執筆者:川合由佳子さん
1年を通じてさまざまなアクティビティが楽しめるのはワシントン州ならでは。「何でもやってみよう!」という気持ちで、いろんなことにトライしています。
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私がシアトルは美しい街だと思う一番の理由は、四季があることではないかと思います。フロリダやカリフォルニア、ハワイなど、一年中夏という州はたくさんありますが、シアトルには日本のようにちゃんと春や秋があります。
シアトルに住む日本人が、秋になって紅葉が美しくなってくるとそわそわし出すのは、みんなマツタケ狩りに行きたくなるからなんです。
実は私、マツタケがある所知ってるんです。
きのこ先生とマツタケ狩り
だいぶ前の話ですが、マツタケが豊作だった年がありました。 そのとき運がいいことに、 きのこ協会会員の友達(以下きのこ先生)がマツタケ狩りの運転手を探してたんです。 彼女に言われるままシアトルから3時間も東に車を走らせて行った場所には、足元をよーく見てないと踏んづけちゃうくらいたくさんのマツタケが・・・。 (翌年、同じ場所にまた行ってみましたが、見事に近辺が開拓されていて、マツタケ山は影も形もなくなっていました。)
その後何年も経って、「マツタケ取りに行きましょうよ」と、 きのこ先生に連絡。 しかしながら、もう9月も中旬なのにシアトルは毎日いい天気。 すっかり晴れ上がって地面はカラカラ。
こんなにドライではマツタケは無理だろうと、 今度はスノコルミー・パスへ、今が旬のボリートきのこ(King Boletus/Porcini/ポルチーニ)を採りに行くことに。Boletus は、フランスとイタリアが主な産地ですが、アメリカでも採れます。傘の色は主にが赤かオレンジ系ですが、ノースウェストでは茶系も採れます。ステムの上は reticulation といって、網目の模様になっています。
きのこ狩りはまったく無知の私はきのこ先生だけが頼り。「行ったことあるから場所はわかってる」という彼女の言葉を信じて、東へ向けて約一時間走りました。
きのこ先生曰く、「それっぽい所へ行くと、天の声が私に話しかけるかの ように感じる」とのこと。
きのこがある場所へと導いてくれるとか。きのこに精通してくるとだいぶ神がかってきます。言われるままにそれっぽいトレイルの前に駐車して歩き出しました。もちろん人が歩いてるトレイル沿いにはきのこは生えていません。そして、先生が急に横道の生い茂った木をよけながらずんずん入っていき・・・
でっかいきのこを発見!!!
先生いわく、これがボリートきのこだそう。私は見たこともないのでそれを信じるのみ。
と思ったら、先生がいつもきのこ狩りに持参するきのこ狩りバイブル(きのこ図鑑)を忘れてきちゃったそうで、さっきまではっきりこれがボリートと言い切ってた先生も、後でインターネットで調べてみる・・・だって。 大丈夫かしら?
他の種類のきのこもたくさん見つけて説明してもらいました。新しい種類のきのこを見つけるたびに、先生は「このきのこ、かわいい」を連発。かわいいって言葉、きのこに使える単語だったのね。そういえば、きのこフェスティバルの会場で、きのこの形のイヤリングとかネックレスとかが一杯売られていました。きのこのことが好きな人には、私がパピヨンがついたものならなんでもかわいいというように、きのこがかわいくなっちゃうんですね(笑)。
ボリート(らしき)きのこが一杯取れて先生はとってもうれしそう。家に帰って、ちゃんとインターネットで調べてみると、本当にそれっぽい。先生はかなりの確信をもって、ちょうど良いサイズのを選んでバターソテーを作り始めました。でも、あんなに自信を持ってた先生が、できたきのこバターソテーを持って、
「みんなでいちにのさんで、一緒に食べましょう」
えっ、だって確信があるんだったら自分がみんなの 前で最初に食べたっていいじゃないの?おそれをなした私は、ほんの少しだけ食べました。
でも、全部を食べた先生は一言、「苦い」
苦いのはやっぱりだめでしょう。残念ながらそれ以上食べる勇気なし。ごめんなさい。残りのきのこ捨てちゃいました。写真で見る限りにでは、私もボリートと思うんですが、苦いというのはやっぱりやばいでしょう。
専門家に言わせると、きのこにカビが生えてたり(きのこがカビじゃないの?)、虫がいたりすると、味が悪いのもたまにあるとか。もしかしたら他のを食べたら美味しかったのかもしれないのですが、何かあったらというのが頭をちらついて、やっぱり食べられませんでした。結局、その日の晩御飯は、きのこ採りには参加しなかった友達がお店で買ってきたきのこ入りのパスタでした。
ボリート狩りは残念でしたが、きのこ狩りというノースウェストに住む醍醐味を味わえた一日、冗談なようですが本当に楽しかった思い出です。
その後、きのこ先生からのお誘いはまったくなし。これでは、「実は私、マツタケがある所知ってるんです」ではなく、「実は私、マツタケがある所知ってたんです」が正解ですね。誰かにまた連れて行ってもらいたい!
