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スピーチ・セラピー 第15回「感覚経験からつながる言語理解」

「言語の発達にはさまざまな体験をすることが大切」と聞いたことがある方も多いかと思いますが、なぜ、”体験” が必要なのでしょうか。今回は、そのヒントとなる公共ラジオ局 NPR でのインタビューをご紹介したいと思います。

このインタビューの中で、認知科学者の Benjamin Bergen, PhD は、「かつて、人が言葉を理解する過程は、脳の特定の部位(言語野)で行われていると考えられてきたが、fMRI の技術により、そこには脳全体が関与していることがわかった」と語っています。「あひる」という言葉を聞くと、あひるの鳴き声や羽などを思い浮かべるように、聴覚や触覚などさまざまな感覚が言語理解に役立っていると言うのです。別の例では、「内野手が一塁に向かってボールを投げた」という文を聞くと、内野手がボールをとって投げる場面を思い浮かべ、その内野手の動作を想像することにより、その文を疑似体験しながら意味を理解しているのだそうです。

また、神経学者 Krish Sathian, MD, PhD の研究によると、”I had a rough day.” といった隠喩表現を含む文と、”I had a bad day.” といった隠喩表現を含まない文を聞いた時の反応を比較したところ、隠喩表現を含む表現を聞いた場合、脳内では、実際にサンドペーパーを触った時に起こる反応が見られたそうです。この例に見られるように、感触を表す表現を含む隠喩文を聞くと、脳内では、何かを触ったときと同様の反応が観察されるとのことでした。

これらの研究発表から、言語理解の過程においては、「言葉」を「言葉」として処理するだけでなく、さまざまな感覚をつかさどる脳の各部位が活性化しながら言葉の理解をしていることがわかります。

このように考えていくと、子どもが言葉を学んでいく過程においては、テレビやフラッシュカードなどを使ってドリル学習をするよりも、やりとり遊びなどの関わりの中で五感を使って体験しながら進めていくことがいかに大切かがわかると思います。子どもに早く言葉を覚えてもらいたいという思いが強くなると、つい言葉を「教えよう」「言わせよう」としてしまいがちですが、毎日の生活の中での関わりから生まれる体験こそが、子どもの言葉の発達につながるのだということを心にとめておいていただければと思います。

このインタビューは、以下のリンクで聴くことができます。
www.npr.org/blogs/health/2013/05/02/180036711/imagine-a-flying-pig-how-words-take-shape-in-the-brain

情報提供:言語聴覚士 鈴木 美佐子さん

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