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おすすめのパブリック・アート「ダウンタウン編」

Seattle Central Public Library: 図書館らしく、本や知識がテーマになっている

Seattle Central Public Library

Seattle Central Public Library

建築事務所 OMA の共同経営者であるオランダ出身の建築家レム・コールハースとシアトル出身の建築家ジョシュア・ラムズが中心となり、シアトルの建築事務所 LMN とパートナーを組んでデザインしたこの図書館は、旧図書館が取り壊されてから2年半後の2004年5月23日に開館した。図書館部分の総面積は36万2,987平方フィート、143台を収容できる地下駐車場の総面積は4万9千平方フィートで、145万の蔵書を誇るほか、400台のコンピュータも設置されており無料で使うことができる。施設内も細かいところまでデザインが行き届いており、利用者への配慮があちこちに見られる。パブリック・アートもその一つで、図書館らしく本や知識をテーマにした作品が多い。


■ LEW Wood Floor (4th Avenue 入口)

LEW Wood Floor

4th Avenue の入口近くにある床のアート。第二言語や外国語の本が揃っているこのスペースにふさわしく、7,200平方フィートの面積を占める床に、蔵書の中から無作為に選ばれた文章が、日本語を含む11カ国語で裏向きにデザインされている。裏向きになっている理由は2つあり、1つは本が活字版から作られる様子を表すため、もう1つは知らない文字を初めて見る人にとってはどんな文字も見慣れないシンボルに見えることを表現するため。文字部分は浮き彫りになっており、見るだけでなく歩いたり触ったりしながら楽しめる。アーティストのアン・ハミルトンはオハイオ州出身のアーティストで、彼女が引用した本の一覧を収めた書物も図書館で参照できる。

■ The Phoenix Fairy (フェイ・G・アレン・チルドレンズ・センター)

The Phoenix Fairy

子供向けの本を揃えたフェイ・G・アレン・チルドレンズ・センターの中央にあるインフォメーション・デスク上部にある作品。模様や陰影の異なる赤いファブリックを一つ一つ縫い合わせており、それぞれのファブリックにはスパンコールやラメが織り込まれているため、華やかで存在感がある。制作者はシアトル出身のテキスタイル・アーティスト、マンディー・グリア。彼女によると、このフェニックス・フェアリーは同名の民話から名付けられており、不死鳥と関連づけて絶え間ない知識の再生を意味しているという。本は民話セクションでも借りることができる。

■ Babe

Babe

これも同じくマンディー・グリアの作品。青い雄牛は同名の民話に出てくる主人公の相棒で、角部分にはビーズ、ボタン、スパンコールや刺繍が豪華にあしらわれている。グリアによると、同作品は身の回りに思いもよらない発見があることを表しているという。こちらも本は民話セクションで借りることができる。

■ Magic Grove

Magic Grove

これも同じくマンディー・グリアの作品で、イランの民話から発想を得たもの。手縫いの枝に陰影の異なるピンクの花が飾られており、鏡の効果で実際よりも多くの花が目に映るよう工夫されている。グリアによると、同作品はアイデアの “種” が広がっていく様子を表しているという。この作品のもとになっている本も民話セクションで貸し出し可能。2008年にはベルビュー美術館で個展も開催した彼女の作品は、同美術館とタコマ美術館、カークランド・アート・センター、ヘンリー・アート・ギャラリーなどでも見ることができる。

(掲載:2011年11月)

Seattle City Hall
ノースウェストの景観や歴史、文化を象徴

市長や職員のオフィスと議会場があるほか、さまざまな都市機能を兼ね備えた公共施設の役割も果たす市役所。現在の庁舎は2003年に完成し、2005年に 4th Avenue に面した庁舎前にイベントや公共活動などに利用できるシティ・ホール・プラザが作られた。建物内に取り付けられたアートは全部で6つあり、市役所のために特別に制作されたものばかり。文化遺産や姉妹都市コレクションの作品もあり、パブリック・アートの展示会も定期的に開催している。

