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「絵の中の少女は何を意味するのか」 Mr. の個展をめぐるトーク・イベント、シアトル・アジア美術館で開催

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Live On

『Stationed at the Convenience Store』(2013)
2014年11月22日の個展開幕前に行われたメディア・イベントでの Mr.(右端)

日本のオタク・サブカルチャーを代表する Mr. の個展 『Live On: Mr.’s Japanese Neo Pop』が、あちこちで賛否両論となっている。

最近では、シアトルの無料週刊誌 『The Stranger』の美術批評家、ジェン・グレーブスが、2月11日付の論評の中で、「ロリコン」と自負している Mr. が少女を題材に作品を制作発表していることに対して違和感と嫌悪感を表明したことを覚えている方も多いだろう。

そこで、シアトル美術館とシアトル・アジア美術館は、一般のアメリカ人には広く理解されていない “萌え” という概念や、Mr. の描く少女たちが何を意味するのか、児童ポルノとどう違うのかなどといった疑問について話し合うトーク・イベントを、2月20日に開催した。

このトーク・イベントは、音楽やビデオ上映などを交えたソーシャル・イベント『アート・グローバリー』 の一環で、45分という短い時間だったが、レクチャーとスライド・ショーという構成で展開。ゲスト・スピーカーとして招かれたのは、ミネアポリス芸術大学で日本のマンガ文化の専門家として教壇に立つフレンチー・ラニング氏、シアトル・セントラル・カレッジで日本美術史の講師を務めるメラニー・キング氏、そしてシアトル在住のアーティストの筆者・田村麻紀の3人。

まず、日本の文化の中で “少女” という概念がどこから生まれたのか明治から昭和の写真や文献を使って検証してきたフレンチー・ラニング氏は、大正・昭和にかけて起きた日本独特のエロスと純情さが混同した少女 “キャラ” の文化形成について説明した。また、原宿のファッションの一つである「デコラ少女」たちを写真で紹介しながら、「髪飾り・メイク・マスコットなどをこれでもかと過剰な装飾を全身に施した「デコラ少女」の格好は、Mr. の作品に見られる混沌とした画面を人間の体に写したかのよう」と述べた。デザインや絵を描く時、西欧では理性的なアプローチで「中心」のモチーフを引き立てる視覚的表現が一般的だが、Mr. の作品やデコラファッション、地下アイドルのサウンドなどは、ごちゃまぜの空間で全てが同じ強さの存在感をアピールするという、正反対の表現方法を取っている。「さまざまな形・色・ロゴなどが均等にひしめき合った構図を “distributive field” と呼んでいるが、それはヒエラルキーをもとにした西欧の歴史的な構図の取り方とは別の、もっと女性的で自由で複雑な表現方法だ。Mr. は “pervert”(変質者)ではなく、独特な文化を反映している作家なのだ」。まさに繁華街のノイズと一緒なのだ。ちなみに、ラニング氏はアメリカ国内で日本の漫画本を所持した人たちが児童ボルノ所持の疑いで逮捕された場合、被告の弁護士にコンサルテイングをする仕事もしている。日本とアメリカの文化の違いが生む誤解を説明し、日本の独特な漫画描写が何を表しているのか、弁護士・警察・税関に解説するのがその役割だ。

続いてメラニー・キング氏は、アメリカ人が日本のアートを見る際に起きやすい偏見について指摘し、アメリカにおけるピューリタンの宗教文化背景から来る性的表現に対する警戒心や嫌悪感が、Mr. の作品の理解を阻めていないかと疑問を投げかけた。戦争のトラウマをテーマにした暗黒舞踏の肉体表現、社会のタブーに挑んだ長島有里枝のヌード家族肖像写真などといった日本人作家の作品例を通して、「アートにおける裸体は性犯罪的なものではないのだから、Mr. の作品を鑑賞する際にまずは欧米を軸にした価値観の外に出てみては」。

一方、筆者は、アーティストとしての観点から、Mr. がブログで公開している制作過程を細かく記録した画像を紹介し、その作品には工芸的な要素があると発表した。コンピュータで出力した原寸プリントをトレースして、山のような資料画像を参考に合成させた画面やシルクスクリーンを駆使して描かれた作品の制作過程を知ることによって、見え方が少し違ってくるからだ。さらに、萌え文化の一例として、NHK 連続テレビ小説『あまちゃん』 の主演女優が日本で多くの視聴者を魅了したことを紹介し、秋葉原の地下アイドル文化やオタ芸などといったアイドルとファンの独特な関係が、Mr. と被写体の少女キャラたちとの独特な距離感に通じるものがあるのでは、と提案した。

前述のとおり、45分という短い時間では深い議論を行うことは難しく、「膨大な情報量に頭がパンクしそうになった」と言う参加者もいたが、Mr. の展示を見るに必要な背景知識を得、現代の日本のポップカルチャーの一脈を理解するよい機会になったと思う。

漫画やアニメ、サブカルの世界にハマる人々に共通しているのは、「それが “coping mechanism for survival”(生きていくための対処メカニズム)になる場合が多いから」と言うラニング氏。「それがなければ社会との接点を失ったり、ひきこもりになったりするかもしれないけれど、好きなジャンルの仲間と過ごしたり、好きなものを “好き!” と表現することによって、外に向かって何かを発信したり、発言したりするきっかけを作るオタクカルチャーはいいことなのだ」。ふと、デコラ少女の内面に触れた短編ドキュメンタリー 『What Harajuku Girls Really Look Like | Style Out There』 を思い出した。トークが始まる前の打ち合わせの間、同氏は悲痛な表情で “Japanese have gone through so much loss recently.” と何度も繰り返していた。やはりこのギラギラとした飾りの裏側には、悲しみや傷が潜んでいると思わせられるのだろう。

Mr. 個展 『Live On』 の詳細はこちら

掲載:2015年3月 取材・文:田村麻紀

田村麻紀 プロフィール: 京都府出身。双子姉妹の妹として生まれ、1歳半の時に父親の仕事でインドネシアのジャカルタに移住し、約17年間を過ごす。テンプル大学のタイラー・スクール・オブ・アートで学び、ワシントン大学で美術学士号を取得。シアトルやダラス、ニューヨークなど、全米各地のギャラリーや美術館で作品を発表している。公式サイトはこちら

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