世界最高のエンターテイメント集団の一つと言われる『シルク・ドゥ・ソレイユ』。その公演の一つ『Volta』に、ダブルダッチ(2本の縄跳びを使うパフォーマンス)で初めて出演したのは、日本のダブルダッチ界を牽引してきたプロのパフォーマーたちだということをご存知でしょうか。
ワシントン州レドモンド公演に出演中の屋比久嗣孝(やびく・つぐたか)さん、橋本昌和(はしもと・まさかず)さん、屋比久友子(やびく・ともこ)さん、谷澤潤(たにざわ・じゅん)さん、見島良拓(みしま・りょうた)さんとの Q&A をお届けします。
– シルク・ドゥ・ソレイユの 『Volta』 への出演が決まった経緯について教えてください。
橋本:僕と屋比久はもともとシルク・ド・ソレイユ(以下、シルク)がメキシコのカンクンで上演していたショー 『Joya』 に出演していたのですが、それが一年ぐらい経った頃に、この 『Volta』 のワールドツアーへの出演オファーをいただきました。ダブルダッチを広めたいので、「ぜひ」と。
– オーディションやリクルートで出演者が決まるのですか。
屋比久嗣孝:そうですね。このショーに、このコンセプトにあう人ということ、そして背格好やキャラクターでも選んで行く形です。
– 一つの都市に2~3ヶ月いてまた次の都市へという生活で大変なことは。
見島:最初の頃は引越しが大変だと思いました。荷物を全部まとめないといけませんし、シルクの規定量より増やせません。
橋本:輸送の関係で、持ち物も上限が決まってますし。
屋比久友子:買ったら何かを捨てる。そんな感じです。
– 逆に、楽しいことは。
屋比久嗣孝:楽しいことは、常に新鮮なことですね。行ったことのない街に行ける。でもそれは裏を返せば、やっと慣れたと思った頃に移動しなくてはいけないということ。シアトルに慣れたなと思ったら移動することになりますね。そして新鮮な気持ちで新しい街に行き、また慣れたと思ったら移動ですね。
屋比久友子:大変なことと楽しいことが、毎回同時に来るんです。大変だけど、楽しさがいっぱいです。
橋本:土地勘がないのがまず大変ですよね。アメリカもあまり回ったことのないメンバーで、行く先々で、どこにシアターがあって、どこに街があって、どこに家があって、と、理解するのが移動したては苦労します。気候もかなり違う。シアトルはもう朝は霧が出てたり雨が降り始めたりするじゃないですか。でもマイアミはずっと暑かった。体調管理もその場所によって違いますね。
– 体調管理はどのように?
見島:食事はシアターにキッチンがあるので、そこで昼も夜もちゃんと用意してくれます。なので朝ご飯は基本的にそれぞれ家にいて、昼と夜はここというパターンですね。僕は朝は家で少し食べて、お昼過ぎに来て昼ご飯を食べて、その後にトレーニングが日によってあったりなかったり。そして夕方にメイクアップして、ショーの3時間ぐらい前、だいたい午後5時ごろに夜ご飯を食べて、8時からショーが始まります。ショーが終わった後にキッチンに行ってまた何か食べたり。でも日によって違いますね。
– トレーニングは毎日ですか。
屋比久嗣孝:僕らはチームなので、チームの呼吸を整えることは毎日やっていますね。1日1日またちょっとずつ変わってくるので、微調整しています。みんなロボットじゃないので、一人一人癖があります。ある程度は一緒ですが、同じ回し方に見えても左手がちょっと早い人がいたり。そういう差をなくすためにも毎日呼吸を合わせるのが大切ですね。難しい技のところは毎日何回も確認してやっています。それぞれの技も違うので、それぞれ筋トレ、ダンス、ヨガなどもしてトレーニングしています。あとは、アーティストが入れ替わったりすると、通しでやったりもします。この間もステージでリハーサルがあったのですが、僕たちの終わった後に出て来るアーティストが別の人になったので、僕たちのところからまた通しでやる流れの練習でした。
– 変わってきたというのは進化してきたということ?
橋本:結構進化してきてますね。携帯で最初の頃の動画とか見てみたら、ほとんど変わっている気がします。流れも技も。
屋比久友子:今またちょっとストーリーが変わって、もともと脚本をいただいた時のキャラクター設定から変わっているということもあります。シルクではそういう変化は結構ありますね。
– 実際に舞台でやっている時、楽しいのはどんな時?
