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『カイカイキキ』 メンバーの Mr.、シアトル・アジア美術館で米国初個展

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Give Me Your Wings

『Give Me Your Wings』

村上隆の 『カイカイキキ』 のメンバー・アーティストで、長嶋茂雄氏の愛称 『ミスター・ジャイアンツ』 から自身のアーティスト名を付けた Mr. の米国における初の個展が、11月22日(土)からシアトル・アジア美術館で一般公開される。

それに先駆けて行われたプレス・プレビューでは、ミスター自身が作品の裏側にある思い、アーティストとして表現することを迫られた日本の現状について語った。展示会の中心となるのは、ごみや日常品を集めて制作した 『Give Me Your Wings – think different -』。かつては誰かの持ち物だった雑誌や漫画、日用品などが天井にまで届くほどに組み合わされたこの作品を見るにはその中に入っていくことになるが、足を踏み入れた瞬間、一つ一つの “ゴミ” が元の所有主の思考を解き放ち、いろいろな人の意識が同時に何かを訴えてくるよう。それは、シアトルの日常生活では感じないような圧迫感で、息苦しくなるほどだ。

「イタリアのアルテ・ポーヴェラに影響を受け、20代の頃からごみを使った作品を作り続けています。イタリアも日本も敗戦国で、アルテ・ポーヴェラは貧乏なところから生まれたアート。日本は高度成長期で立ち直ってきましたが、地震や津波で疲れてきている気がします。そういったものを表現することを、自分の中で迫られました」。

Live On

『Stationed at the Convenience Store』(2013)

そんな作品を通り抜けた先のギャラリーでは、一転して、明るい色がはじける大型作品が出迎えてくれる。東日本の復興を支援するためニューヨークで行われたオークション 『New Day – Artists for Japan』 に村上隆とともに参加が決定した時は、傷ついた自分たちを表現する作品を描こうか考えたそうだが、「震災以降は意識して明るい作品しか描いていない」。キャンバスのいたるところに日本で流行しているものや日常生活に欠かせないものが描かれ、「何が流行っているのかをいつも追っている」という Mr. の感性が楽しませてくれる。が、一見、明るい笑顔の小学生の背負ったランドセルに当然のようにつけられている防犯ブザーは、日本社会のもう一つの「今」だ。それより以前に描いた作品では風景が多く、日本人や日本を訪れた人には懐かしさを覚えるかもしれない。狭い国土、そしてそのまた一部でしかない居住可能な土地に、どこまでも続く町並み。その中の少女たちは、屈託のない笑顔を見せている。

Live On
Live On

『Nobody Dies』

そこからまた一転し、奥のギャラリーから聞こえてくるのは、銃の乱射音と少女たちの叫び声。サバイバル・ゲームを展開する少女たちを描いた『Nobody Dies』 の一環として制作された映画だ。少女たちは銃を構え、叫びながらお互いを撃ち続け、ゲームが終われば、屋台で打ち上げをする。当初は絵を描くことだけを考えていたのが、ひょんなことから実写ながらアニメの要素を持つ33分の映画に発展したもので、キャラクターのデザインもコスチュームの制作もすべて Mr. が手がけ、そのスケッチも公開されている。自身も1969年生まれで戦争を知らない世代の Mr. は、アーティストが非現実的なことを描く手法はサバイバル・ゲームで、それが「リアル」になってしまうと言い、『Nobody Dies』 という皮肉なタイトルをつけた。「日本は憲法第九条ができてから戦争をしたことがないため、戦争そのものが非現実的になっている」「自分の国は自分で守らなくてはと、憧れまで持っている」。

シアトル在住のアーティストで、被災地を訪れ、核の問題や震災にインスパイアされた作品を発表している市川江津子さんは、ミスターの個展について、「一言では難しいですが、現在の日本をある意味で象徴しているというか、凝縮している作品展という印象を受けました」と語る。「東北での震災の被害の爪痕、その隣りで愛らしいアニメのキャラクターが微笑みかける。現実と逃避、あきらめと夢、意識と無意識が同居しているような感想が漠然と残りました。個人的には『Nobody Dies』 のためのスケッチ(絵コンテ)が、作家の息づかいが感じられて一番好きでした」。

「ゆがみにゆがみ、ねじれにねじれた社会」という Mr. の言葉を通して見ると、楽しくてたまらなさそうな女の子たちであふれる作品も、まったく違って見えてくる。毎週土日に開催されているミュージアム・ツアーに参加して、いろいろな意見を聞いてみるのも面白いかもしれない。

Mr. 個展 『Live On』 の詳細はこちら

Mr. ブログ: ameblo.jp/misterdesu/
Mr. Twitter: @misterdesu

掲載:2014年11月

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