■ illumine

illumine

4th Avenue に面したカフェのテラス席上部につるされた大きなインスタレーション。ガラス越しに外からも見ることができ、市役所のランドマーク的存在となっている。2色のガラスでできた直径24インチのディスク状のモチーフが、11本の鉄線にビーズのように配置され、回転すると光を反射して幻想的な雰囲気を生み出している。市役所のリード・アーティストを務めた地元出身のアーティスト、ベリツ・ブラザーによると、反射光を通して色と光を取り入れ、市民を庁舎に迎え入れる様子をイメージしているという。

■ return

return

市役所のロビーでも一際目を引く、壁の一部として組み込まれたインスタレーション。同じくベリツ・ブラザーによる作品で、高さ20インチ、幅36インチのガラスのパネルをを74枚組み合わせている。一つ一つのパネルには、アーティスト自身が撮影したり保存資料の中から選んだりしたというセピア色の写真が挟まれており、現在および過去の風景と個人の視点で見た街の様子からシアトルの景観を再構築している。

■ continuum

continuum

2階の空中通路を渡った市議会議員オフィスの入口にあるこの作品も、ベリツ・ブラザーが手がけたもの。大小40以上の団体や個人から、市民が写った写真を7千枚以上集め、そのうち5千枚以上を高さ8フィート、幅10フィートの大きなグラスパネルの中に展示している。パネルは青いバックライト付きで、近づくと写真の細かい部分までよく見える仕組み。写真に写っている人々は、古いものは19世紀にまでさかのぼり、写真を通して歴史を感じることができる。

■ Blue Glass Passage

Blue Glass Passage

市議会議員オフィスの入口の手前にある空中通路は、ニューヨーク出身のアーティスト、ジェームズ・カーペンターの作品。通路の長さは60フィートで、足下には青いガラス・パネルと左右の透明のガラスが使用されているため、宙に浮いているような錯覚を覚える。

■ Evolving Wing and the Gravity of Presence
(進化する羽と存在の重力)

Evolving Wing and the Gravity of Presence

5th Avenue に面する入口付近の壁を全面的に使い、外からも見えるようになっているこの作品は、バンクーバー BC 出身のアーティスト、エリック・ロバートソンによるもの。カヌーで水上を移動していたノースウェストの部族を連想させるパドルや、初期の飛行機の翼に使われていた部品など、ノースウェストを象徴するものが取り入れられている。上部にある飛行機の翼の部品はもともと木製だが、この作品ではアルミニウムで作られており、木工業中心から工業中心へと変遷していったシアトルの産業を表現しているという。中央の3つのオブジェは、飛行機の小型ロケットエンジンにも、カヌーを漕ぐときにかぶっていたという杉皮帽にも似ている。

(掲載:2011年11月)

Jail House Garden
キング郡刑務所の前庭は刑務所とはおよそ不釣り合いなパステルカラーの空間

Jail House Garden

行政ビル群が集まる5th Avenue の一角にそびえるキング郡刑務所。白く無機質な巨大ビルの前庭は刑務所とはおよそ不釣り合いなパステルカラーの空間だ。ビルの壁と地面にはピンクやコバルトブルーのタイルが幾何学模様を形づくり、その間に大人ほどの大きさの丸や三角、x 印の彫塑がごろごろと転がっている。壁画と立体芸術が組み合わさったこの不思議な庭は、玄関ロビーのない同所唯一のオープンスペース。訪れる人々の待ち合わせ場所や子供たちの遊び場として利用されている。

刑務所は犯罪によって社会から隔てられた人間が集められる場所。低予算・維持管理費なしなどの悪条件のもとで造園デザインの依頼を受けたマーサ・シュワルツがもっとも心をくだいたのは、この隔離のイメージを表現することだった。緑色のセラミックタイルで固めたコンクリートの彫塑を刈り込んだ植木に見立てたり、細かく砕かれ、不規則に塗り固められたタイルで囚人の心のもろさ・混沌を象徴したりといった工夫がなされている。明るい色遣いながらどこか空虚な感じが漂うのは、このような作者の意図によるのかもしれない。一方、本来の玄関口のすぐ横、ビルの壁に直接描かれた大きな深緑色の門は、市民に開かれた場(市民の入口・囚人の出口)であることを示している。

