昭和30年(1955年)頃の話になりますが、筆者の育った東京都足立区の神明町という町は綾瀬川、綾瀬川と中川を結ぶ運河、溜めの川、葛西用水とに囲まれた、イタリアのベニスではありませんが、まさに水の都、ゼロメートル地帯でした。さらに悪いことに我が家の玄関には溜めの川と綾瀬川を結ぶ幅2m弱の用水路にかかった貧弱な橋を渡らなければたどり着けませんでした。台風や大雨が来ると、まず家の前の用水路の状況を見て、さらに歩いて3分の溜めの川、5分の綾瀬川を見て、家の橋は流されないか、床下浸水か、床上浸水になるかの予想を、子どもながら一生懸命に両親に知らせたものです。水という敵に四方を囲まれた神明町はまさに四面楚歌でした。そのため、川魚とは大変縁があり、コイ・ウナギ・ナマズ・フナなどを釣ったり、運河で素手でハゼを取ったり、艪船(ろぶね)を借りて綾瀬川から運河を経由し、約1.5キロ先の中川まで行き、カタッケと呼ばれた貝をす潜りで取ったりしたことが思い出されます。ナマズもよく釣れ、エビガニと同様に我が家ではテンプラにして食べたものです。
先週号のエビガニではありませんが、このナマズもアメリカでは市民権を得て堂々と販売されていることに驚きました。弊店でも養殖生鮮ナマズとして、アイダホ州から毎週定期的に購入し、販売しています。アメリカではフライにして食べるようです。価格は去皮を剥ぎ、頭内臓を除去皮したホールで$3.99/lb(454g)*、フィレ(フィレとは背骨を取り除いた3枚おろしした半身)で$4.99/lb(454g)**です。味は淡白で、煮付け・テンプラ・蒲焼きの他、椀種・吸い物としてうまいものです。これを機会に試食してみてはいかがでしょうか。
なお、東京都中央卸売市場築地市場ではナマズはまれに入荷するだけです。地方によってはナマズ料理を専門とするところあるので、都内の郷土料理店が利用するものと思われます。
*$8.80/kg; ¥970/kg
**$11.00/kg; ¥1,210/kg
掲載:2005年6月
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