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【シアトル発】 『Mr. Holmes(邦題:Mr.ホームズ)』 真田広之さんインタビュー

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7月17日公開映画 『Mr. Holmes』 に出演している俳優、真田広之さんが、公開に先駆けて上映されたシアトル国際映画祭での舞台挨拶のためにシアトルを訪れました。現在アメリカ映画界&テレビ界で活躍する真田さんに、アメリカでの仕事への取り組みと映画 『Mr. Holmes』 について、お聞きしました。

Mr. Holmes

「皆に恨まれているだろうな」と思った

- 初めてハリウッド映画に出演されたのは2003年公開の 『ラストサムライ』 でしたが、その時の印象は?

スケールの大きさと、システムが確立されている所に日本との違いを感じました。撮影中は漠然と学ぶだけだったんですけど、撮影が終わってからも半年ぐらいロサンゼルスに残って、編集に立ち会ったんです。俳優ではなく、スタッフの一人として。その時、散々文句というか、間違いを正すために、細かいリクエストをしました。「皆に恨まれているんだろうな」と思っていたんですけど、僕の粘りに関して「自分たちが映画を志した時の情熱を思い出させてくれた」と、オスカー受賞歴のあるような方々から、涙ながらにお礼を言われたんです。

- それがきっかけで、その後もハリウッドに残ったのですか?

そうですね。日本にいて(ハリウッドに対して)批判的に考えていた部分もあったので、ある意味、目から鱗が落ちました。ハリウッド映画界の中には、コテコテの資本主義の人もいるけど、アンチ・ハリウッドという考えをもった職人気質の人もいるんです。いろいろな人がいて、でも通じることは通じるという現場は変わらないなと思いました。

ロサンゼルスに拠点を移しましたけれど、ハリウッドと距離を保ちながら、コマーシャルな作品もインディペンデントな内容のしっかりした作品もやっていこうと思っています。「虎穴に入らずんば」ではないけど、この世界に飛び込んで「世界を相手にするということは、どういうことか」を学んだら、新たな扉が開けるんじゃないかと思っています。

「こんなもんでいいじゃない」とは思えない

- 以来多くのアメリカ映画やテレビに出演して、誤解されている日本文化を修正する役割も担っていらっしゃるそうですが、これまで対面したなかでも「これはないでしょう」というレベルの誤解の例は?

多々あるんですけど(笑)。剣道のシーンで、一例をあげます。その頃にはセットをたてる前に美術さんが確認してくれていたんですが、床に線がひいてあったので「これは何ですか」と聞いたら、「畳マットです」と。「いや、それは柔道でしょう(笑)」。剣道は床ばりで、もう何材とか言っていたらキリがないから、とにかく色を塗ってつやを出してダークにしてくれとお願いしました。

でも、できれば、やりたくないんです。本当は役者に集中したいんです。ただ、異文化理解に対して「こんなもんでいいじゃない」という思いがあるわけです。それを、僕が戦うことで、水際でできる範囲で食い止めて、異文化を扱う時は厳しい目が必要なんだと解ってくれるスタッフが、一作ごとに一人ずつでも増えていけばいいなというのが希望なんです。

- 今回の出演映画 『Mr. Holmes』 でも修正した所はありましたか?

ありましたね。日本のシーンが出てくるのですが、撮影はすべてロンドンだったので、小道具の使い方や着物の着付けの違いを、衣装さんに教えました。大勢のエキストラの方も東洋人に見えれば誰でも呼ばれるのですが、あの時代の日本人の所作などはお辞儀一つにしても違いが出ます。

- 主要な役を演じながら、背後のエキストラの人たちの所作もチェックされると?

そうですね。あまり出しゃばりたくないなと思いながらも。でも、日本で公開される分は笑われてすむけど、「これが日本なんだ」と世界に伝わっちゃったら困るので。

実は、この役をお受けする前に電話で監督と話をして、「直したいところは直しますよ」いう申し出にOKしてもらっているのです。

「大丈夫、ちゃんと緊張してる」をシステム化

- ストイックな姿勢で仕事に取り組み、新たな挑戦もされていますが、壁にぶち当たって落ち込んだりすることはありますか?

しょっちゅうですね。毎作大きいのから小さいのから、しょっちゅう落ち込んでますよ。

- では、一番大変だったことは?

それはたぶん、シェイクスピアを英語でやった時の稽古中ですね。言葉も演技の質も含めて、周りの役者のレベルや演出家が求めているレベルに自分が全然到達していないということをヒシヒシ感じました。その思いを重ねて重ねて、なんとか突破口をたぐり寄せたんですけど。

あと、ぽんと立ち直れたきっかけもありました。イギリスの舞台に初めて生で立つ時に、皆に "Have fun" "Have fun" と言われたんですけど、「どうやって楽しめばいいんだ」と僕は思っていて。でも、結局「楽しまないと実力すら出せない」「萎縮して失敗するぐらいなら、失敗してもいいから楽しもう」と、開き直りに近い感じで舞台に立ったんです。その時に楽しめたんです。楽しむことによって、ノーミスで初回をクリアしてスタンディング・オベーションをいただきました。

今は、その時の感覚が自分の中でシステム化できました。本番前のメイク中に「大丈夫、ちゃんと緊張してる」と確認し、その緊張をエネルギーに転換するんです。緊張感がないと実力が出てもそれがかけ算になっていかないので、プレッシャーからアドレナリンを作って、それで本番に向かいます。

- 今後のプランについて教えてください。

今まで通り続けていくだけです。どこかで方向転換をするのではなくて、今までの積み重ねを生かしてやっていきます。国境はなく、地球上で必要なところにはいつでも飛んで行くぞというフットワークの軽さは残しておきたいです。どこかに根っこを生やしたいとはまだ思っていません。

真田広之
日本で演技派かつアクション俳優として大スターとしての地位を確立し、2003年 『ラストサムライ』 出演を機に活動の拠点を LA に移す。それに先立ち、1999年から2000年にかけてイギリスのロイヤル・シェークスピア・カンパニー公演 『リア王』 に、唯一の日本人キャストとして全編英語台詞で出演した。2002年 『たそがれ清兵衛』、2013年 『X-MEN: The Wolverine』 など数多くの作品に出演。現在は、スティーブン・スピルバーグ監督の CBS ドラマ 『Extant』 に出演中。

『Mr. Holmes』
ビル・コンドン監督。93歳になったシャーロック・ホームズ(イアン・マッケラン)が、養蜂を営み少年との交流を深める現在の暮らし、敗戦後まもない日本を訪れたこと、若き日に未解決に終わった事件、という三つの時間と記憶を交差しながら人生を振り返る。真田広之は、ホームズを日本に招待し案内する男性ウメザキを演じる。原作はミッチ・カリンの小説 『ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件』。

インタビュー:2015年5月 取材・文:渡辺菜穂子

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