約1,500人の受刑者を収容する同刑務所には刑事裁判が行われる裁判室も2部屋あり、傍聴希望者は気軽に受け入れてもらえる。また裏手にある単色壁画 『Torus Torum』 も必見だ。

【所在地】 King County Correctional Facility(5th Avenue と James Street の交差点)

【作者】 Martha Schwartz

【制作年】 1987年

(掲載:2011年11月)

Hammering Man
シアトル美術館前で朝から晩まで毎分4回ずつ 黙々とハンマーをふるい続ける

Hammering Man

シアトル美術館前で朝から晩まで毎分4回ずつ、黙々とハンマーをふるい続けるハンマリング・マン。高さ48フィート、奥行き7インチ、重さ26,440ポンドのこの男、実はシアトル以外にも兄弟がたくさんいる。

作者ジョナサン・ボロフスキーがハンマーをうち下ろす靴職人の姿を平面に描き始めたのは1976年のこと。その4年後に初めて腕の動く立体芸術として発表されたが、このときの高さは11.5フィートだった。続いてマイアミやダラス、ヨーロッパに色やサイズ、角度の違うものが登場。一番のっぽはフランクフルトにあるもので高さ70フィートにもなる。

作者のボロフスキー自身は、「退屈で単調な反復作業の繰り返しは、機械化された世界の未来の暗示」「コンピューター時代における低賃金労働者の姿」「50年も流れ作業を続けて死んでいく庶民への敬意」という意味をこめているとのことだが、シアトルの場合は「市の歴史に貢献した労働者らへの敬意」を表しているという見方が主流のよう。ホームページ上でハンマリング・マンのすばらしさについて語っているファンクラブもある。

シアトル美術館は米国北西部のネイティブ・アメリカンやアジア、アフリカの美術品のコレクションで有名。

【所在地】 シアトル美術館(1st Avenue と University Street の交差点)

【作者】 Jonathan Borofsky

【制作年】 1990年

(掲載:2011年11月)

Metro Tunnel
ダウンタウンの地下を走るバスの駅はパブリック・アートの宝庫

インターナショナル・ディストリクト・ステーション

ダウンタウン・シアトルの地下を走る全長1.3.マイルのメトロバストンネルの5つの駅は、パブリック・アートの宝庫。漫画・立体折り紙・メタリックアート・彫刻など、21人のアーティストが手がけた30以上の作品が楽しめる。

それぞれの駅に置かれた作品は、その周辺地域の特徴を反映している。最南端のインターナショナル・ディストリクト・ステーションでは、ツルの折り方を9つのステップに分けて説明する14フィート四方の立体折り紙 『Steel Origami』 など、中国系や日系の芸術家によるアジア風の作品が展示されている。

パイオニア・スクエア・ステーション

また、行政ビル群に近いパイオニア・スクエア・ステーションでは開拓の歴史を表現。プラットホーム両端にある大きな時計は、トンネル工事で残った大理石や鉄材、パイプ、針金、小石などを固めて作ったものだ。

ユニバーシティ・ストリート・ステーションはシアトルのアート施設とハイテク産業、金融業が集まった地域にあり、電気を使った作品が多く使われている。例えば、ベナロヤ・ホールから駅へと続く通路はエリン・シー・パーマーがデザインした 『Temple of Music』 と呼ばれるもので、ドーム形の天井とオレンジ色のタイルの壁そして紫の照明が宇宙船のような雰囲気をかもし出している。

