約4万年前にできたとされるマウント・セント・へレンズは、カスケード山脈の火山の中では火山活動が最も活発な火山です。
1980年5月18日に大噴火して山頂が吹き飛び、それまで「アメリカの富士山」(Fujiyama of America)と呼ばれていた優美な姿から大きく変わってしまいました。
でも、あちこちに生えている草花が、自然の復活力を感じさせてくれます。
ジョンストン・リッジ展望台は閉鎖中:2024年5月14日、大規模な地滑りが発生し、マウント・セント・ヘレンズ国立火山記念碑の北側にあるジョンストン・リッジ展望台へ続く道路の上部区間、SR 504が閉鎖されています。現時点で、再開予定は2027年となっています。
名前の由来
ネイティブ・アメリカンはこの山を “Louwala-Clough”(smoking mountain)と呼んでいました。
でも、このあたり一帯を探検したことで知られるイギリス海軍の探検家で海軍士官のジョージ・バンクーバー艦長が、当時イギリス大使としてスペインに派遣されていた友人セント・へレンズ男爵、アイレン・フィッツハーバートにちなみ、マウント・セント・へレンズと名づけ、それが現在も一般的に使われています。
1980年の大噴火
この大噴火が起きる2ヶ月前から付近では地震が1万回以上、蒸気の噴出が100回以上も発生し、北側の側面が80メートル以上も外側にせり出すなどの大きな変化が確認されていました。
そして、5月18日、リヒタースケールでマグニチュード5.1の地震が発生した後、大噴火が発生。上部約1,300フィート(約400メートル)が吹き飛び、北側斜面が有史以後最大規模という地滑りを起こし、数分後には火山灰が上空約6万フィート(約19キロ)まで噴出、5億4千万トンの火山灰が風に乗って米国西部5万7千平方キロまで運ばれたことが確認されています。
噴火は9時間にわたって続き、ガス・蒸気・岩屑が時速1,100キロの速度で流れ、頂上周辺の雪や氷は溶けて川になり、周辺230平方マイルの森林が壊滅状態になりました。鉄道・高速道路・建物・橋などが大きな被害を受け、57人が死亡したと記録されています。1982年には調査・レクリエーション・教育を目的に火山国定公園(National Volcanic Monument)に指定され、園内は手付かずの自然が残されています。
この大噴火は、世界史の面から見ると例外というほどの規模的ではなかったものの、1914年にラッセン・ピークが噴火して以来、米国本土にある火山の噴火は66年ぶりだったため、大きな注目を浴びました。
米国地質調査所によると、マウント・セント・へレンズはカスケード山脈にある他の火山と同じく、溶岩や火山灰などの火山噴出物が左右対称の円錐状に何層にも重なってできたいわゆる成層火山(stratovolcano)で、噴火が大規模になる傾向があります。
ハワイに見られる傾斜が緩やかな盾状火山(shield volcano)は、一般的に噴火が爆発的ではなく、活発な火道(vent)から液状の溶岩が長い距離を流れるという、ワシントン州の火山とは特徴が異なります。
現在の火山活動の状況
1980年以後は火山活動はおさまっていましたが、2004年9月に再び小規模の地震が繰り返し起きるようになり、10月1日には水蒸気や火山灰が噴出し、翌日にはより規模の大きな爆発が発生。警戒レベルは最大の3に引き上げられ、避難命令が出されました。10月6日には警戒レベルは引き下げられましたが、10月11日には地表近くにまで上昇したマグマが1980年の大噴火で形成された溶岩ドーム(lava dome)のすぐ南側に新たな溶岩ドームを形成しつつあると発表されました。
翌2005年3月8日には噴煙が20~30分ほどにわたって立ち昇り、マグニチュード2.5の地震が観測されるなど、活動が活発になりました。しかし、ほとんどの噴火はガスによって引き起こされると見られており、現在は溶岩に含まれるガスが少量であることから、噴火が起きる可能性は低いと見られています。2006年7月18日午前にはマグニチュード3.6の地震が起きましたが、2006年7月21日には登山が解禁となり、現在は1日100人までが登山を許されています。
ハイキング・登山
マウント・セント・へレンズの登山は火山活動が再開したとされた2004年9月から禁止されていましたが、2006年7月21日に再び解禁されました。
混雑緩和と自然保護のため、4月1日から10月31日まで、1日あたりの登山者数が制限されています。
- 4月1日~5月14日:1日300人まで。登山許可証を事前にオンラインで購入する必要あり。
- 5月15日~10月31日:1日110人まで。登山許可証を事前にオンラインで購入する必要あり。
- 11月1日~3月31日:人数制限なし。許可証は無料で、トレイルヘッドで自主発行。
2021年は4月からの登山許可証が Recreation.gov を通じて3月1日に発売され、10月31日まで毎月1日に発売されました。
登山道は標高8,365フィートの火口縁(crater rim)まで片道5マイル(約8km)。登山口との標高差は4,500フィート(約1371m)。所要時間は平均7~12時間。火口に入ることは厳重に禁止されています。
見どころ
Johnston Ridge Observatory ジョンストン・リッジ展望台
マウント・セント・へレンズから約5マイル(約8km)離れた地点にある展望台。噴火に関する展示や、マウント・セント・へレンズの北側側面の全景を見ることができます。また、劇場では噴火に関する映画も見ることができます(上映時間16分)。施設の内外の立ち入りには入場料がかかります。詳細は USDA 公式サイトで。
Weyerhaeuser Forest Learning Center(ウェアハウザー・フォレスト・ラーニング・センター)
木についてさまざまなことを学べる学習施設。劇場ではセント・へレンズの噴火についてのドキュメンタリー 『The Eruption』 を繰り返し上映しています。施設横にはエルクを見ることが出来る見晴台があります。入場無料。開館時間などの詳細はwww.mountsthelens.com 参照。
Spirit Lake(スピリット・レイク)
かつては森林に囲まれていたスピリット湖は、1980年の大噴火で大きな影響を受けた。大噴火で噴出された火山堆積物でノース・フォーク・タートル・リバーとの接点がブロックされ、周囲の森林は壊滅状態となりました。噴火で吹き飛ばされたり、解けた雪や氷などで流されてきた木々が湖面や湖岸に投げ出されています。しかし、雨などで湖面が上昇して火山堆積物によるダムが崩壊しそうになったため、1982年には US Army Corps がノース・フォーク・タートル・リバーとの新しい接点を設置し、水が流れるようになりました。詳細はWTA 公式サイトで。