1999年に、アメリカ消費者安全委員会(the Consumer Product Safety Commission)は「添い寝は赤ちゃんにとって危険である」という警告をしました。それに対して、母乳推進団体や各種の子育て関係の団体が反論をし、今も活発に論議が行われています。
日本では昔から子供と両親が川の字になって寝るのが普通で、赤ちゃんがお母さんと一緒に寝ているからと言って目くじらをたてられることはまずありませんが、アメリカでは子供はクリブにひとりで寝るのが一般的です。一緒に寝ていると言うと、この警告が出る前でも「そんなに甘やかして」「子供の健康に良くない」などという反応が返ってくるのが普通でした。アタッチメント・ペアレンティングや、マザリングといった、親子の絆を大切にする考え方の子育て団体は、親と一緒のベッドで寝ることを推奨してきましたが、アメリカの中では主流ではありません。これには、「独立心を育てる」「夫婦関係の方が親子関係より大切である」といった信条を持つ、アメリカの文化的な背景が大きく影響しています。
なぜ、アメリカ消費者安全委員会が添い寝は危険であるという警告を出したのでしょうか?この委員会はアメリカ政府の一機関で、消費者の使う商品の安全性などを管理しています。欠陥があったために事故のもとになった商品はリコールの対象とし、事故が起こらないよう、守らなければならない安全基準を設けたりします。この団体の調べで、年間60人以上の赤ちゃんが大人のベッドで寝ていて亡くなっているということがわかったため、「一緒に寝ないように」という警告が出されたのですが、さらに深く事故の詳細を調べてみると、「添い寝がいけない」という結論を出すのは少しおかしいのではないかという意見も出るようになりました。
まず、事故の起こった原因について見てみると、柵に寝巻きがひっかかったり、マットレスと枠の間にはさまったりしたことが原因の窒息死など、大人のベッドの構造に問題がある場合があります。これは、問題のもとになるような構造を避ければ済むことで、「親と寝ること」そのものがいけないというわけではありません。赤ちゃんがはまったり、落っこちたりする隙間が無いようにすること、窒息するような分厚い布団を避けること、寝巻きやよだれかけの紐などがひっかかるような突起物を取り除くことが必要なのです。 次に、一緒に寝ていた人が上に乗っかって窒息させた、という場合があります。しかし、よく調べてみると、確実な証拠がない場合が多いのです。朝起きてみたら赤ちゃんが死んでいた、と言う場合、クリブにいた赤ちゃんは、 “乳児突然死” (SIDS)だったのだろう、とされる場合が多いのですが、親のベッドに一緒に寝ていた場合は、証拠の有無にかかわらず、「親が気がつかないうちに上にかぶさっていたに違いない」とされてしまう場合が多いのです。さらに、アメリカ消費者安全委員会の統計を詳しく見ると、「親による圧死」という診断名はいくつかの町に集中して起きていたことがわかりました。こういった町では、検死にあたった医師が、「親と寝ることは危険だ」という考えを持っていたため、その偏見が診断に影響していたのではないかという意見があります。
ただし、寝不足が続いていたり、アルコールや睡眠薬を飲んでいたりすると、赤ちゃんにかぶさっても気づかずに深く眠ったままであることがわかっています。また、普通のベッドと比べくらべ、ソファは余裕や逃げ場のない構造になっているので、赤ちゃんが落ちたり、つぶされたりする事故が起きる確率が非常に高くなります。また、タバコを吸う人が添い寝をすることによって、突然死が増えることもわかっています。 乳児突然死は、原因がよくわかっていませんが、いくつかの学説の中に、次のようなものがあります。赤ちゃんは脳と呼吸器の機能が未熟なため、6~7ヶ月ごろまで時々呼吸が止まりますが、親と一緒に寝ていると、親の呼吸や心臓の動きが刺激になって、また呼吸を始めます。しかし、眠りが深いと、そのまま呼吸が止まったままになる可能性があります。この説によると、うつぶせ寝の方が眠りが深くなるので、突然死が多くなります。また、新生児の眠りはとても浅いのですが、4~6ヶ月ぐらいになると深く眠れるようになります。この時期に親と別の部屋のクリブで1人で寝ていると、外からの刺激がないので深く眠ってしまい、突然死が多くなります。さらに、胎盤を通して母親からもらった免疫抗体がなくなるのもこの頃で、突然死という診断のついた赤ちゃんの中には感染症によって亡くなった赤ちゃんも含まれているのではないかと言われています。
アメリカ消費者安全委員会の警告が、かえって乳児の死亡率を増やす結果になるのではないかという説もあります。もし、添い寝を避けることによって母乳を継続する率が減れば、それだけ乳児死亡率が増える可能性があります。人工乳の赤ちゃんが乳児突然死症候群で亡くなる確率は母乳の赤ちゃんの5倍です。年間60人の事故を防ぐために母乳の継続が悪影響を受けたら、毎年何千人もの死亡者を出す突然死症候群が増える可能性が高くなり、かえって逆効果になるのではと思われます。 さらに、研究の結果判明したことを元にして、添い寝をする際の注意事項をいくつかまとめてみると、次のようになります。
- 大人のベッドで一緒に寝るときは、赤ちゃんが挟まったり、服がひっかかったりするような構造になっていないかどうか、確認する。 指が2本以上入る隙間があると危ない。
- ウォーターベッドは危険。
- ソファで一緒に寝てはいけない。
- タバコを吸う人と一緒に寝てはいけない。
- うつ伏せ寝は避け、仰向けに寝かせること。眠りが深くなる4~6ヶ月ごろは特に気をつけること。
- お父さんとお母さんの間より、お母さんの横の方が安全。
- 上の子と一緒に寝かせるのは危険。
- 厚い掛け布団は危険。柔らかい枕なども顔のそばに置かない。
- 頭まで布団をかぶせてしまうと突然死が多くなる。
- 転落防止の柵も、気をつけないと赤ちゃんが柵とマットレスの間に挟まってしまう危険がある。
- お酒や薬を飲んでいる時は、一緒に寝てはいけない。
- 暖めすぎるのは危険。一緒に寝ているだけで暖かいので、厚着はさせない。
情報提供: 『プロに聞こう:女性の健康』 押尾祥子先生