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カカオ豆の輸入から焙煎、製造、包装まで、すべてを手がける小規模生産のチョコレートメーカー 『スピンネーカー・チョコレート』。シアトル出身のケリーさんとクリスさんの兄弟が2019年に自宅ガレージで創業し、2021年にこだわりのすべてを詰め込んだ工房兼小売店をシアトルのラベンナに開店しました。
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みなさんは、”Bean to Bar” という言葉を聞いたことがありますか。
“Bean to Bar” とは、豆の買い付けからチョコレート作りまで、すべて自分たちで手掛けることで、この『スピンネーカー・チョコレート』は、そんなチョコレートメーカーの一つです。
『スピンネーカー・チョコレート』のチョコレート作りは、マダガスカルやウガンダ、トリニダード、エクアドル、ニカラグアなどのカカオ農家や信頼の置けるサプライヤーから良質のカカオ豆を買い付けるところから、すべてが始まります。
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まず、大きな袋に入っているカカオ豆から、大きすぎるもの、欠けているもの、穴があいているもの、カビの生えたものなどを目視で取り除きます。なぜなら、カカオ農家がカカオフルーツから取り出して数日かけて発酵させ乾燥したカカオ豆は、形も質も不揃いなものなので、品質を最優先する場合、そのまますべて使うわけにはいかないからです。
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そして、エンジニアのクリスさん、木工技術のあるケリーさんが独自に開発した振動スクリーンを使った機械でさらに選別し、最終的に材料として使うカカオ豆を揃えます。「フレーバーを最大限に引き出すには、カカオ豆の細かい選別が必須なのです」と、ケリーさん。
次に、独自に開発した機械を使って、選別に合格したカカオ豆からカカオニブだけを取り出し、ロースト(焙煎)します。カカオ豆を丸ごとローストする一般的な方法ではカカオニブの焙煎を均一化できないため、フレーバーに大きな影響が出るそうです。
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焙煎されたカカオニブを食べてみると、風味がギュッと凝縮されたものに仕上がっていました。そのカカオニブと砂糖を合わせて、石臼で理想的なミクロン単位まで挽いてなめらかにした後、撹拌機(かくはんき)を使って練り上げ(コンチング:conching)、なめらかさを高めます。
光沢を帯びるような美しい滑らかさになったら、チョコレートを大きなブロック状にして寝かせ、それからテンパリングという工程に入ります。チョコレートの結晶には、6つの結晶構造(crystal structures)があることが知られていますが、ケリーさんは「加熱、冷却、再加熱の適切な方法を編み出したので、手の中で溶けにくく、パキッと割れ、口の中でとろける完璧な結晶構造にできるのです」と話してくれました。
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硬い殻に入ったカカオニブズから始まる製造工程を見学した後に完成品を見ると、感慨深いものがあります。それぞれ一つの産地の一種類のカカオ豆のみで作られているシングルオリジンで、包装袋にはカカオ豆の産地とカカオ分(%)が書いてあるので、自分の好みがわかりやすくなっています。
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一口ずつ食べると、産地ごとに異なる個性がちゃんと感じられ、チェリーやブルーベリーのような果実の味もするので不思議です。味わいはどれもクリーンな感じで、香りが優しく、舌触りが滑らかで、新しい体験をした気持ちになりました。
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ちなみに、スピンネーカーとは、セールボートにつけられた、風を受けるための三角の大きな帆のこと。セーリングが好きなケリーさんは海をきれいに保ちたいという理由から、商品の個別包装にホイルを使わず、リサイクル可能な素材で包装袋を作っています。
取材の数日後、『スピンネーカー・チョコレート』の商品は、国際的に認められているチョコレートの賞 『Academy of Chocolate Awards』 で9つの賞を受賞しました!900以上のエントリーから選ばれたそうで、創業1年目にして快挙です。