サイトアイコン junglecity.com

「『日本はこんなに多様だよ』 と伝えたい」ドキュメンタリー映画 『HAFU(ハーフ)』 共同監督・西倉めぐみさん

HAFU 西倉めぐみさん

『HAFU』 共同監督の西倉めぐみさん(左)と高木ララさん

にしくら・めぐみ / 映像作家。1980年、東京生まれ。日本人の父、アイルランド系アメリカ人の母を持つ「ハーフ」。15歳まで東京をベースに父親の仕事の関係で日本と米国を行き来するが、高校からハワイに移住。ニューヨーク大学で映画製作を専攻し、卒業後はロサンゼルスで約2年間にわたり主にドキュメンタリーの編集者のアシスタントを務める。その後、国際基督教大学修士課程に進学。卒業後に日本で働いたことが、日本人と外国人のハーフ5人を追いかけたドキュメンタリー 『HAFU(ハーフ)』 の共同制作のきっかけとなった。今年からニューヨークに拠点を移し、映像関係の仕事を手がけている。

厚生労働省によると、日本で2006年に生まれた新生児110万4,862人のうち、「両親のどちらかが外国籍」の新生児は3万5,651人で、全体の3.2%、つまりほぼ30人に1人の子供の親のいずれかが外国籍。国際結婚が増加の一途であることから、今後も外国籍の親を持つ子供は日本で増えていくことが予想される。しかし、現状では「日本は単一民族」という考えが一般的ではないだろうか。さらに、「ハーフ」に対しては日本人と白人のハーフのタレントなどの活躍から特別な存在、そして日常的には「日本人ではない存在」という考えがある。そんな一般的なイメージを打ち破りたいという、『HAFU』 監督・西倉めぐみさんにお話を伺った。

自分のアイデンティティに対する疑問

日本人の父、アイルランド系アメリカ人の母を持つ「ハーフ」として日本で生まれ育った西倉さん。いったん米国で映像関係の仕事に就くが、大学院進学のため再び日本へ。卒業後に日本で就職したが、日本人として見られない日常が待っていた。自分は本当に日本人なのか。本当は何人なのか。

13歳から映画を作ることを考えていました。将来を想像した時、アメリカのハリウッドのことを考え、意識下のレベルでは日本に完全になじんでない自分は「将来的に日本に戻ることはない」と考えていました。でも、大人になった段階で「もう一度日本に住んでみたい」と思い、26歳から2年間にわたり国際基督教大学で学び、日本で就職しました。日本の社会で働くようになってから頻繁に名刺交換をする機会があり、メールや電話でコミュニケーションをとっていたクライアントや初対面の人が、私の顔を見てビックリするんです。そういうリアクションを毎週のように経験していた28歳の頃、自分のアイデンティティについて疑問を持つようになりました。

両親の影響で、私は自分を常に日本人とアメリカ人の両方だ、いわゆるハーフだと思って育ちましたが、日本では私は外国人にしか見られない。外国人扱いされたり、日本人とは認められない。その後、高校で引越したハワイにはいろんな人がいて完全になじんでしまい、自分のアイデンティティを考える必要がありませんでしたが、日本に戻ると、一般の日本人と違う扱いをされる。自分は本当に日本人なのか。本当は何人なのか。そんな疑問の答えを出すため、20代のハーフの集まりに参加しはじめたのです。

経歴のまったく異なる5人の「今」を通して見えてくる日本の多様化

新しい出会いから、長編映画製作の企画が生まれた。自分の居場所を見つけようとする、経歴のまったく異なる5人。予想外の展開もあった。

そんな集まりで、ロンドンで始まったハーフ・プロジェクトという、ハーフの写真家と研究者が2009年に立ち上げたプロジェクトに出会いました。これは写真とインタビューと調査研究のコラボを通して、日本ともう一つの文化背景を持つハーフの「今」を伝えようというものなのですが、その撮影会で出会ったスペインとのハーフの高木ララと一緒に「日本の一般人向けにこのテーマを扱った長編の映画を作ろう」という話になりました。

ハーフ・プロジェクト参加者の中から協力してくれたのは、ガーナ出身の母を持ち、ガーナと日本の交流事業を始めたデイビッド、ハーフのコミュニティを始めたベネズエラとのハーフのエド、高校生になるまで自分が韓国と日本のハーフであることを知らずに育った房江の3人。そして、Facebook での宣伝を通じて、オーストラリアとのハーフで日本にルーツを求めてやってきたソフィアと、名古屋に住む日本人の父親とメキシコ人の母親と子供2人の家族も見つけました。親の国際結婚による子供のケースも扱いたかったのですが、この家族の取材では小学校でのいじめも明らかになるという予想外の展開もありました。

世界各地での上映で反響

ロサンゼルスの日系アメリカ人博物館でハーフをテーマに開催された 『Hapa Japan』 でプレミア上映されたのが2013年4月。それ以来、アメリカ、ヨーロッパ、日本と、さまざまな国で上映され、大きな反響を得ている。

ニューヨークにはいろいろな人種のミックスがいます。なので、初対面でも90%はなじんでいますね。日本と比べると、「変」というリアクションをされることはめったにありませんし、私も日本の名前だからといって「英語を話せるの?」と聞かれることはありません。そういうこともあり、「アメリカでもこういう作品を作ってくれ」と言われても、必要性を感じないのです。

「日本は一般の人が思っている以上に多様だよ」

この作品を通じて日本の一般社会に伝えたいのは、「日本は一般の人が思っている以上に多様だよ」ということ。東京で2週間にわたって上映した時は、誰が観に来てくれるのか興味があって、上映後に毎回トークをしました。日本人もたくさん来てくれましたし、帰国子女、在日韓国人、中国人、アメリカ人など、一般の人とは違った経歴を持っている人が来てくれるのが嬉しく、私が想像していたより日本は多様だなと実感しました。二つの異なる文化の中で、自分の居場所を見つけようと一生懸命に生きる5人の姿が、たくさんの人を惹きつけているようです。

作品に登場する韓国と日本のハーフの房江は、15歳までハーフだと知りませんでした。彼女が差別されないよう、親が隠していたのがその理由です。実は彼女は差別を受けたことがなかったのですが、自分がハーフであることを知っても、差別を恐れるあまり、自分がハーフであることを言えませんでした。一般の日本人と見た目が変わらないアジア系のハーフは、まったく知らされていないか、知っても言わないで日本人として生きている人が多いのです。それが私にとっては悲しい。いろいろなものを持っていて、すべてが揃って自分なのに、その自分を完全に表現できないことは悲しい。でも、そういう人がもっと自分の勇気を出して、自分のルーツに自信と誇りを持ち、生きていける社会にする、そういう影響をこの作品が与えることができれば嬉しいです。

シアトルでの上映会に出席する方へのメッセージ

日本に住んでいる日本人に向けて製作しましたが、想像したよりいろんな方、日本以外に住む方に観てもらえていることが嬉しいです。日本国外に住んでいて、兄弟姉妹以外に、他に似た経験をしている人に今まで会ったことがないなどの理由から、「自分は一人だ」と思っているハーフはたくさんいると思います。でも、どんなところでもハーフはいます。上映会を開いて、同時に交流やディスカッションができれば、新たな出会いや機会を作ることができます。でも、そんな共感を分かち合って大人になっているハーフのロールモデルがあまりいないんですね。この映画を見た子供には、こういう大人がいるんだと思ってもらえるでしょう。シアトルでの上映がそんな機会になればと思います。

モバイルバージョンを終了