屋比久友子:お客さんの反応ですね。自分がやったことやアピールしたことについて、歓声とか拍手がくると舞台って面白いなとか、やっててよかったなとか、楽しさが出てきます。
谷澤:毎日同じショーというより、ちょこちょこ内容を変えていったりしているので、そこへの挑戦の意欲というか、そこが楽しみというか。それが成功してお客さんが反応してくれた時、ああこれでよかったんだなと確信を持てたりするのが楽しいひと時ではありますね。シアトルのお客さんはすごく反応がいいです。
屋比久嗣孝:シアトルに来る前にニューヨークにいたんですが、あそこはやっぱりミュジカルとかブロードウェイとか観るものがあるので目の超えた人たちが来ますから、すごいものに対してはすごいと拍手してくれますが、あとは普通に見てるという感じです。でもシアトルは、一つ一つに感動してもらえてる気がします。週に5回ぐらい来てくれている人がいますよ。いつもVIPのところにすわって見てくれます。
– いろんな国から来ている人が出演していますね。
橋本:いろんな国もそうですが、それぞれの得意分野が違うので、いろいろなスキルを見られるのが面白いです。刺激になって、たまにチャレンジしてみたりしますよ。僕らは今、トランポリンを教えてもらったりしています。
屋比久友子:シルクの他のショーはもっとサーカスっぽいですが、『Volta』 はストリート系のパフォーマンスが多い方で、ちょっと他のサーカスと違うんですね。他よりもいろいろなジャンルの得意技を持ついろいろな人が集まっているので、尊敬しあう関係性ができている気がします。
– 将来こういう仕事をしてみたいと思った人へのアドバイスを!
屋比久嗣孝:もう何かパフォーマンスをしてる人だったら、それをオーディションとかで見せたほうがいいと思います。受けないと何も始まりません。まだ何もしてなくて、将来こういうことをやってみたいと思うなら、例えば今日ショーを見にきてくれて、「この舞台に立ちたい!」と思ったなら、一番の近道はサーカス学校に行くこと。シルクも半分ぐらいがサーカス学校出身ですね。やっぱりサーカス学校ではサーカスの舞台に近いことをどんどん教えてくれますし、さらにサーカス学校とサーカスの上の人たちはネットワークがありますから、一番近いと思います。何のコネクションもない人はオーディションに来て、いいか悪いか判断されて、悪ければ仕事なしになりますが、サーカス学校に行っていればそこから何らかの形でまた次につなげてもらえると思います。
屋比久友子:私は昔、新体操をやっていたんですが、そのままこれが仕事につながるとは思っていませんでした。今思えば、サーカス学校に行っておけば世界が広がってたなと思います。今確かに舞台に立っているんですが、サーカス学校に行っていたら、今もっといろんなことができたかもなと、周りのパフォーマーを見ていて思います。
橋本:シルクにダブルダッチのアーティストが登録されたのは僕らが初めて。前例がないというのは未知の世界だと思うんですが、僕らもそこまで考えず、一番トップのサーカスにチャレンジしよう、やりたい、という気持ちが先行して、そこにみんなで乗せて行ったという感じです。だから、そんなに躊躇せず、やりたいことを、失敗してもできるだけトライしてみたらいいんじゃないかと。挑戦する前にいろいろ考えるより、まずはやってみる。そしたらいろいろ考えることが出てくるので、そこで考えればいいと思います。
– ありがとうございました。
橋本昌和(はしもと・まさかず)さん(34)
沖縄県宜野湾市出身。日本体育大学でダブルダッチに出会い、1999年に屋比久嗣孝さんらとプロチーム「カプリオール」を結成。国内外の競技大会で優勝し、2012年にシルクに入団。
屋比久嗣孝(やびく・つぐたか)さん(35)
沖縄県石垣市出身。日本体育大学でダブルダッチに出会い、橋本昌和さんらとプロチーム「カプリオール」を結成。国内外の競技大会で優勝し、2012年にシルクに入団。
屋比久友子(やびく・ともこ)さん(34)
東京都出身。嗣孝さんの妻で新体操の元五輪強化選手。大学でダブルダッチに出会う。シルクには 『Volta』 から出演。
谷澤潤(たにざわ・じゅん)さん(32)
大阪府出身。高校でダブルダッチに出会い、関西初のプロダブルダッチチーム「オルトタイプ」に所属。2016年にシルクに入団。
見島良拓(みしま・りょうた)(30)
京都市出身。大学でダブルダッチに出会い、関西初のプロダブルダッチチーム「オルトタイプ」に所属。2016年にシルクに入団。
【会場】 Marymoor Park (Redmond, WA)(地図)
【公演期間】 2018年9月14日~2018年11月4日
【チケット】 $39~
【公式サイト】 cirquedusoleil.com
【電話】 1-877-9CIRQUE(1-877-924-7783)
【駐車】 有料駐車場($20)
【その他】 入場の際にバッグの中身検査あり。場内では、軽食や飲み物のほか、さまざまなグッズを購入できます。
掲載:2018年10月