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明藤書道会 北米最大規模の書道教室に成長

明石 USA 書道教室

レドモンドのマイクロソフト本社近くで開講されている明藤書道会(明石 USA 書道教室)。1991年に設立され、今では北米最大規模の書道教室に成長したこの教室は教育部から一般部の二部があり、初心者から上級者まで約150人の生徒が師事している。

書道をキャリアに

経営者で講師でもある藤井良泰さんが書の世界に触れたのは、小学1年生の時。担任の先生から「字が汚い」と言われたのがきっかけで習字教室に通い始め、中学3年生で県知事賞を受賞したことで、自分がそれまで続けてきた書道の存在の大きさを再認識したそうだ。

書道の大学と言われる大東文化大学で「書」を組織的・体系的に習得し、本格的に書道人生を歩むことになる。この教室の講師も務める妻の直子さんとは、大学時代に知り合った書友でありライバルでもある。仲間とともに書について語り合い、夜通し書を書き続けたこともあったという二人は、日本の小学・高等学校での教員経験を持つ、書道教育の専門家でもある。

ワシントン州で書道教室を開講

藤井良泰さんは、大学時代に出会った書家、明石春浦先生の作風と書に対する情熱に惚れ込み、入門。「海外で書道を普及させたい」という夢を持った春浦先生に同行して、シアトルの桜祭りに1989年から2年間にわたり書道ブースを出展した。春浦先生はその翌年の1991年に私財を投げ打って明石 USA 書道教室を設立、藤井さんが駐在して教室の運営を任せられることになったが、「最初は本当に誰も来てくれなくて途方にくれました」と、師の夢で先駆け的に始められたこの試みはすんなりと今のような書道教室になったわけではないと藤井さんは語る。

それでも、桜祭りなどのコミュニティ・イベントに参加し続け、地道に書道の普及活動を行うことで徐々に生徒は増えていった。1995年に春浦先生は他界してしまうが、藤井さんはその意思を引き継いでアメリカにとどまることを決意し、教室の運営を続け、北米最大規模の書道教室に成長させたのである。

教育部の授業風景

今回取材した教育部は、幼年から高校生までを対象としたクラス。火曜と金曜に1時間半にわたり開講され、前半45分間は硬筆で、後半45分は毛筆の授業となっている。

硬筆の授業は、各生徒は課題となる文字を良泰先生から与えられ、自分の机で先生の手本を見ながら書き写し、出来上りを先生に添削してもらうという個別指導方式だ。良泰先生に見てもらう時は、「お願いします」「ありがとうございました」の挨拶もきちんとさせる。先生の机の前で列を作り並んで待つ間、他の生徒が添削される様子を見ている列でおしゃべりが始まり教室内がざわついてくると、「うるさいっ!」と先生の一喝が入り、教室は新しい緊張感に塗り替えられる。並んでいる間に気を抜こうものなら、「はい、そこ、『飛』 という漢字の書き順は?」と質問が飛んできたりもする。

直子先生も教室内を巡回しながら、子供一人一人の様子を観察し、姿勢が悪い子供、えんぴつの持ち方が間違っている子供を注意していく。書き順やノートの位置なども、しっかりチェック。「ここは丁寧に書けていますね」など、褒めることも忘れない。

硬筆が終了した子供から順に、自分で毛筆の準備にとりかかる。新聞紙と下敷きを敷き、こぼさないようにと慎重に硯に墨汁を注いで筆と半紙を並べたら、良泰先生から毛筆の課題をもらい、子供たちはそれぞれ自分の世界に入っていく。教室内は一種独特の緊張と、まるで筆を運ぶ音さえも聞こえてきそうなくらいの静寂に包まれ、先生の指導の声が遠くに響く。

筆を動かすことに集中している子供の目は、まさに真剣そのもの。手本を横に白い半紙を前にして、形や大きさ、空間のとりかた、線の太さや勢い、バランスを注意深く観察しながら、手の動きをコントロールして筆を操り、一画一画を確認しながら丁寧に仕上げていく。最初の一筆を書き始めるまで黙ってすわり続け、一気に書き上げる子供もいる。

「たいていの子供は、書き順、とめ、はらい、はねといった基本事項は一度説明されると頭に入るようです」。家庭で子供に漢字を教えようとする親にとっては信じがたい話であるが、確かに、先生からの短い説明で与えられた課題を子供たちが自席に戻って正しく書けるのは、やはり専門家による指導の賜物か。何枚か書いた中から選んだ一枚を先生のところに持って行き、添削の指導を受ける。

「ここは、もうちょっと間を開けて」「筆の入り方に気をつけて」「だんだん太くなるように」。納得できる字が書けるまで同じことを繰り返し練習するが、ついに先生から合格が出た時の子供たちの顔は充実感にあふれ、達成感に満ちている。最後に自分の名前を書いてその日の課題が仕上がる。残った墨をこぼさないように洗い場に持って行き、筆を洗って片づけが終わると、その日のクラスは終了だ。書道教室といえば、一般的に字を習い上達させる手段というイメージがあるが、それだけでなく礼儀作法、集中力や忍耐力が養われるというのも、なるほどうなづける。

書道教育と創作活動

小学生は、先生が選んだ課題に取り組み、中学生以上になると、古典などから、自分が書きたい字を選ばせどんどん挑戦させていくという。昨年は毎日展での入賞者も数多く輩出した。「書道は続けることによって上達します。最低1年間は取り組んで欲しい」と藤井さん。

現在は、ワシントン州東部のワラワラにあるウィットマン・カレッジで教鞭をとり、オレゴン州ポートランドとカリフォルニア州ロサンゼルスの支部で月に2回、そして藤井さんの出身地でもある佐賀で不定期にクラスを開講するなど、各地を飛び回る忙しい生活を送る。その傍ら、商標の製作、Shu Uemura ファッション・ショーでのボディ・ペイント実演、写真と書を融合させた新しい分野の作品の制作といった創作活動も展開中だ。

教えている時に、新しいアイデアが浮かんでくることもあるそうだが、「今日も書を書けてよかった」と、毎日感謝していると言う。

「とにかく、字を書くのが好きなんですよ」。

自らを「字書き屋」と称するのは、こういうところから来ているのか。

【公式サイト】meitokai.net

掲載: 2008年3月5日

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