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「何気ない日常にある幸せを、ストップモーション・アニメで描きたい」 一桝茉莉(いちますまり)さん

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棚やベッドの下にきちんと物が収納された、こじんまりしたアパート。スレンダーなネズミがベッドに座ってのんびりタバコを吸い始める。ドアの向こうのキッチンでは、別のネズミが忙しそうに料理をしているが、そのうち、火にかけてあったやかんがピーと音を立て、湯が沸いたことを知らせてくる・・・。

人形や物をわずかに動かして撮影した映像を連続して動いているように編集し、1つのフィルムに作り上げる。20世紀のはじめに特殊効果の一つとして始まったとされるこのストップモーション・アニメーションと呼ばれる手法で作品を作ろうとしているのは、千葉県出身の一桝茉莉(いちますまり)さん。留学先のシアトルでストップモーション・アニメーションに出会い、その魅力にはまった。

一桝茉莉(いちますまり)さん

ワシントン州の高校に1年間にわたり留学した後、大阪芸術大学美術科に進学するが、2004年に Art Institute of Seattle でアニメーションを学ぼうと、再びシアトルへ。しかし、MTV で人形アニメを手がけた経験を持つ教師によるストップモーションとパペトリーのクラスでその芸術性に感動し、東京の目黒にある小さなアパートに住んでいた祖母と叔母をモデルにした作品がひらめいた。卒業後はいったん日本に戻るが、2009年に結婚を機にシアトルに移住し、『Sanpomichi』 と名づけたこの作品を完成させるため市内に拠点を置くビデオ制作会社とチームになって作りこんだ予告編を公開。今年8月に制作費をクラウドファンディングの Kickstarter で募るキックオフ・パーティーを開催したところ、103人のサポーターが出資し、作品の完成までの資金が集まった。プロジェクトや事業の資金を集める方法としてここ数年で一般化しているクラウドファンディングを利用したのは一桝さんら制作チームにとっては初めてのことだったが、予想を超える支援が寄せられ驚いたという。

その予告編を見ると、在学中から構想を練っていたというだけあって、棚のものや冷蔵庫の中など、細かいところまで作りこんであることに気づく。やかんがカタカタと動くところやネズミの尻尾がひらひらするところなど、いろいろな動きもきめ細かい。「家族と日常の暮らしがテーマなので、国籍や文化を超えて共通することや共感することが想像以上に多く、ほっこりします」と、一桝さん。「私以外は全員がアメリカ人というチームで “とても日本” な世界を作ることは挑戦であると同時に、新鮮な視点を盛り込めるので、面白いことになると思います。」 タバコを吸っているネズミのモデルとなったのは今は亡き祖母。生前に初期の予告編を見てもらえたことが良い思い出となっているという。

今後の予定は、来年の秋に作品を完成し、シアトルで一度上映してから、映画祭に出品できるようにすること。「近所を散歩するだけでインスピレーションがわくような、自然の豊かなシアトルがもともと大好き。でも、この 『Sanpomichi』 プロジェクトを発表したら、アーティストやアーティストを支えるコミュニティから連絡をもらうようになり、ますますシアトルが好きになった」と、一桝さん。来年の作品公開が楽しみだ。

>> Sanpomichi
>> Little Oze

掲載: 2013年11月12日

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