北海道アイヌ協会が米国博物館協会にネイティブ・アメリカンとの交流プロジェクトを求める書簡を送ったことがきっかけとなり、アイヌとネイティブ・アメリカンの史上初の交流が実現したのは昨年12月。交流プロジェクトのパートナーとして選ばれたバーク自然史文化博物館の協力のもと、アイヌ10名がワシントン州を訪れ、マカー族・スクウォミッシュ族・ドゥワミッシュ族・チュラリップ族・スクァシン・アイランド族などのネイティブ・アメリカンと交流した。続いて今年3月には、6名のネイティブ・アメリカンが1週間にわたり北海道を訪問し、札幌・白老・二風谷などの土地を視察。4月中旬からは、北海道から川上将史(かわかみ・まさし)さんと菊地旭(きくち・あきら)さんの二人が、今月下旬までの約3ヶ月半にわたりワシントン州でのインターンシップ・プログラムに参加している。
午前中は英語のクラスに通い、午後は博物館の運営についての勉強やアイヌについてのプレゼンテーション、ネイティブ・アメリカンとの交流をするなど多忙な日々を送っている川上さんと菊池さん。「最初はネイティブ・アメリカンにどう話しかけていいかもわかりませんでしたが、だんだんコミュニケーションが取れるようになってきました」と語るのは菊地さん。川上さんも、ネイティブ・アメリカンとの交流を通じて、鮭を大切にしている点や儀式の様式が似ている点など共通点をいくつか発見したという。「反対に、部族と認める基準が異なる点も興味深かったです。たとえばアイヌでは、『家族の中にアイヌの血を引く者がいること』『除籍謄本をたどった結果、先祖の名前がアイヌ語で記されていること』『直接アイヌの血を引いていなくてもアイヌに育てられたなどの経験があり、アイヌとしてのアイデンティティを持っていること』 のうち、どれか一つでも条件を満たせば北海道アイヌ教会にアイヌとして認定されます。しかし、ネイティブ・アメリカンの中には、クォーター以下は認めないなど基準の厳しいところもありました」。アイヌの中には、民族の血を引いていても自分がアイヌであることを認めたくない人もいるそうだが、成長するに従って民族の文化に興味を持つ人もいる。川上さんは、「私自身、アイヌであることに引け目を感じていた時期もありましたが、アイヌ文化振興のイベントなどに関わるようになってから楽しくなりました」と語る。
2人は今月開催されるカヌー行事 『Tribal Canoe Journey』 にも参加するため、チュラリップ族とカヌーの共同練習にも励んでいる。この行事は毎年7月に開催され、今年で21年目。毎年異なる部族が主催者となり、100艇以上のカヌーがその部族の居住地に向かう。ニュージーランドのマオリ族やハワイの先住民も初年度からこの行事に参加しているが、アイヌが参加するのは今年が初めて。 川上さんと菊地さんのほか、男女5名が北海道から参加する予定だ。川上さんはこれまでにもカヌーを漕いだ経験があるそうだが、菊地さんは今回が初挑戦。「1つのカヌーに8人から11人まで乗るので、息を合わせるのが難しいところです。息が乱れるとパドルが当たってバランスが崩れてしまうので」と語ってくれた。
今回の交流活動を通し、「北海道にアイヌがいることをもっと知ってもらいたい」「他の部族についても勉強していきたい」とそれぞれ今後の抱負を語る2人。今月27日には、ネイティブ・アメリカンが北海道を訪問した際に撮影した映像を2人がまとめた映像作品などの展示がバーク自然史文化博物館で始まる。
北海道アイヌ協会 公式サイト
バーク自然史文化博物館 公式サイト
掲載: 2010年7月19日