実業家・古川享氏と歌舞伎役者・二代目中村亀鶴氏によるコラボ公演が、8月15日、Seattle IT Japanese Professionals(SIJP)の主催により、ベルビュー・チルドレンズ・アカデミーで開催された。出席者・関係者合わせて200人近くが会場に集まり、学業、IT、ビジネス、芸術など幅広い分野でチャレンジしている人々が交流を図るきっかけの場となった。
この日の皮切りは、古川氏による講演。日本法人マイクロソフトの初代代表取締役など、多様な経歴における体験談を織り交ぜながら、「学歴や業界などの壁をとっぱらって人生に挑むことの意味」を語ってくれた。さらに、日本のIT業界を先導してきた同氏が今注目している新技術を紹介。慶應義塾大学大学院教授も務め、若者の支援活動を積極的に行っているという同氏ならではの、情報量の豊富な内容となった。
続いて、歌舞伎役者・二代目中村亀鶴氏による講演と歌舞伎実演が行われた。感情を誇張表現する歌舞伎は「マンガのようなものだ」とその大衆性を説明し、重厚な歌舞伎界のイメージからは想像しがたい気さくな語り口で聴衆を沸かせた。そして、平家物語の那須与一を語る場面の舞を披露。和気藹々とした会場を一瞬にして引き締め、空気の色をも変えてしまうような別世界を作り上げた。
最後に、古川氏、中村亀鶴氏、2人のパイプ役となった実業家・三浦亜美氏と、本公演を企画した企業コンサルタントの尾中泰氏が壇上に上がり、パネルディスカッションが行われた。「やりたいことはあるけどお金がない場合は」「歌舞伎を文化背景の違う外国人に伝えるには」といった会場からの質問に対して興味深い応答が続いたが、名残惜しさを感じる中で時間切れとなり終了。IT を道具としてビジネス展開させる古川氏、「人を大事にすることで文化継承ができる」という亀鶴氏と三浦氏の意見を受けて、尾中氏が「 IT 機器は便利だけど、道具に過ぎない。この道具だけでは共有できないことが、今私たちがこの場にいるという現実。それが縁であり文化です」と、本公演の主旨をまとめる形で締めくくった。
2015年8月 取材・文 渡辺菜穂子