「世界のソフトウェア開発の本場で働いてみたい」
そんな夢を実現した後、アメリカ人であってもサバイバル能力が問われるIT業界で、レイオフも含めさまざまな想定外の変化を攻略しながらキャリアアップしてきた、マイクロソフト社シニア・ソフトウェア・エンジニアの竜盛博さん。今回ご紹介する本書では、そんな竜さんのリアルな経験とノウハウが、同じ夢を持つ人のために惜しみなく公開されている。
「テレビ番組 『アメリカ横断ウルトラクイズ』 や 『Sesame Street』、ピンボールなどでアメリカに憧れていた」という竜さんは、東北大学大学院を卒業後、日本ヒューレット・パッカード社に入社し、2年後に駐在員としてアメリカに赴任。すでにアメリカで働いていた高校の先輩に誘われ、「絶対受からないだろうけど、記念になるかな」と受けたアメリカ企業での面接でいきなりオファーをもらうも、「アメリカで働く自分」を具体的にイメージできず、断って日本に帰国する。しかし、日本の経済状態が下降線を描き始めたため、「ここで行かなければ絶対に後悔する」と、思い切って米国法人への社内移籍を希望し、再渡米したのが12年前。以降、レイオフ経験も経て、スタートアップ企業から世界的なグローバル企業までを渡り歩き、現在は5社目のマイクロソフト社でシニア・ソフトウェア・エンジニアとして働いている。
幼い頃から自分や周囲の人や状況を俯瞰するような視点を持ち、米国 IT 業界で百人以上の面接もこなしてきた竜さんは、「アメリカはエンジニアのパラダイス」と礼賛することはない。”アメリカに来ようか迷っていた時の自分にとって、「こんな本があってよかった」と感じられる本にしたかった” から、第1章で「あなたはアメリカに合っているのか」と、アメリカで働くことのメリットとデメリットを紹介しながら考えさせる。第5章の「アメリカで働くと何が違うのか」を続けて読むと、日米の現実の大きな違いがはっきり見えてくる。「これ、ほんと?」と思うことなく安心して読み進められるのは、真摯で丁寧という竜さんの一貫した姿勢のおかげ。ニュースで報じられるアメリカの雇用状況や経済状況、アメリカで働くことを華々しく伝える記事、アメリカの方が日本よりも優れているという上から目線のような記事などを読むより、現実として、自分ごととして、具体的にイメージしやすい。
外国人という立場で生活したことがない場合、そのデメリットを実感するのは難しい。だが、第1章や第5章を読んで「やっぱり自分はアメリカに向いているかも」「アメリカで働いてみたい」と思うなら、第2章「どうやったら渡米できるか」を熟読しよう。特に、働けるビザの取得は、あらゆる仕事に共通する最初の関門だ。第3章「アメリカ企業に転職・就職する」も、レジュメの書き方、面接の受け方など、どんな職業にも共通することが多いので、エンジニアでなくともしっかり理解しておきたい。
竜さんに、これからのご自分のキャリアについて聞いてみた。
「会社名や肩書を変えることよりも、日常での思考パターン、行動パターンを変えることの方がずっと難しい。それを変え続けてきたことが今までの積み重ねになっていると思います。継続的に小さな変化を起こし続けることが、昔から変わらぬ自分のミッション。書籍を出版したことも、小さな変化の一つに過ぎません。大小の目標は複数持ちつつ、それにこだわらずに、より良いものがないか、常に目を開いておきたいですね」。
働くことは、生きること、暮らすこと。改めて、自分に合う場所、自分がするべき仕事、社会のために自分が貢献できることについて考えさせられた。これからアメリカで働き始める人や、アメリカで働き始めたばかりの人はもちろん、アメリカで働いている人が身近にいるという人も、ちょっと気になるだけという人も、手にとってみることを強くおすすめする。
『エンジニアとして世界の最前線で働く選択肢』
竜 盛博(りゅう・もりひろ)
アメリカから購入:出版社の書籍ページから電子書籍を購入できます。(PDF と ePub 形式の両方、PC や Kindle などで閲覧可)
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シアトル紀伊国屋で開催された、竜さんのミニ講演の模様
掲載:2016年1月