マウント・レーニア国立公園は、1899年3月2日にオープンした、アメリカで5番目に古い国立公園。総面積は235,625エーカー(95,354ヘクタール:954平方キロ)で、その97%が自然環境保護区域に指定されています。中心には、ワシントン州の最高峰で標高14,411フィート(4392m)を誇るマウント・レーニアがそびえています。
ワシントン州の最高峰 マウント・レーニア
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マウント・レーニアは、ワシントン州の象徴的な山で、シアトルの南東に位置しています。高さは約4,392メートルで、頂上から四方に向けて放射状に伸びる40あまりの氷河はアメリカ本土最大規模を誇ります。
シアトル地域で言う “The mountain is out!” というフレーズは、「マウント・レーニアが見えてるよ!」という意味。ローカルがこの山に対して感じている愛と誇りを感じさせます。
名前の由来
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Rainier(レーニア)という名前は、地図を作成するためにこのあたりを調査していたイギリス出身の探検家ジョージ・バンクーバー船長によってつけられたもの。友人のピーター・レーニア(Peter Rainier)提督にちなんでいます。
でも、この山はそもそも先住民が約9000年前から狩りや食べられる植物の採集を行っていたところ。ピュアラップ族は「Tahoma」(タホマ)または「Tacoma」(タコマ)と呼んでいました。これには “mother of waters” や “frozen water” といった複数の意味があります。
国立公園局の公式サイトによると、特に、カウリッツ族、マックルシュート族、ニスカリー族、ピュアラップ族、スクアシン・アイランド族、ヤカマ族にとって大切な伝統のある土地の一部です。
富士山に似たその姿から、日本から移住してきた日本人やその子孫の日系アメリカ人は「タコマ富士」と呼ぶようになりました。
マウント・レーニアは活火山
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マウント・レーニアは、活火山(active volcano)で、主に1ヵ所の火口から噴火を繰り返し、溶岩と火山火山砕屑岩が降り積もってできた、円錐形に近い形の成層火山(stratovolcano)でもあります。
米国国立公園の公式サイトによると、火山活動が始まったのは、50万年前から100万年前。最も最近の噴火は19世紀前半で、大規模な噴火は1,000年にわたって起きていません。
火山活動によってすぐに何らかの問題が起きる可能性は低いと見られていますが、前述のように傾斜がきつく、大部分が氷雪に覆われているため、火山活動が活発になれば結果的には周辺地域に大きな影響を与えると予想されています。
エベレストとほぼ同じ傾斜であるため毎年何人もの登山家が登頂に挑戦しますが、2016年には48%しか成功していません。(National Park Service 調べ)。
アクセス方法
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マウント・レーニア国立公園は、シアトル市の南東約85マイル(約140キロ)のところにあります。公共交通機関はないので、車かツアーで行くことになります。
車の場合、シアトルから公園南側のニスカリー・エントランス(Nisqually Entrance)を通ってパラダイスまで行くのが一般的(片道約2時間半:99マイル)。もう一つは、シアトルから公園東側のサンライズまで行く道路も人気があります(片道約3時間)。サンライズとパラダイスは舗装道路でつながっていて、片道約1時間かかります。日が長い夏なら午後8時~午後9時まで明るいですが、秋から冬にかけては日が短いので、タイミングを考えて移動しましょう。
マウント・レーニア国立公園の入園 2024年のピーク期間は予約制
公園管理局は、2024年の夏の混雑期間に、入園予約システム(timed entry reservations)を試験的に導入しました。詳細は下記のリンクでご覧ください。
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マウント・レーニア国立公園の4つの出入口
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マウント・レーニア国立公園には、下記の4つの出入口があります。
- ロングマイヤーとパラダイスにつながるニスカリー・エントランス(Nisqually:南西)
- 公園南東部の123号線からオハナペコシュ(Ohanapecosh)のビジター・センターを経由して入るスティーブンズ・キャニオン・エントランス
