考えるようになりました。まわりはクリエイティブにいろいろやっているので、ちょっとブレそうになる時も、悩んだ時もありましたが、いろいろ考えた末に再確認できたのは、私は斬新でクリエイティブなメニューは目指していないということだったのです。あくまでも王道の日本の家庭料理プラス私なりのパーソナリティを入れる。それが私のやり方なんだ、と。
お客様からのフィードバックで言うなら、日本人の方からは「こういうのが食べたかった」「日本にいなくても、こういうのが食べられるんだ」、日系アメリカ人の方からは「おばあちゃんの味を思い出す」。そういう、期待を裏切らないようなものを提供して差し上げたいと思っています。
「自分が食べたいものは、何だろう?」から始まるメニュー作り
メニューを考える時、一番最初に自分が食べたいものから考えます。私も個人的に好き嫌いはありますが、「これが食べたい」「みんなも食べたいと思うだろうな」という想像から始まって、自分がめちゃくちゃ食べたいものをメニューに入れます(笑)。
お弁当のフォーマットは主菜と副菜ですが、主菜は魚や肉やベジタリアンのたんぱく質で、副菜はいつも3~4種類。卵を入れる時もありますが、基本は野菜の副菜を考えますね。やはり日本の家庭料理の中の基本である一汁三菜にのっとったものが容器に入っているのがお弁当かなと思っています。でも、こだわりで言うと、私は副菜に力を入れていて、そこに季節を感じるものをちょこちょこと。懐石のように季節を突き詰めることはしないので、例えば「ブルーベリーが入ってる。夏っぽいな」とか感じてもらえる程度がいいかなと思っています。
定食屋さんやレストランに行っても、小鉢に入った副菜を食べるのが好きです。でも、家でご飯を作る方々は、副菜を作るのは手間がかかることはご存知ですよね。作ろうと思えば作れるけれど、何種類も作るのは時間も手間もかかって大変。そこで、私が作って重宝してもらえればうれしいです。
不動の人気メニューは、唐揚げ弁当
唐揚げ弁当は不動の人気です。私のお弁当を食べたことがない方に私の料理を知ってもらうにも、おすすめできます。あとは、ベジタリアン用にと思って作った茄子の味噌炒め(炒めた茄子に、ゴマ味噌ソースをからめて出す)がとても受けています。母がよく作ってくれたお弁当の味だったのですが、そう話したらいろいろな人が「そうそう」と言ってくれたので、自分で少しアレンジしたものが定番となりました。アメリカ人には、チキン南蛮のような甘酸っぱいものが好まれます。それで、黒酢弁当もやってみたりしています。
個人的にイチオシは、おにぎりの詰め合わせですね。やっぱり私はどうしてもおにぎり愛が強いんです(笑)。本当はおにぎり屋さんもやってみたいぐらい。4個のおにぎりに即席の漬物のセットで、3個はスタンダード、1個は季節のもの。今ならトウモロコシを使います。PCCでクラスを教え始めた時、PCCでの食材の販売期間のチャートが配られ、旬を学ぶことができました。
お弁当だけでなく、おかずだけの詰め合わせや、単品でおかずだけほしいと言ってくださる方もいらっしゃいます。日本人なら家にご飯があるので、おかずだけで良いですね。
今はパンデミックで、もっと家でご飯を作ったり食べたりしている人が増えているようなので、メニューに家で使える合わせ調味料も加えるか、しばらく冷凍保存できるものを増やすか、唐揚げやハンバーグ、コロッケ、角煮など真空パックにしてもっと手軽に使えるようにするかなど、新しいことを加えて長く続けていくにはどうしたらいいか考えさせられていますが、お弁当と、自宅で冷凍保存できる食品・調味料、そういう二本立てで行けたらいいなと思っています。
シアトルの秋と冬のおすすめの食材で手軽にできる副菜
シアトルの秋と冬は、根菜と白菜がおいしいですね。寒くなると体があたたまる根菜が食べたくなりますし、白菜は鍋には欠かせません。日本の家庭料理でも鍋は簡単で、白菜さえ入っていれば、あとはなんでもいいというぐらいです。かぼちゃやサツマイモは年中ありますが、やはり冬の方が美味しいと思います。
【かぼちゃサラダ】これからいろいろなスクウォッシュが出てきますが、お弁当の副菜としてもとても人気があります。かぼちゃには蒸し器を使いますが、電子レンジでチンしてもいいと思います。そしてそれをマッシュして、マヨネーズで和えて、キュウリや玉ねぎなど、ポテトサラダに入れるようなものを入れて、最後にレーズンを入れます。干したままのレーズンを入れると、かぼちゃの余計な水分を吸ってくれます。かぼちゃは当たり外れがあるので、あまり甘くなかった場合はレーズンを少し入れると、甘みが際立ちます。
【ペルシャキュウリの辛子漬け】料理教室でも参加者のリピート率の高い一品。日本や中国の辛い系の辛子を使います。Ziploc に砂糖小さじ4:塩小さじ1:辛子は小さじ1~2(お好みで)を入れて振り、そこにペルシャキュウリを3~4本入れます。これで冷蔵庫に入れて4~5日置くだけ。3日目ぐらいから食べられますが、4日目ぐらいから、とてもよく漬かっている感じです。キュウリ以外なら茄子でもできます。米茄子では無理なので、日本の小茄子を使ってください。幼い時から親もずっと作っていたレシピです。私の出身地の秋田では砂糖を使います。
小泉佳奈子さん 略歴
秋田出身。留学を経て現地採用でマイクロソフトに入社。レドモンドの本社で17年勤務した後、2017年に『こずも食堂』を起業。イベントや会議のケータリングを中心に、料理の個人レッスン、パーソナルシェフをやってきたが、新型コロナウイルス感染拡大による経済活動再開計画の実施を受け、お弁当が中心のメニューにシフトした。マイクロソフトに勤務していた頃から PCC で料理教室を受け持っている。シアトルを代表するシェフでレストラン経営者のトム・ダグラス氏の料理教室やキッチンショップでも1年にわたり教えた経験がある。
【公式サイト】www.kozmokitchen.com