昔から祝儀魚として、「海の鯛」に対して「川魚の王」とされているコイ。五月の鯉の吹き流しにもなり、男らしさの象徴にもなっています。
中国が原産地であるコイは淡水魚で、比較的水温にかかわりなくよく育ち、また飼いやすい魚なので、世界中にひろがり、日本でも江戸時代から盛んに養殖されてきたため、日本全国に分布しました(正確な自然分布域は不明)。現在の年産額は天然物3,000トン、養殖物9,000トン程度。12月より翌年3月までが旬の時期です。体の背部は暗灰色で腹側は淡灰色、口のまわりに大きなひげをもち、大型のものは1メートルに達します。日本では、ウナギ、ニジマス、アユに次いで多く養殖されていますが、野生のコイは養殖されたものに比べ体色が赤っぽいという特徴があります。また、体高が低く、体の幅が厚いのも1つの特徴です。通常は20年、時には70-80年生きることもあります。
欧米人はコイを泥臭いと言ってあまり食べませんが、日本では昔から「洗い」「刺し身」「鯉こく(こいこく)」として、盛んに食べられていました。中国では日本における鯛のように縁起のよい魚とされ、祝いの席には丸ごとから揚げにしてあんかけにした料理が出されるそうです。日本の都市部では現在、コイの出荷先のほとんどは中国料理用だと言われています。なお、観賞用の緋鯉(ひごい)や各種の変わり鯉は、いずれもコイの変種です。
筆者の育った東京足立区の神明町という町は綾瀬川、運河(綾瀬川と中川を結ぶ)、溜めの川、葛西用水に東西南北が囲まれていたため、50年前頃は近所の遊び仲間と川釣りによく行きました。ウナギはまれに釣れ、ナマズ、およびフナはよく釣れましたが、コイを釣ることは難しかった憶えがあります。エサが重要で、大人の釣りの名人と言われてた人は、さつまいもとうどん粉(?)を混ぜたような団子状のコイ釣り用のエサを自分で作っていました。当時の遊び仲間が使っていた川池堀釣りでの餌は、そこいらで獲れるただのミミズでしたが、近所の餌業者では赤ムシ、およびゴカイを売っていました。
宇和島屋では、アイダホ産の養殖活コイを3~4年前までは販売してましたが、この数年は販売量が落ち込み、「定番としての価値が無くなってきた」とは、弊シアトル店のシーフード・マネージャーの回答でした。ロシア系ユダヤ人にイースターやクリスマスのころなど、年に何回かある祝いごとにコイを食べる習慣があるようで、それに合わせ特別注文があり、活コイを販売することもあります。コイの身をすりつぶし、団子状にした後に、ボイルするとのこと。日本人のイワシのツミレのようなものでしょうか。このロシア系ユダヤ人のコイの団子は最近の若い人は作らないとかで、宇和島屋の活コイの販売にも大分影響があるようです。
掲載:2007年9月
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