- 公園北東部のサンライズに続くホワイト・リバー・エントランス(White River)
- 公園北西部のカーボン・リバー・エントランス(Carbon River)
最も人気が高いのは、ロングマイヤーとパラダイスにつながるニスカリー・エントランス。園内には147マイルの道路と240マイルのトレイル(登山道)があり、本格的なクライミングからカジュアルなハイキングやピクニックなどを目的に、毎年約200万人もの人々が訪れます。
なお、園内の道路はほとんどの場合、制限時速が35マイル(約56キロ)になっています。
春から秋のアクティビティ
春から秋にかけては、以下のアクティビティが楽しめます。
- ハイキング(標高5400フィート/1600m のパラダイスでは、6月でも雪があります)
- クライミング
- サイクリング
- 釣り
標高の高いエリアでワイルドフラワーが咲き乱れる様子を見られるのは、だいたい7月下旬から8月上旬に限られています。
冬のアクティビティ
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10月下旬から雪が降り始め、真冬は一面の銀世界が楽しめるマウント・レーニア国立公園。冬には以下のアクティビティが楽しめます。
- ハイキング
- スノーシュー
- クロスカントリー・スキー
- バックカントリー・スキー
- そり滑り(指定のエリアのみ)
マウント・レーニア国立公園にはスキー場はありません。スキーやスノーボードをする場合は、自分で担いで登って滑って降りるバックカントリースキーを意味しています。整備されたスキー場の方がいい場合は、近くのクリスタル・マウンテンにスキー場があります。
冬季は4つある入口のうち、南西端にあるニスカリー・エントランスと北西端にあるカーボン・リバー・エントランスの2つのみオープンします。ニスカリー・エントランスからアクセスできるロングマイヤー、そしてその先のパラダイスは、冬も最も人気のあるエリアです。真冬でも天気のいい日は、パラダイスの駐車場が満車になることもあります。
【ロングマイヤーのゲートの開閉時刻】
ゲートオープン:午前9時
登りのゲート閉鎖: 午後4時
下りのゲート閉鎖:午後5時
パラダイスに向かう場合に通過するロングマイヤーにはゲートがあり、夜間は閉鎖されます。パラダイスとロングマイヤーは片道30分はかかると見ておきましょう。ゲートのオープンは天候や道路状況によって予定時刻より遅れたり、一日閉鎖されることがあります。ロングマイヤーのゲートの現在の状況やその他の道路の最新情報は、アラートでご確認ください。オープンすることを確認できたら、ロングマイヤーに向かうのがおすすめです。
11月1日から5月1日までは、4WDとAWDの車も含め、すべての車両にタイヤのチェーンを積んでおく必要があります。チェーン装着義務のアナウンスがあった場合、自分でタイヤにチェーンをつける必要があります。
ビジター・センターは?
マウント・レーニア国立公園には、5つのビジター・センターがあります。
Longmire Museum(ロングマイヤー・ミュージアム)
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マウント・レーニアの南部にある二スカリー・エントランスから約6マイル(約10km)、標高2,700フィート(約822m)。1928年にオープンした、アメリカの国立公園サービスでは最も長い歴史を持つ小さな博物館。もともとはレンジャーのオフィスでしたが、今はマウント・レーニアの自然と地理的な歴史や動物などの展示物があります。レンジャーかボランティアのスタッフが質問に答えてくれます。また、すぐそばにはレストラン・ギフトショップ・宿泊施設のあるナショナル・パーク・インがあります。
Henry M Jackson Memorial Visitor Center(ヘンリー・M・ジャクソン・メモリアル・ビジター・センター)
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マウント・レーニアの南部、標高5,400フィート(1,647m)のパラダイスにあるヘンリー・M・ジャクソン・メモリアル・ビジター・センター。トイレ、レンジャーかボランティアのスタッフが質問に答えてくれるインフォメーション・デスク、スナックの販売、ギフトショップ、国立公園の映像の上映、原生植物や動物、火山についての展示があります。そのすぐそばにあるパラダイス・インは、レストラン・ギフトショップ・宿泊施設が揃っています。
パラダイスの駐車場が満車であれば、ロングマイヤーからパラダイスに向かう途中の右手に設置された標識にライトがつきます。
Ohanapecosh Visitor Center
