1957年に姉妹都市提携を結んで以来、ビジネスや教育、芸術などのさまざまな分野で活発な交流を行ってきたシアトルと神戸。去る7月には姉妹都市として60周年を迎えたことを記念し、ビジネスの場としての神戸を紹介するビジネス・セミナーが、シアトルで開催されました。
国際交流の玄関口である神戸港から持ち込まれた文化や産業を軸に発展し、1995年の阪神淡路大震災から多くを学んだ神戸は、日本全体が人口減の傾向にある中、神戸ならではの産業の多様化で経済基盤を強化し、若者にとって魅力的で、子供も高齢者も暮らしやすい社会を構築する必要性が問われています。そのため、新たに「神戸2020ビジョン」を掲げ、「若者に選ばれるまち+誰もが活躍するまち」を目標に、街や暮らしの質を高めていく取り組みが行われています。
その一つが、IT スタートアップのためのエコシステムの確立と、医療産業の発展です。去る7月27日にシアトルで行われた『神戸ビジネス・セミナー 2017』では、IT スタートアップにとっての神戸の魅力を伝え、300社以上が集積している神戸医療産業都市について、神戸市の玉田敏郎副市長、イーライリリー社バイオ医薬事業部法務顧問補佐のケビン・ヤマガ・カーンズ氏、500 Startups のガリア・モア氏が基調講演を行い、両市の関係者やシアトル在住の起業家・社会人・学生らが出席して熱心に聞き入りました。
インディアナポリスで1876年に創業したイーライリリー社は、世界に4万1千人の社員を抱え、120カ国に医薬品を提供しているグローバル製薬企業。純売上高212億ドルのうち24.7%を研究開発に投入し、これまで1923年の世界初インスリンの製剤化をはじ
め、数多くの世界初・日本初を生み出しています。日本イーライリリー株式会社の本社は神戸の中心地にあり、社員数3,400人(2016年12月31日現在)で、海外拠点としては最大。新しい本社ビルも同じく神戸市内に建設中で、移転は来春の予定です。
1909年に最初の製品を販売したのが日本だったという歴史があるイーライリリー社が海外最大の拠点を日本に置いている理由としてカーンズ氏が挙げたのは、社会保障制度が安定していること、価格プレミアムでイノベーションにリワードが提供されること、高齢化社会で対処されていない医療のニーズがあることなどによるビジネス環境が安定していること。また、労働者の教育レベルの高さ、ワールドクラスの医薬供給環境、官学連携での研究開発体制、そして神戸医療産業都市とのコラボレーションで臨床研究のインフラや新技術にアクセスできることも重要な鍵となっています。これらが揃った結果、グローバルな医薬品開発の促進が実現し、日本イーライリリー株式会社の売り上げは過去10年で3倍、2016年は前年比3.1%増の2432億ドルに達しました。
現在、神戸には29カ国・1地域にある141社が日本本社を神戸に構えています。神戸の特色として、新幹線や神戸空港へのアクセスの良さ、関西を代表する大学の存在、そして六甲山などの自然が身近で、より国際的な雰囲気感じられる都市であることは、業務を継続的に拡大し、生活も楽しむ上で、重要な鍵となっているようです。
シリコンバレーを拠点に世界50カ国1500社以上を支援する、世界で最もアクティブなシード投資ファンド「500 Startups」が、アジアでの展開の拠点に神戸を選んだのは、地域経済の持続的発展につなげるイノベーションを生み出すエコシステムの形成に向け神戸市がさまざまな取り組みを行っていることに魅力を感じたため。メンターの一人となった同社のガリア・モア氏によると、2016年に神戸市とパートナーシップを結んで実施した「500 KOBE」という神戸発スタートアップのためのアクセラレーションプログラムには200社以上が応募し、その中から選び抜かれた20社が参加しました。プログラム終了後、その半数が資金調達に成功しています。
ビジネスや教育、復興支援などにおいて、さまざまに協力しあってきたシアトルと神戸。2015年にはシアトル市のエド・マレー市長と神戸市の久元喜造市長が、IT 産業と航空宇宙産業におけるコラボレーションを促進する了解覚書を交わしました。それぞれ課題を抱えていますが、今後もお互いの状況から学びあい、ビジネスにおいてさらに発展していけるよう協力関係の強化が期待されます。
掲載:2017年8月