さてさて、みなさんにもこんなことが起こらないよう、きのこを勉強するのにとてもいいイベントをご紹介しましょう。
Environmental Learning Center
一つ目はシアトル市が提供している環境学習クラス、Environmental Learning Center。パークレンジャーと一緒にディスカバリー・パークを歩きながら、きのこを探して勉強しようというクラスは、Mushroom Walk といいます。年に一度しかないクラスなのですぐに一杯になっちゃいますが、負けずにWaiting Listにのせてもらいましょう。私も当日の朝、「キャンセルが出た」と電話がかかってきて、参加できることになりました。先生役のパークレンジャーも、「私はキノコのプロじゃないんだけど、みなさんと一緒でとてもキノコに興味があるのよ」と自己紹介をしてくれて、とってもフレンドリーでした。ダウンタウン・シアトルの近くに位置するディスカバリー・パークでもこんなにいろいろな種類のキノコを見ることができるなんて、きっとみなさんもびっくりしますよ。さすが雨が多いシアトルですよね。
ワイルド・マッシュルーム・ショー
それからもう一つのイベントは、キノコ先生も会員の、Puget Sound Mushroom Society (PSMS:ピュージェットサウンド菌類同好会)によるワイルド・マッシュルーム・ショー。
このショーは、PSMS の会員がこのショーのために集めた何百種類ものキノコが、食用か、毒を持っているかの説明つきで展示されます。そして展示場の奥には、会員の中で「キノコ博士」と呼ばれる人が、ショーに来た人が持ってきたキノコをどんな種類のキノコか鑑定し、説明してくれます。
ちょうど私がキノコ博士の前を通ったときに説明していたのは、小ぶりの真っ白な(白いといっても皮を白くしたような鈍い感じの白)きのこ。博士曰く、「このキノコを食べると、人間は5分以内に死んでしまうほどの猛毒を持っているもの」。一体、どこで見つけてきたんでしょうね。
入口には、キノコおたく心をくすぐるキノコの形のイヤリングやアクセサリのお土産屋さんが並んでいました。
まず食いしん坊の私達が最初に行ったのが、キノコ料理の試食コーナー。某日本食レストランのシェフが、シャンテレル・マッシュルームでお寿司を作っていました。一口食べてみると、おいしい・・・。シャンテレルはよくスモークサーモンとクリームソースのパスタ料理に使われるキノコですが、そんなキノコが寿司飯とぴったりなんて思ってもみませんでした。
朝早くに出かけたおかげで待ち時間もなくいただくことができました。午後からはイタリアンのシェフがボリート・マッシュルームでパスタを作っていましたが、その頃にはものすごい人でした。
キノコ展示場では協会のボランティアの人が来場者の質問に気軽に答えてくれますが、上の写真のカリフラワー・キノコ(正式な名前は忘れてしまいました)を山の中で見つけたときは「後光がさしていて、ものすごくうれしい」と、話してくれました。
奥が深いきのこの世界
日本人が展示をしたら、まず最初にマツタケを飾ると思うのですが、実はマツタケのことが好きなのはどうやら日本人だけで、アメリカ人はマツタケをとってもどんな風に料理していいのかわからず、普通のマッシュルームのように炒め物とかにしてしまうとか。この展示でもマツタケはひっそりと飾られていて、似たようなキノコがたくさんある中では、私の場合は自分でマツタケを探すことができませんでした。ただ、協会の人はこのマツタケは日本人に超人気なのを知っていて、名札に本当の名前の他に “Matsutake Mushroom” と書いてありました。日本人に高く売れるだけあって、ベトナム人やカンボジア人のキノコ狩り同士が領地争いをし、ライフル銃を持ってキノコ狩りに出かけるといううわさを聞いてしまいました。もちろんまだキノコ狩りで人が撃たれたという話はまだ聞いたことはないのですが、怖い話です。
ディスカバリー・パークのキノコのクラスも、このキノコ協会も、「子供連れも大歓迎」というのは、子供は大人より目線が下で、腰をかがめなくてもキノコを見つけるのが早く、シアトルならそんなに山奥に行かなくても子供が一緒に行けるところで十分キノコが取れるので、キノコ狩りは理科の勉強になるそうです。会場には子供のための体験コーナーなどもありました。
この協会に入会すると、会員達の間でブログを使ってどこどこでどんなキノコを見つけたと情報交換がされているそう。会員が参加できる協会主催のフィールド・トリップがたくさんあって、それに参加しながらキノコについて学んでいくのがおすすめです。マツタケがどこで取れるかはみんな結構内緒にしていてなかなか教えてくれないのですが、本を読んでも書いてないので、知ってる人と仲良くなって連れて行ってもらうのがやはり一番いい方法ではないでしょうか。
一つ間違えば命を落とすことにもなりかねないキノコ狩り。気軽に考え過ぎると大変なことになりかねませんが、キノコは秋の果物(Fruits of the Fall)。とっても奥が深いです。きちんと学んで、ノースウェストの醍醐味を楽しみましょう!
Happy Hunting!
掲載:2014年9月