「もう一度7歳の目で世界を・・・」をテーマに、起業家精神や里山文化・最新技術を学び、創造する場となることを目指して2015年に始動した 『熱中小学校』。今では日本全国に広がるこの大人の学び舎のシアトル校が、2月23日(土)に開校しました。
午前の部の第1回授業で1時間目を担当したのは、NHK大河ドラマ 『いだてん』ディレクターの倉崎憲さん。「人の感情が動く瞬間~番組の製作現場を通じて~」と題されたトークは、「自分には才能がない」とコンプレックスがあり、ずっと「何者かになりたい」という思いを抱えて模索してきたところから始まりました。
有志から資金を集めて旅したラオスで、教育を受けることが難しい農村を目の当たりにした倉崎さんは、「自分にも何かできるかもしれない」と、小学校を建設するプロジェクトを始動し、2008年3月に1年がかりで小学校を完成させました。同じ頃にカンボジアで小学校を建設した人がその経験をつづって出版した著書『僕たちは世界を変えることができない。』が映画化される現場を見たことがきっかけでドラマ制作に興味を抱きましたが、NHK 入局が決まってから大学を3カ月間休学して世界一周し、大学を5年かけて卒業。レールに沿った生き方を求められる厳しい家庭で育ちながらも、「この時は "どうしても行きたい" と、ふと漏らした一言に両親が "行ってきなさい" と背中を押してくれた。子供がどうしてもやりたいと言うことは応援するのがいいのかもしれない」と振り返りました。
そして、この時の旅の途中、インドで同年代の若者がガンジス川で火葬される様子を目撃したことで、「自分の人生も本当に一度だけ。監督として映像を撮りたい」という思いを強くし、大学卒業間際にニューヨーク・フィルム・アカデミーで2カ月間の短期留学を実行。英語でコミュニケーションが取れなかったことで心が折れるような体験をしながらも、今もハリウッドで活躍する女性プロデューサー、キャロライン・バロンさんとの偶然の出会いから、さまざまな人種のスタッフやキャストがいる撮影現場を見学することができ、「将来は自分もそんな現場で世界中の人に感動してもらえるような作品を撮りたい」という燃えるような思いを持って NHK に入局しました。
それからさまざまな番組にたずさわって経験を積み、今回の NHK 大河ドラマ 『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』 のディレクターに抜擢され、海外ロケも経験。他国のクルーと共同制作をするプロジェクトも増えていことから、倉崎さんの "国際的な撮影現場で制作する" という夢にまた一歩近づいているようでした。
講演後に参加者から出された「NHK とは違うところで活動する計画はあるのか」という質問に対しては、倉崎さんは、自分が思い描く番組を制作できる資金力を持ち、人材が揃っている組織として捉えているそうで、それを活用してさまざまな番組の制作に携わり、キャリアを伸ばして夢を実現したいといった素直な気持を述べていました。
2時間目は、Costco 本社で国際バイヤーを務めたハントゥーン寛子さんによる、「大型会員制店舗の構造について ― 成功の秘密を探る」。「Costco の会員ではない方、いらっしゃいますか」という寛子さんの質問に、会場で手を挙げたのはわずか一人。それほど日常生活に密着している Costco が、いかに対象を絞り、取り扱い商品を厳選して徹底的にコストを削減することで、会員制ではない大型店舗や消費者全般を対象にしたオンラインショップとは一線を画するビジネスを作り上げ成功しているかについての話は、それぞれの買い物の体験から納得がいくものでした。
日本人では初めての国際バイヤーとして日本企業の製品を後押しすることもあったものの、「においや骨があるとのことで、鯖の味噌煮の缶詰は試食販売できず、販売を断念した」などのエピソードも。また、独自に製造している 『Kirkland Signature』 の韓国海苔は養殖に使う水にいたるまで徹底的に検査しているそうで、国も企業も食品検査は非常に厳格に行っているといった現場にいた人ならではの体験談は興味深いものでした。現在 Costco は日本やフランスなどの外国でも店舗を展開していますが、生鮮食品は60-65%をローカルの商品にし、それぞれの地域にある特産品であればあえて外国から持ち込まず地元の商品を厳選して揃えるのが地元のビジネスの振興と販売のコスト削減にもつながり、消費者にとっては他の店舗に行く楽しみにもつながっています。
午後の部の1時間目は同じくNHK大河ドラマ 『いだてん』ディレクターの倉崎憲さん、2時間目は村上春樹作品の翻訳で知られる翻訳家でハーバード大学名誉教授のジェイ・ルービンさん、漫画の翻訳で知られる翻訳家・作家のザック・デイヴィソンさんが「文学VSマンガ 翻訳者対決」と題して語り合いました。
3月は、株式会社 EC コンサルカンパニー代表の江藤政親さん、太鼓演奏者で太鼓の学校、ジャパンクリエイティブアーツ主催者の立石あさこ・鈴太郎さん、在シアトル日本国総領事・山田洋一郎さんが講師を務めます。詳細・お申し込みは公式サイトで。
シアトル熱中小学校
www.necchu-seattle.org
掲載:2019年2月