去る10月13日、シアトルの武道館柔道道場の創立50周年を記念する催しが、ワシントン州日本文化会館で行われました。
武道館柔道道場は、初代会長を務めた二宮之彌(にのみや・ゆきや)さん、フランク・コブキさん、ジョージ・ベップさん、今も現役で指導にあたるアルビン・寺田さんら10人の柔道有段者が1968年2月に開館した、シアトルにおける柔道の拠点のひとつ。生徒数は当初の約30人からすぐに倍増し、初段から6段の講師約20人を抱えるようになりました。1987年からは現在の拠点であるワシントン州日本文化会館で開講し、オリンピックの米国代表選手や国際柔道連盟審判員を輩出。現在も約65人の生徒が柔道を学び、市大会から国際大会に出場しています。現経営者で柔道家のカルビン・寺田さんにお話を伺いました。
柔道家の父アルビンさんと、著名な柔道家の福田敬子さんに師事し、女子柔道を指導するため東京から渡米した柔道家の母みつ子さんの間に生まれたカルビンさん。柔道を教える大人たちに囲まれて育った幼少時代から柔道を習い始めました。「両親には柔道を教えている友人がたくさんいました。でも、親戚のおじさんやおばさんのように思っていたその人たちが、実は米国や日本の柔道界で著名な方々だと知ったのは、大人になり、米国で上級者の柔道大会で審判を務めるようになってからでした」。
アメリカ人では最年少で国際柔道連盟A級審判員(※)となり、国際大会でも活躍しているカルビンさんに、そんな幼少時代と柔道が自分の人生に与えた影響について聞いてみると、「講道館柔道の創始者である嘉納治五郎先生が、日本の教育システムにおける体育の一環としてのスポーツを創るため、さまざまな流派の柔術を融合させ、講道館柔道を開発しました。嘉納先生はスポーツを創られただけでなく、その核となる教えを成す部分に武道の哲学を組み込まれたため、柔道は私にとって身体だけでなく、精神面もスピリチュアルな面も鍛える方法となっています」という答えが返ってきました。「嘉納先生が推進されたことで私が共鳴することの一つに、「自他共栄」(Mutual Benefit and Welfare)という言葉があります。これは、「私たちは皆、人間同士の共生と相互依存関係を理解して感謝するよう努力すべき」ということ。柔道を通じての友情は一生のものであり、世界のどこにいても、スポーツとしての柔道にはコミットメント、献身、平和、そして忍耐という世界共通の意味があります」。
50年という歴史の中で何百人もの生徒を指導し、サンドラ・バッチャー、マイケル・バーンズなどオリンピックの米国代表選手や、オリンピックトライアル資格を得たトレイシー・ナガイなど、才能あふれる選手を輩出してきた武道館柔道道場。創設メンバーの中で唯一の存命者となったアルビンさんが、妻のみつ子さんとともに今も変わらずボランティアで生徒たちの指導を続けていることに、シアトルのコミュニティに柔道のすばらしさを伝え続けたいという思いを感じます。今後の展望についてカルビンさんは、「新しいロゴやシャツ、オリジナルの刺繍をした柔道着、ウェブサイトの改定といった新しいブランディングを行うというミッションがある」と語ってくれました。「新しいクラスも開設するかもしれません。これからも、コミュニティに柔道を紹介していくために、新しいことをやっていくつもりです」。
※2018年10月現在、ワシントン州在住の国際柔道連盟A級審判員は、カルビン・寺田さんとバーバラ・ヒューストン=シミズさんの2人。
武道館柔道道場
www.budokanjudoseattle.org
掲載:2018年10月 写真:武道館柔道道場