マウント・レーニア国立公園の南東の角、州道123号線にあるビジター・センター。最寄の町 Packwood から約12マイル(約19km)。キャンプ場の「Ohanapecosh Campground」の隣で、オレゴン州の Natural Hot Springs と Silver Falls のトレイルヘッドのそばでもあります。トイレ、展示物があり、夏季にオープン。レンジャーかボランティアのスタッフが駐在していれば質問に答えてもらえます。
Sunrise Visitor Center
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マウント・レーニア国立公園の北側にあり、州道410号線から入って約15マイル(24km)の Sunrise Road の終点にあります。マウント・レーニア国立公園内で車で到達できる最高地点で、標高は6,400フィート(1951m)。通常、10月上旬から6月頃まで閉鎖され、夏季のみオープンしています。
舗装道路なので、自転車で上り下りすることもでき、ビューポイントからは周囲の谷、マウント・レーニア、およびマウントアダムスなどのカスケード山脈の他の火山をほぼ360度見渡すことができます。
レンジャーかボランティアのスタッフが駐在していれば質問に答えてもらえます。ビジター・センターのそばの建物では、トイレ、ギフトショップ、スナックの販売あり。
Carbon River Ranger Station
マウント・レーニア国立公園の南西の角にあり、天候が安定している時はレンジャーかボランティアのスタッフが駐在し、質問に答えてくれるほか、ウィルダネスのキャンプ許可を出してくれます。
その他の施設
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マウント・レーニア国立公園の南西の角、二スカリー・エントランスの東6.5マイル(約10.5km)にある Longmire Administration Building。1930年に完成した建物で、公園職員のオフィス、ウィルダネス・インフォメーション・センターとして機能しています。
宿泊施設
キャンプ場
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マウント・レーニア国立公園には、4つのキャンプ場があります。
キャンプ場は先着順ですが、Cougar Rock と Ohanapecosh Rock は、Recreation.gov で予約できます。
ホテル
Paradise Inn(パラダイス・イン)
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夏季のみ営業するパラダイス・インは、マウント・レーニア国立公園の南西のニスカリー・エントランスから車でアクセスできるロングマイヤー歴史地区を通過してさらに約30分のパラダイスにあります。1917年にオープンし、1987年に米国国定歴史建造物に指定された大型ホテルです。2006年半ばから約2年間にわたり閉鎖され大規模な改修工事が行われた後、2008年5月に再オープン。別館も改築工事を終え、2019年5月に再オープンしました。館内にはレストラン、カフェ、土産物屋があります。標高5,400フィート(1,645メートル)。
National Park Inn(ナショナル・パーク・イン)
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一年中オープンしているナショナル・パーク・インは、マウント・レーニア国立公園の南西のニスカリー・エントランスから車でアクセスできるロングマイヤー歴史地区にあります。25室の客室があり、レストラン、土産物屋、郵便局があります。標高2,700フィート。
観光・ハイキング・登山
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マウント・レーニア国立公園は年中オープンしていますが、観光に最適な季節は通常7月中旬~8月下旬。
広大な園内には、1時間程度で周遊できる平坦で短いトレイルから、マウント・レーニアの周囲を93マイル(約149キロ)の行程で約2週間かけて一周するワンダーランド・トレイルまで、無数のハイキング・トレイルがあります。すべてのトレイルをあわせると、その長さは300マイル(約480キロ)にもなるとか。
特に人気があるパラダイスは通常、7月中旬までトレイルに雪が残っているので、しっかりした靴をはいていても歩きにくいことがあります。雪解けはサンライズの方が早いので、シーズン初期のころのハイキングにおすすめ。
秋は美しい紅葉が楽しめ、空気が澄んでいます。上に積もった雪が解けて青く光る氷河を見ることができるのが魅力。