そして、ショッピング街にあるウェストレイク・ステーションで目を引くのは、ロジャー・シモムラ、フェイ・ジョーンズ、ジーン・ジェントリー・マクマホンら3人の画家にによる巨大アニメーション。漫画化されたシアトルっ子たちが生き生きと描かれている。

ユニバーシティ・ストリート・ステーション

トンネルの北端、いろいろなイベントが行われるコンベンション・プレース・ステーションのアートは入口にあるネオン・パネルシアター・マーキー。夜はイルミネーション、日中には太陽の光を受けてオレンジとブルーの影シルエットを地面に作り、開放的な空気を演出している。

ウェストレイク・ステーション

キング郡が運営するメトロバストンネルは、市内の渋滞解消などを目的に総工費4億6,600万ドルをかけて1990 年に完成。地上ではディーゼル・エンジン、地下では電気で走るデュアル・パワー・バスを全米で初めて導入したことで有名だ。トンネル活用による時間短縮効果は大きく、地上を走る場合と比較して約3分の1の時間で、インターナショナル・ディスリクトからコンベンション・センターまで走ることができる。

Convention Place Station
9th Avenue and Pine Street
『Two Theater Marquees』
作: アリス・アダムス(Alice Adams)ほか

Westlake Station
4th or 5 th Avenue and Pine Street
『Murals』
作: ロジャー・シモムラ(Roger Shimomura)、フェイ・ジョーンズ(Fay Jones)、ジーン・ジェントリー・マクマホン(Gene Gentry McMahon)

University Street Station
3rd Avenue and University Street
『Temple of the Music』
作: エリン・シー・パーマー(Erin Shie Palmer)

Pioneer Square Station
3rd Avenue and James Street
『Clocks』
作: ケイト・エリクソン(Kate Ericson)、メル・ジーグラー(Mel Ziegler)

International District Station
5th Avenue and Weller Street
『Steel Origami』
作: ソニヤ・イシイ(Sonya Ishii)

1990年(トンネル完成)

(掲載:2011年11月)

Naramore Fountain
日系2世で、画家・建築家・教師でもあったジョージ・ツタカワの代表作のひとつ

Naramore Fountain

高層ビル街にとけ込んだ 『ナラモア・ファウンテン』 は、彫刻家・画家・建築家・教師だった日系2世のジョージ・ツタカワの代表作の一つだ。東洋とも西洋ともつかない垂直に切り立ったデザインは、ツタカワの噴水の特徴で、黒い七重の皿をつたって流れ落ちる水の音は、ダウンタウンのけん騒を忘れさせてくれる。

1910年にシアトルで生まれたツタカワは7歳で両親の元を離れ、日本の岡山県で祖父母と17歳まで暮らした経験の持ち主。茶道・華道・書道などを学んだツタカワは芸術家になることを決意し、ワシントン大学では彫刻を専攻したものの、卒業後は父の貿易会社に入社する。第2次世界大戦の勃発で会社が差し押さえられると、ツタカワ自身も4年間徴兵されることになるが、その間にもニューヨークやシカゴのの芸術に触れて感受性の幅を広げ、戦後再び芸術の道を歩み始める。ワシントン大学大学院修了後は同大日本語学科・建築学科、そして芸術学校の教員として勤務し、日本やヒマラヤを訪れ、アジアと西洋の文化が融合した彼独自の作風を打ち出していった。

1958年、シアトル公共図書館の依頼で 『Fountain of Wisdom』(現在も同図書館前に設置されている)という噴水の制作に着手。1本の軸の先端から流れる水が幾重もの皿をつたって滝になる構造は、ツタカワの噴水の基本形になった。

その後、日本・アメリカ・カナダで制作された噴水は30年間で60以上。シアトルのピア41にある 『Joshua Green Fountain』 のほか、宮城県仙台市の 『The Song of the Forest Fountain』 などもツタカワの作品だ。

【所在地】 6th Avenue と Seneca Street の交差点南東角

【作者】 George Tsutakawa

【制作年】 1967年

(掲載:2011年11月)

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