冬には積雪などのためロングマイヤーとパラダイスに行くニスカリー・エントランスからしか入ることができない上、高い標高にある道路とトレイルが閉鎖されます。秋から春にかけては、マウント・レーニアのツイッターや公式サイトで、道路状況を確認する必要があります。
ロングマイヤーのトレイル
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トレイル・オブ・ザ・シャドーズ(Trail of the Shadows)
全長0.7マイル(約1.1キロ)起伏20フィート、所要時間45分
短いループトレイルで、自然の中を歩きながら、ロングマイヤーの歴史を学び、感じることができるトレイル。ロングマイヤー・レンジャー・ステーションのエリアから始まります。このエリアは入植者のジェームズ・ロングマイヤーが1890年に温泉療法リゾートのロングマイヤー・メディカル・スプリングス・リゾートを建設したところで、古いホテル跡を示す標識があります。
パラダイスのトレイル
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ニスカリー・ヴィスタ・トレイル(Nisqually Vista Trail)
全長1.2マイル(約1.9キロ)起伏200フィート、所要時間45分
きちんと舗装されたトレイル。マウント・レーニアの雄大な姿とさまざまな野生の草花を見ながらの散歩といった感じです。途中、この山では5番目に大きい氷河のニスカリー・グレーシャー全体を見ることもできます。夏季にはレンジャーがいろいろな説明をしてくれる無料ツアーもあり(ツアー開始時間はビジター・センターで確認すること)。
デッド・ホース・クリーク・トレイル(Dead Horse Creek Trail)
全長2.5マイル(約4キロ)、所要時間1.5時間
ニスカリー・ヴィスタ・トレイルの起点の右横から始まり、グレーシャー・ヴィスタまで平坦な箇所と上り坂が続くトレイル。ニスカリー・ヴィスタよりも変化に富んだ地形と、遠くはマウント・セント・へレンズまで見渡せるパノラマ・ビューが楽しめます。きちんと舗装されているので、少し大変な思いをしても登る価値はあるでしょう。標高差は400フィート。
スカイライン・トレイル(Skyline Trail)
全長5マイル(約8キロ)、所要時間4時間
グレーシャー・ヴィスタとパノラマ・ポイントまで続くトレイル。マウント・アダムス、マウント・セント・へレンズ、そしてニスカリー・グレーシャーを見渡すことができます。デッド・ホース・クリーク・トレイルとはクリークを隔ててほぼ平行に設置されていますが、傾斜は比べ物にならないほど急なため、運動をしていない人には非常にきつい。スカイライン・トレイルとつながる地点までは前述のデッド・ホース・クリーク・トレイルがおすすめ。
サンライズのトレイル
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エモンズ・ヴィスタ・トレイル(Emmons Vista Trail)
全長0.5マイル(約0.8キロ)、所要時間0.5時間
駐車場の南側から出発し、エモンズ・グレーシャーを見ることができるトレイル。
ネイチャー・トレイル(Nature Trail)
全長1.5マイル(約2.4キロ)、所要時間1時間
駐車場の北側から出発し、草花とマウント・レーニアの雄大な姿を眺めることができるトレイル。
ハイキングのトレイルを選ぶ時、距離や獲得標高を確認すること。距離が短くても獲得標高が高ければ急な登りであることがわかります。
クライミング(登頂)
クライミング(登頂)とハイキングは、まったく別のレベルです。マウント・レーニアは死亡事故も起きる山。標高約10,000フィート(3,048m)のキャンプ・ミューア(Camp Muir)や標高1万4,410フィート(4,392m)の頂上に登頂したい場合は、準備と訓練が必須です。
キャンプ・ミューア(Camp Muir)
全長8マイル(約12.8km)、獲得標高4,640フィート(1,414m)、所要時間6~8時間
スカイライン・トレイルをぺブル・クリーク(Pebble Creek)まで2.3マイル(3.7km)を登ると、ミューア・スノーフィールド(Muir Snowfield)の起点に到着します。ここからキャンプ・ミューアまで標高約10,000フィート(3,048m)まで登ることになります。初心者向きではなく、トレーニングが必要。ミューアとは、国立公園の設置を提唱した「自然保護の父」と言われるジョン・ミューア(John Muir:1838-1914)のラストネームから。このキャンプ・ミューアまで登る場合はクライミング・パーミット(登頂許可証)はいりませんが、頂上まで登頂する場合はクライミング・パーミットが必要です。詳しくはワシントン州トレイル協会の公式サイトなどでご覧ください。